第7話出会いの記憶7

「ふっゆき~、帰ろ~ぜ!」

「そうだな。それにしても、お前、一々うざいな。」

「え、今そう言う所あった!?」


授業が終わった途端、後ろから気分よさそうな裕司が声を掛けてきた。

理由は、これから上条と一緒に俺の家まで行き、そこでちょっとした話し合いをするからだ。

だから、テンションが高くて面倒臭そうだった。


「知らん、ただの感想だ。」

「え~。まぁ、いいや。それより…、上条さんも!」

「え、あ、うん。少し待ってね。」


授業が終わったばかりだったので、上条は荷物をまとめている所だった。

すぐに終わると思うので、後は虹を待つだけだ。


そう思っていたら、携帯電話の着信音が鳴った。

連絡相手は虹だった。

虹がすぐに帰れるか聞こうと思っていたので丁度良かった。


「虹どうした。」

『今どこ~!』

「教室だな。」

『それじゃあ、兄やん校門で……?』

「…?どうした?」


電話を切ろうとした瞬間、不自然に虹が黙った。

携帯電話越しなので正しいかどうか分からないが、何かを見つめている感じか?


『…あれ…何…?』


さっきまで元気が良かったのに、だんだん弱々しくなる。

虹は一体何を見ているんだ?


「どうした?そんな声出して。」

『グラウンド…、グランドの方…!」

「どう言う事だ?」


グラウンドが一体どうしたって言うんだ?

言われた通り、席を立って窓越しでグラウンドの方を見てみる事にした。


「桜城君、どうしたの?」

「虹からグランドの方を見るよう言われたんだが………!」

「冬樹、どうしたの?」


言われた通りにグラウンドを見ると、驚きのあまり言葉を失ってしまった。

釣られて裕司も覗き込んでいたが同じように口を閉ざした。


「‥‥…これは、ちょっとやばいね。」

「桜城君、高坂君どうしたの?えっ…。」


上条も同じようにグランドを見てその荒れた景色を見て絶句する。

グランドは多くの氷で覆われて、何もかも凍らされていた。

雪は降っていないにどころかそもそも今は季節的に春終わりで雪が降るはずないにもかかわらず所々に大きな氷晶が出来ていていた。


「……さすがに二度目は無いと思っていたけど、今回はこないだと真逆で少し驚いたよ。」

「こないだとは真逆だな。」

「桜城君、どうするの!?」

「どうするって言われても……って、それより!!」


俺は一瞬忘れかけていた電話の相手に声をかける。


「おい、虹、お前は今大丈夫なのか!?」

『う、うん。』

「今どこにいるんだ!」

『1階のB組教室』

「わかった。まずはそっちに集合する。なんかあったらすぐに掛け直せ。」

『うん。』


俺は電話を切り、二人に話しかける。


「いますぐ、虹の教室に行く。」

「じゃあ、僕も行こうかな。」

「私も!」

「お前ら、無理だけはするなよ。」


すぐさま教室を飛び出した。

電話に出ている間は無事である証拠だが、もし通話が途切れてしまったらそれは虹が危険な状態である証拠。

たった数メートルの距離しかないのに、いつもより長く感じでしまった。


廊下を降り切ると、その勢いを殺さずに曲がり切り、虹の教室へと走り込んだ。

廊下に霜のようなものは多少で来てはいたものの、冷気が漂っているわけではなくて校内は未だ安全のようだった。


「兄やん、こっち!妃っち先輩、裕司先輩!」


教室の近くに行くと大きく手を振る虹がいた。

一先ず生きてはいるようで安心した。


「何にもなかったのか?」

「うん、まだ何もない。……けど、だんだん広がってる。」

「ああ、それは廊下を見れば良く分かる。」

「あれはスピードは遅いけど、凍ったら、結構やばいと思うね。」


裕司と上条が追い付いてきたようだった。


「これって誰かの仕業なのかな?」

「さすがに人の仕業ってことはないだろ。」

「でも、上条さんの言ってることは、間違いないと思う。」


まさか裕司がそんなことを言うなんて思わなかった。

ただ、こんなことは非科学的で、人間が出来るはずが無い。


「流石にあれは人間のできる限界を超えてるだろ。」

「この前の事件が一人の人間によって起きていたとしても?」

「裕司どう言うことだ?」

「ほんとは今日集まってから話す予定だったんだけど、実はね、―――」


一通りのことを聞いた。

俺が知らないこの前の事件の全貌、突拍子もない魔法のような話を聞かされた。


「はっ!?この前の燃えてたやつが、事件の犯人だってか!?」

「まあ、そう言う事だね。」

「うん。」

「そんな!?」


確認のため虹の方を見たが頷いていた。

そんな事がありえるのかと驚きながらも、どこか納得する所もあり何とも言えなくなった。


「なら、どうやって止めたらいいんだよ!」


仮に魔法の様な事だったとして、いったいどうすればあれを止められるのだろうか。

俺達は魔法のような事は出来ないから、太刀打ちすらできない。

ましてや、一般人である俺たちが立ち向かうこと自体、傲慢な考えなのかもしれない。


「そこでね、僕から提案なんだけど。……これ、持ってる人いる?この前の犯人の人も似たような物を見に着けてたんだよね。」


裕司が手を前に出した。

それは上条や俺が見つけた物に似たストラップだった。


「お前、それどこで見つけた!?」

「知らないけど、昨日気づいたらポケットにあっただけだよ。」

「あっ!それ私も似たの持ってる!」

「お前もか。‥…ま、事情は似たようなものだろ。」

「いや、昔からだよ。兄やんとおそろいって昔着けてたじゃん。」


???

流石にそんなはずはない。

こんな物は始めて見たし、もし見た事があるとして、こんなに印象的なものを忘れるはずがない。


「何の事だ?俺はそんなもの持ってなかったぞ。それより裕司、それがどうしたって言うんだ。」

「実はね、これは力が使えるらしいんだよ。」

「らしい?どう言うことだ。」

「なんかね、会話出来るんだよ、これと。」

「は?会話?何言って…」

「高坂君も話せるの?」


何を言っているんだと思っていたら、上条も怪しい事を言い出した。

しかも、神妙な顔つきでやけに不安げだった。


「うん。『も』ってことは上条さんも持ってて、同じ状況なんだね。」

「……うん。」

「上条、話せるなんて一事も聞いてないぞ!?」


この前、そんな話は一切もなかった。

あの日から全然話題に上がってこなかったから、気にしないようにしているだけだと思っていた。


「ごめんなさい。」

「しょうがないよね。こんな事相談しても頭が変な人としか思われないからね。」


確かにそうだ。

話したところで、俺が真に受けたかどうかは分からない。

それよりも今は、今後の話だ。


「力が使えるのは分かった。でも、それでどう戦うんだ?」

「ああ。ちょっとグランドの方見てみなよ。数人凍ってる。さらにその中心の方。」


氷晶をよく見ると、確かに何人かの生徒と教員の姿があった。

そして、その氷晶の中心には何者かの姿があった。


「あいつだけどうして‥‥」

「逆だよ。あいつだからだよ。それによく見て。」


言われるがままに目を細めた。

小さいからはっきりと確認したわけではない。

しかし、その特徴的な形は、上条が持っていたものと同じように見えた。


「あいつが首にぶら下げてるてるやつ、もしかして……!」

「きっとそうだよ。」

「じゃあ、そう言う事なのか?あいつが今回犯人なのか?」

「正解だと思うよ。」


となると、あいつを叩けばこの事態はどうにかなる。

だが、こんな事をしている奴をどうやって倒したらいいのか。

その疑問は未だに解決していない。


「兄やん、ちょっとこんがらがってきたんだけど。どういう事なの?」

「裕司の言う通りもしこのストラップに力があるのだとしたら、この氷はあいつが作り出したって事だ。」

「だから、あいつを倒せば氷が解けると思うんだよね。」

「で、そこからだが、‥…どう戦う気なんだ?」


俺は力があるわけでもないし、作戦は一つも思い浮かばない。


「まずは、上条さんと妹ちゃんに力を教えてもらわないと作戦なんてさせれないよ。あ、それと僕の力は、威嚇みたいな感じかな。」

「威嚇?いまいちピンとかないな。」

「それは、しょうがないでしょ。それが一番分かりやすいんだから。詳しくは、後で話すから。それよりも。」

「ああ、そうだな。二人とも力について話てくれないか。」

「私の能力は…、」


そうして2人に力も軽く聞く事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る