第2話

「っ!?」

声にならない悲鳴が上がる。

背筋が凍り、その場から動けなくなる。

逃げなきゃ、と脳が危険信号を出すも意思とは反対に体は微動だに動かない。

正に蛇に睨まれた蛙。


怪物は目の前にいる莇を見た途端にその巨大な手で莇を吹っ飛ばした。

「!?…っお兄ちゃん!!」

恐怖で涙を流し嗚咽混じりに叫ぶ菫。


吹っ飛ばされた衝撃で莇の意識は簡単に堕ちていった。

最後に聞こえたのは泣き叫ぶ菫の声だった。







* * *







男は下から鬼を見ていた。


路地に鬼が現れた。

定期的に現れる謎の怪物、に目元を黒い布で覆った男はさも面倒くさそうに溜め息を吐く。

そしてビルの屋上から飛び、鬼のいる路地へと一直線に降りた。


その音に鬼は突如現れた男に目をやる。

目線が交わらない赤い瞳で鬼は男を威嚇した。

周りを見渡すと既に手遅れな女性と転がった青年、そして少し後ろに涙を流しながら震えた手で口元を覆う少女。



間に合わなかったか____



男は不機嫌に舌打ちをし、腰に付けていたサバイバルナイフのような短剣を握り締めた。


刹那、男は素早く移動し鬼の背後を取る。

そして勢い良く鬼のうなじに刃を入れた。

叫び暴れる鬼。


男は暴れた勢いで地面に着地する。

鬼の項には人間の血液よりももっと赤黒い血が流れた。

「さっさとくたばれよ、雑魚が」

イライラした口調でもう一度飛び掛かる男。

それを拒むように無闇に手を振り回す鬼。

予想のしていた動きだったのか男は軽々しく避け、換気扇が置かれた窓辺の屋根に足を置いた。

鬼は男を構うこと無く一直線に路地の出口へと向かう。



まずい。


そっちに行けば少女がいる。

更に路地の出口の近くには住宅街が並んでいる。

鬼が路地から出たら少女は踏み潰されこれよりももっと被害が出るだろう。


男はまた焦るように舌打ちをし、足に思い切り力を込め鬼の後を追う。

出口へと走る鬼は突如少女の前で足を止めた。

尋常では無いほど体を震わせ怯える少女を鬼は乱暴に掴む。

「っはぁ!?おいっ!」

そう言った男の声も虚しく鬼が少女を掴んだ途端、異空間のようなものが鬼の目の前に現れそのまま鬼は異空間と共に消えていった。



男が手に持つナイフが空を切る。

鬼と共に消えた少女は掴まれた時、気絶していた。




厄介な事になった。

男の額に青筋が浮かぶ。

もうこれ以上どうする事も出来なくなった男は大人しく腰にナイフを直し、壁沿いに転がっている青年に足を向けた。



青年は気絶しているだけで生きてはいた。

一先ず安否が確認出来ただけで一安心した男はまた溜め息を吐く。


ふと青年の足元を見ると付近のコンクリートは凍っていた。

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邂逅奇譚 白鯨 オルカ @karinkabosu

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