第8話出会いの記憶8

「にしても、これはひどいな。」

「そうだねー。数人の生徒だけじゃなくて、先生も凍ってるもんね。」


作戦を決めた後、俺と裕司はグランドに降りた。

俺と裕司で犯人を相手にして、上条と虹には後衛からサポートをしてもらう作戦だ。


「本当にアレを信じていいんだよな。」

「泥船に乗った気で、信じてよ。」

「何が言いたいんだ!?泥船だと沈むだろ!」

「あはは~。ま、気にしない、気にしない。信じて大丈夫だって。」

「……ここまで来たら無理でも信じるしかないだろ。」

「そうそう。」


駄弁りながらグラウンドを歩いていた。

少しずつ、この現状を作った犯人に近づいていく。


「お、見えてきたな。」

「ほんとだな。」


辺りが氷晶ばかりで視界が悪い。

幸いなのは、相手が俺たちを認識していないためか、凍らされる事はなかった。


「おーい、おーい。」

「おい、裕司!いきなり声かけるなよ!」


いきなり裕司が犯人らしき人物に、いきなり声をかけ始めた。

見つかっていなければ不意打ちで仕掛けると言う話だったのに、早速裏切りやがった。


「だ、誰だ!それ以上、近づくなっ!!」

「何もしてないのにひっどいな~。」


裕司がばらしてしまった以上、不意打ちは不可能。

こうなれば、話し合いに持ち込むだけだ。


「お前、ここで何してるんだ。」

「何って?決まってんだろ!復讐だよ!復讐!いじめ返しだよ!!」

「それなら、なんで先生まで巻き込んでんだ。関係無いだろ。」

「関係無い?関係無いだと!!……関係…大ありだ!!」


何度も『復讐』という言葉を異常に繰り返す。

その姿を見るに、先生達にも何か恨みがあるのかもしれない。


「いきなり怒る事はないでしょ。」

「こいつらはな、いじめを相談したのに、知らないふりをして今まで惨めな僕を見て笑ってたんだぞ!!」

「それでも、ここまでする必要なんてないだろ!」

「これだから何も知らない奴は困るんだ。僕はね、この前そいつらに学校の屋上から落とされそうだったんだ!そしてね、今日は先生を呼んで、何かしようと企んでたんだ。これを君達は黙って従ってろって言うのか?」

「それはひどいね~。僕なら引きこもっちゃうよ。でも…――」


次の瞬間、俺にも分かるような威圧を裕司は放っていた。


「冬樹、今。」

「おう、分かってるよ!」


言われるがままに突っ込んだ。

そしてタックルをかましてやった。


「うわぁっ!?な、何するんだ。やっぱり、お前らはあいつらの仲間なんだな。」

「嘘だろ。」


しかし、気絶させるぐらいに攻撃はしたはずなのに、直ぐに立ちあがった。

やり返そうと動きだすが、殴り出そうとする腕がいきなり止まった。


「な!?な、何をしたんだ!」

「ちょっと動きを止めたせてもらってるよ。」

「こんなところで、やられてたまるか!フラウ、僕に、力を!!!。」


その瞬間、吹雪が起きた。

そして、グラウンドがより氷に覆われていき、俺達の足までも凍り始めた。


「くそっ!動けなくても力を使えるのか!」

「ちょっとやばいね。それなら、プランBだね。上条さん!!」

「分かりました!ジャグルちゃん、お願いします。」

「はい、は~い。いったずら、始めちゃうよ~。」


校内に隠れていた上条が現れ、指示を出した。

すると、どこからか返事の声がし、吹雪の方向が変わり力を使った本人の方に向かった。

力の説明を聞いた俺ですら、その現象の説明のしようがないほど物理法則を超越し過ぎていた。


「な、なんでこっちに向かってるんだ!敵は向こうだろ!あっちだ、あっち…。くそっ!フウラ、どうにかしろ。」


しかし、その声は届くことなく、吹雪は俺たちではなく犯人の方へと吹いている。

そして、足のつま先、足首、腰とどんどん氷漬けになっていった。


「くそっ!どうしてだ!どうしてだ!!」


怒り交じりな声を出して叫んでいるが、下半身はもう完全に凍ってしまい上半身も侵食し始めた。

俺達はそれを見守るばかりで、完全に氷漬けになる時を待つばかりだった。


「あなたも、無理のようね。やはり、所詮は彼…あの子の代わり。完全には使えないようね。あなたならもう少し行けると思ったのだけれど、欲求はすごかったのに、器としては全然ダメなようね。」


いきなり、どこからか声が聞こえた。

それと同時に、


「う、う、ああああああああああ!!!」


犯人が狂気の叫びを訴えながら苦しみ始めた。

吹雪の強さも増していき、校舎の侵食が強まっていた。


「何が起きているんだ。上条、コントロールは!」

「ごめんなさい!コントロールが‥‥出来ないの!?」

「まずいね。暴走し始めたようだね。」


次第に俺達の全身が凍り始めた。

計画では、犯人を凍らして抵抗できないようにする手はずだったが、暴走してしまったせいで最初より状況が悪くなる一方だ。

このままでは、学校どころかその周辺の建物すべて氷漬けにされてしまう。


「虹、出番だ。俺が抑えるからその隙にっ…!」

「冬樹待て!さすがに今はさっきと違うんだ。冬樹も一緒に凍らされる!」

「そうだよ、桜城君!」

「それでも、誰かが行かないと、虹の能力は発動出来ないんだ。……任せたぞ、虹

!」


返事は聞こえない。

虹がいるのが校舎の屋上で、そこで全体を把握できるようにしている。

虹の能力の性質上一番離れた場所での待機だ。


虹の力は、能力を使用した本人しか見えないマーカーを付けられた人間が対象者に触れている事と、対象者を認識出来ているという2つの条件が揃っていれば使用者がどれだけ離れていても効果があるらしい。


今回マーカーが付けられているのは俺と裕司と上条。

この中で、能力を持っていないのは俺だけだ。

2人はまだ能力が使える以上、この後に備えてもらう必要がある。

だから、ここは俺の出番なのだ。

それに、失敗の2文字は俺の頭には浮かんでこなかった。


「おっりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「ゔっ!?」


しっかりとタックルをかましてやった。

そして、逃げれないように抑え込んだ。

たぶん、意識はもうなくなっている。

それでも、吹雪は止まらず、体のほとんどは、氷に侵食されていた。


「冬樹!!」

「桜城君!」


2人から心配の声が聞こえた。

が、今は構っていられない。


「今だ、虹!!」

『うん。まかせて、お兄ちゃん。お願い―――。』


そう、返事が帰ったような気がした。

それと同時に謎の光に包まれた。

その光は犯人の体を蝕むように俺から犯人へと移動していく。


その光が完全に移動し終えると、俺の体は脱力感に蝕まれた。

そして、光が収まると同時に上条と裕司が近づいてきていた。


「冬樹、しっかりして!?」

「桜城君、しっかり!?」


2人が声をかけてくれた。

しかし、意識を遠のいていくばかりで2人の声は徐々に聞こえなくなっていた。

意識が消えかける寸前に…。


『安心して。もう眠っていいよ。』

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