第25話 王都の宿屋②

朝になったようだ。


 おもむろに目を開けるとミーシャさんが身支度をしていた。


 目を覚ました僕に気づいたようだ。


「お目覚めですか、フラートさん?」


 うん……結構寝れた気がする。


 この箱庭の異世界に来てからも疲れていたのに、王都にまで出向いてみるとなるとそれはもうもの凄い疲れである。


 昨日のミーシャさんのことを思い出して眠れないかと思ったけど、あっという間に寝ていた。


 頭はスッキリとさえている。


「朝ごはん食べに行きましょう!!

 ここの宿のご飯はきっと美味しいですよ!!!

 王女様は私へのご褒美も兼ねてここに泊めてくれたらしいですから!!」


 いつになくテンションが高い。


 ミーシャさんのテンションの高さに驚きつつ、僕は身支度をした。


 さて、腹が減ってはなんちゃら……

 朝ごはん食べに行きますか!!!


 フードを被ったミーシャさんとともに、宿の一階にあるレストラン「ロートバルト」に入る。

 一階には二つレストランがあったが、(もう一つはレストラン「スラバルト」)そっちは小ぢんまりとしていてしかも開いてるようではなかった。


 必然的に入る店は一択である。高級そうなレストラン。


 怖いのはこういう場で粗相をすることだが、その点はミーシャさんがきっと注意してくれるだろう……と思いながら席についた。


 店のスタイルは現代日本のレストランとそんなに変わらない。


 ウエイターさんがいて、呼んで注文するあのスタイルだ。


 周りをしばし観察して、そのような感じだとわかったのであとはお手の物だ。


 手際よく二人分の朝食を頼んだ。


 僕たちと同じように朝食を求めて多くの宿泊客がレストランにいる。


 格好は様々。

 昨日見たような商人の人が多いだろうか?


 それ以外にもどこか異国のお金持ち!!みたいな人もたくさんいる。


 朝食プレートがまず、一つ運ばれてきた。


 さすがにコース料理とかということはなく案外普通のーーでも多分高級なーープレートであった。


 純白な麦のパン、新鮮でみずみずしいレタスのようなサラダ。

 スクランブルエッグとウインナーのような食べ物。

 朝食としてのボリュームもなかなかで、見た目からしてもとても美味しそうだ。


 ウエイターの人は僕の方にプレートを置いてくれた。


 けれども、レディーファースト。

 ミーシャさんに先に食べてもらおうと思い、

「お先にどうぞ」

 とプレートを渡した。


 ウエイターの方が

「お水はいかがですか?」

 と聞いてきた。


 この辺のサービスも日本と大差ない。案外、文化的には暮らしやすいかもね。

 その前に国王の専制、苛政をなんとかしなきゃだけど。


「はい、お願いします!」


 と僕がいうと、ウエイターはなんの躊躇もなくミーシャさんの上に水をかけた。


 え??

 目の前のウエイターの行動が理解できなかった。


「あー、すみません

 申し訳ありません、すぐお拭きします」


 と、若干棒読み気味に言うとミーシャさんのフードを掴んでとった。


 そしてニヤリと笑うウエイター。

 顔が青ざめるミーシャさん。


「あなた、亜人ですよね?フードをつけていても分かりますよ?」


 亜人だって??

 なんでこの宿屋にいるんだ??

 汚らわしい。

 このような高級な宿屋にいるなんて図々しい。


 そんな言葉が周りから聞こえてくる。


 亜人の人は確かに奴隷とかになってるし、下に見られているのだろう。


「こちらのレストランは『人間』専用です。亜人の方は様々な観点の問題からこちらでお食事いただくことはできません。

 そのくらいお分かりですよね?」


 ミーシャさんに勝ち誇ったような笑みを向けるウエイター。


 なんだこいつ。

 腹が立つ。なんで亜人というだけで差別されるのだ??


「今から亜人専用のレストランを『わざわざ』開けてあげますので。

 どうぞごゆっくり。

 あ、それと。

 もう二度とこちらの宿屋には泊まらないでくださいね。

 あなたはルールを破ったのですから」


 そうだそうだ!!

 もう来るんじゃない!!

 亜人め、フードなんかで俺たちを騙していたのか!!


 別のウエイターがその微笑むウエイターのもとに駆け寄り小声で囁く。


「でも、その御二方はメアリー王女殿下のご紹介のお客様で……」


「え??なんだって?」


 はぁ?と言いたそうな顔でそのウエイターは続ける。


「あなた、国王様が定めた法律は知ってるでしょう。

 あなた、王女様を国王様より優先しようと言うの??

 我々赤正教の神の使徒のご子孫であり、現在のトップである国王様への謀反か??」


 そうだそうだ!!

 そこのウエイターも亜人の仲間か??

 ア〇だろー!!!


 聞こえてくるのは凡そこの宿に泊まるような身分の人とは思えないレベルの罵倒である。


 なんと低俗な……

 さすがに許せないな……


 怒りで机を叩こうとしたところミーシャさんに止められた。


「私は大丈夫ですから……

 それよりすみません、フラートさんにも迷惑をおかけして……

 今すぐ帰りましょう……」


 沈痛な面持ちでそう言ってくる。


 変に争いごとを起こすのも嫌だしなぁ……


「みなさん、本当に申し訳ありませんでした。

 今すぐ出ます……ごめんなさい」


 ミーシャさんはそう言って僕の手を取り、ウエイターには注文代金を払って、

 外につけてある馬車へと向かった。


 金払わなくてもいいのに。

 ……さすがに食い逃げはダメか?

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