第6話出会いの記憶6
5月9日
「ふぁ~よく寝たな。それにしても、昨日のことは噂になってるか?」
今日の俺は、目覚めが良かった。
寝起きに、スマホに目を向ける。
『謎の石化事件』
『謎の血だまりが!』
『神社の神器の破壊による影響か』
『神様の天罰か』
最後のはよくわからないが、それらしい物が広まっているようだった。
ただ、どれも抽象的な内容ばかりで、ちゃんとした情報はなさそうだった。
「にしてもいつもより早く起きたな。……そういえば、昨日の人形虹に聞くの忘れたな。って、アレどこ行った?ほんと、勝手に現れてまた消えて……って、口にしたら少し不気味だな。」
一度考えたら、意識したくなくても意識してしまう。
そして、少しだけ寒気がするような感じがして、体を震わしてしまう。
「ちょっと早いけど先に行くか。」
その場にいる事に、不安を感じ登校する支度を済ませた。
そして、いつもより早く家を出た。
「あ、やべ。虹に言っとかないと、ずっと待ってそうだな。チェインで送っとくか。」
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5月14日
あれから1週間近く、なんだかんだ何もなかった。
それ自体は良い事ではあるのだが、胸にもやもやが残る。
「何もなかったんだったら、ため息つくことないじゃん。」
「そう言ってもな、逆に何もない方が暇過ぎるんだ。」
「兄やん。暇なのと危険ばかりなのどちらがいいの?」
「どっちもどっちだな。」
何もない日常より刺激のある日常を求めるのも人の性ってやつだ。
そして俺は、過去の人生から、その性を強く影響させられてしまったみたいだ。
「いや、普通暇な方を選ぶからね。」
「そういうのは、どうでもいいんだよ。それよりそろそろ着くぞ。」
「いや~、それにしても今日めっちゃ楽しみにしてたんだよね!」
「ま、正直びっくりしたけどな。」
「確かに、びっくりしたよ。こないだのお礼にって遊園地のチケットなんてくれるんだから。」
そう、俺らは今日超人気のテーマパーク『夢の国~DreamLand~』に来ている。
なんでも、上条の所の会社はこのテーマパークに少し縁があるらしい。
そこで上条から、
『私にできるお礼はこれぐらいしかないから。』
と、言うことでチケットを渡された。
最初は、俺、虹、と両親二人で行く予定だったのだが、
『すまんな。その日は、ちょっと、海外出張でいないんだ。』
『母さんもちょっと、友達と旅行に行く予定なのよ。それに、たまには友達と遊びに行きなさい。』
ということで、2枚余ってしまった。
そのため、暇な人を誘う事にした。
「あ!桜城君!虹ちゃん!こっちこっち!!」
「妃っち先輩!!」
「待たせてすまないな。」
「いいよ。私も着いたばかりだから。」
そう、上条を誘うことに成功したのだ!!
最初は『お礼で渡したんだから悪いよ。』と、断られそうだったが、虹のおかげでどうにか誘う事ができた。
そもそも、虹は両親より上条と行きたかったらしい。
これに関しては、ほんとマジでよくやったと思う。
虹のおかげで上条と出かけることができて、今回だけは虹を褒めてやる気になった。
「それであいつはまだか?」
「さっきまではいたんだけど、トイレに行ってくるって言って行っちゃった。」
そして、残った最後の一枚を渡したのは…
「あ、みんな揃ってるね。」
「おい、裕司!女子一人置いて、どっか行くなよ。」
高坂裕司だ。
ま、友達なんてこいつしかいないから当然なんだけどな。
さすがに、虹の同級生を誘う事には躊躇いが出た。
「いや~、そろそろ冬樹が来るかなって思って。それにしたも、上条さんって、30分前ぐらいから来てたんだよ。僕でも、15分前なのに。それにしても、冬樹はぎりぎり来るなんて、もう少し早く来なよ。」
「え、でもさっき上条今来たって…――」
上条の方に視線を向ける。
すると、顔を真っ赤にしていた。
「………」
「妃っち先輩、顔真っ赤だよ。もしかしてホントに30分前から待ってたの!?」
「………」
「まあ、しょうがないよな。遊園地だし。楽しみで早く来てしまうこともあるよな。」
さりげないフォローをしても意味ないなと思いながらもしてみた。
「‥そう…、だよ…ね。ある‥よね。それより、そろそろ、行こう?」
「そうだね。そろそろ、行こうか。」
「行こう!行こう!」
「よし、行くか。」
ぎこちなくはあるものの、何とか上条もモチベーションが戻った。
そうして、遊園地に足を踏み入れた。
初めだが、虹が走り出すものだから俺たちが選ぶ間もなく、一番長いらしいジェットコースターに乗ることになった。
開園したばかりなので待ち時間はそこまでなかったので、直ぐに乗れた。
「「「キャーーー!!」」」
乗ってみた感想としては、縦一列の座る所がないジェットコースターで速さも中々ありそれなりに楽しめた。
そして次は、国内で一番速度が速いジェットコースターに乗ることになった。
「「キャッ!!??」」
「「お~~。」」
速度が速いせいで、あまり長く座っていた感覚はなかった。
しかし、その速度が異常で結構体を持っていかれそうだったのが、逆に面白かった。
しかし、乗り終わるとすぐに虹が走り出して、次の乗り物に向かうので休憩なく片っ端から乗る事になった。
久々の遊園地に来たので虹がはしゃぎたくなる気持ちも分かるが、もう少し抑えてほしかった。
「妃っち先輩、大丈夫?」
「う、うん。久しぶりだったから、ちょっと、反応が大きくなっただけだよ。」
虹が、周りを気にせずどんどん乗ったせいで上条は少し疲れてしまったようだ。
俺も多少は疲れていた。
「妃っち先輩が大丈夫なら、次はあれにしようよ。」
「お、いいね~。」
「ちょっと、二人とも!?」
上条が心配させまい発した言葉に、何を思ったのかストレートに受け止めてしまった。
そして、面白そうな乗り物を見つけると、態度がすぐに変わった。
しかも、裕司まで賛成するものだから、上条が青ざめている。
「こっちにしないか?こっちで少し気持ちを落ち着かせるのもありだと思うが。」
俺は上条のためにあまり体に負担がかからない乗り物を指さした。
「確かにそれもいいね!」
「えぇ~!私は、もう少しはしゃぎたいんけど!妃っち先輩は、そっちがいいの?」
「私もこっちがいいかな?」
「じゃあ、私もこっちに賛成!」
「よし行くか。」
何とか虹の暴走を抑えれた。
しかし、その後も虹は動きの激しい乗り物を求めていたため、上条が終始青ざめた顔で笑っていた。
「あ、ちょっと私お花摘みに行ってくる!」
「僕もトイレに行ってくるよ。」
「じゃあ、俺らはあそこで休んでるよ。」
乗物から出ると、虹と裕司はそう言って行ってしまった。
俺は上条の様子を見ながら、近くのベンチに座らせた。
「さっきは、気を使ってくれてありがとうね。」
「えっ?」
「私が少し疲れてるって思ったんだよね?ごめんね。最近こういう所にほとんど行く機会なくて、ちょっと疲れちゃった。」
「別にいいよ。俺も最近来てなくて少し疲れてたから。」
上条ほどではないが疲れていたのは事実だ。
ただ、それ以上に上条が心配だったのも本当だ。
「桜城君は、本当に優しいんだね。」
「いや、ほんとに偶々だって。」
「それより…―」
上条が何かを言いかけた途端、電話の着信音が鳴った。
画面を見ると虹からだった。
「すまん、電話だ。」
「うんん。いいよ。」
電話のせいで上条が何を話そうとしていたのか分からずちょっと気になってしまう。
本当に虹はタイミングが悪い。
『お兄ちゃん、今どこにいる!?』
電話の向こうからの声はひどく緊迫したものだった。
焦りというよりは恐怖の類だ。
「さっきいた所だけど、お前どうした?しゃべり方が荒いぞ。」
『お兄ちゃん助けて!!』
「どうした!今、どこにいるんだ!?」
『トイレの所にいるんだけど、外に出たら火の海にになってて…』
「お前は大丈夫なのか?」
火の海ってどういうことだよ?
一体何が起きてるんだ?
慌てよう的に、冗談ではないんだよな!?
『ちょっと、僕に変わってね。聞こえてる?』
「聞こえてる。それより、裕司もいたのか。」
今度は裕司が電話に出てきた。
『ああ、それよりこっちなんだけど、僕ら自体には火はついてないんだけど燃えながら暴れてるやつがいるし、周りが火の海なんだ。しかも、何人かは、僕たちと同じように囲まれてる。』
「分かった。すぐに警察とスタッフの人に連絡する!すまない、虹を頼む!後、まだ電話は切るなよ。」
俺は通話を切らずポケットに突っ込んだ。
「桜城君、いったいどうしたの?」
「なんか燃えてるやつがいるらしい。しかも、周りが火の海だってよ。」
「ええっ!!」
いきなり言われても驚くだけだろう。
変な事を言い出しているんだ。
無理もない。
「すまないが、警察とここの責任者に連絡出来るか?」
「う、うん、任せて。でも桜城君は!?」
「周りのスタッフの人に呼び掛けるよ。そのあと、あいつらのところに行く。」
「それなら私も!」
「いや、さすがに危なすぎる。」
今2人の状況が本当に分からない。
そんな場所に俺一人ならまだしも、上条を連れて行けはしない。
「それでも、ただ黙って見過ごせないよ。」
「なら、俺が危ないと思ったらすぐに逃げてくれよ。」
「うん。」
これ以上言っても意味がない。
なら連れて行くしかない。
ただ、ちゃんと逃げる時は逃げるように促してから、俺たちは走り出した。
そして、もう一度携帯を取り出し、裕司たちがまだ大丈夫かの生存確認をした。
「おいそっちは、まだ大丈夫なのか!」
『何とかぎりぎりね。火は、結構近くまで来てるけど。』
「それは大丈夫って言わねんだよ!!今なんとかそっちに向かってんだけど、うわっ!」
『ちょっと、冬樹!?』
「すまない、少し話を止めるぞ。」
『え、ちょっと…』
目の前の光景に絶句しかなかった。
目の前の先はまさに火の海。
それ以外の形容が出来ないほど燃え盛っていた。
しかし、一面の火の海は燃えているわけでもなく、ただ単にそこにあるようにまるで飾りのように広がっていた。
「これどうなってるの!?」
「分からない。ただ、あの向こうに虹たちがいる。」
「それよりどうやって向こうに?」
一緒に来た上条も追いついた。
しかし、こんな非現実な光景を見てお互いに冷静になれない。
俺はもう一度携帯を取る事にした。
「おい、そっちは逃げられそうにないのか!?」
『ちょっと無理そうかな。そろそろ危ないかも。』
『お兄ちゃん、もうダメかも!?』
「暴れてるやつがいるんだろ?そいつを抑えることもか!?」
『火の海のど真ん中にいるんだよ。さすがに無理かな?」
虹たちが危ないって言うのに、俺達はこれ以上何も出来ない。
それがとても悔しくて、動かせない足の代わりに、ただ手を握りしめる事しか出来なかった。
『もうちょっとしたら、時期収まるわよ。』
「………っ!?」
「どうしたの、桜城君?」
「今誰かが…。」
言いかけた時、いきなり火の海が消えた。
ほんの一瞬だった。
まるで手品のように瞬きする暇もなく、そこにあったはずの火の海がまるでなかったかのように消えてしまった。
「いったい何が起きたんだ!?」
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5月15日
「おっは~、ふっゆき~。」
「おは~。」
教室の中に入ると、いつものように裕司とあいさつを交わす。
まるで日常に戻ってきたようだ。
「今日も、つまらなそうな眼をしてるね?」
「そりゃ、昨日みたいな事があった次の日なんてみんなこんな感じるだろ?」
「いや~、冬樹だけでしょ?それであの後何もなかったわけ?」
「それが虹がくっついたままでめちゃくちゃ困った。」
あんなに生意気なのに内心ビビりだからあれ以来家の中では引っ付きまくってきて困っていた。
そして原因の昨日の事件、それは突如としていて幕を下ろしたのだが、突然の終わりにあまり納得出来ていなかった。
―――――――――――――――――
――――――――
――――
――
―
「これは一体どうなってるんだ?」
「いきなり火の海が消えた、よね?」
全面火の海だったのが、一瞬にして何もなかったかのように消えた。
まるで、元から無かったかのように姿を消した。
「それより、あいつらの所に行くぞ!」
「う、うん。そうだね!」
俺たちはまた走り出した。
ただ、男女の足の速さは大きな差があり、俺が2人の元へ着いた時には上条を置いてきた図になった。
「お~い、冬樹!こっちこっち。」
「お兄ちゃ~ん!!」
「お、おう。そんなに泣いて引っ付いてくるな。汚れるだろ?」
俺が2人の元に着くと、鼻水と涙を流している虹に抱つかれた。
遠目から見たら家族団らんみたい感じるのだろうが、俺からしたら汚いものを擦り付けられているようにしか感じない。
「だって~、だって~……」
「ああ、もう、わかったから、まずは落ち着いて離れろ。」
「うん。」
半ば強引に落ち着かせる。
こういう時の虹は言う事を素直に聞いてくれるからありがたい。
「折角の感動の再会だったのに、厳しいね。さっきまで、『お兄ちゃん、お兄ちゃん』って泣いてたんだよ?」
「お前が虹の真似すると、笑いをとろうとしてるみたいで、しかも、キモく聞こえる。」
「それは、心外だなー。ウケなんて狙ってないよ。」
「はぁ、はぁ。二人とも無事、だったんだね。」
後から送れて上条も到着した。
息が上がっていて、急いでいたのが良く分かる。
「上条さんもこんな危険だった所によく来たね?」
「心配だったの。それより、大丈夫そう、だね?桜城君が、とても早くて少し遅れちゃった。」
それに関してはめちゃくちゃ反省してる。
上条の事も気にするべきだった。
「冬樹…そんなに心配だったんなら、あんなに厳しく言わなくても優しくすればよかったのに。」
「それはそれ、これはこれってやつだ。それより、虹。上条まで心配させたんだからちゃんと謝れよ。」
「うん。妃っち先輩、すみませんでした。」
涙目になりながら虹が謝る。
「虹ちゃん、謝らなくていんだよ?わたしがそうしたかったから、ここに来ただけだから。」
「でも…。」
「それよりも、女の子なんだから笑って。泣いてるより、笑ってる方が可愛いんだからね?」
「うん。」
まるでお姉さんかのようなふるまい。
これも、上条だからなのかもしれない。
「それで、何があったんだ?」
「それは、明日にしない?こんな状況だし。」
「ま、それもそうだな。」
こんな状況だ、どうせまともな事は聞けないかもしれない。
なら、一旦冷静なるためのクールタイムを設けた方がいい。
「って事で、明日の放課後は冬樹の家に集まるってことで!上条さんは大丈夫かな?」
「うん。バイトも入ってないから大丈夫だよ。」
「俺の許可は取らないのかよ!」
何か勝手に俺の家に集まる形になっていった。
家主を差し置いて決めるなんてどうなってるんだ!?
「別のにいいでしょ。」
「ま、いいんだけどな。」
良いんだけどさ、やっぱり最初は家主に許可を撮れよ。
―――――――――――――――――――
―――――――――
―――――
――
―
こんな感じで終わった。
「そろそろ授業が始まるぞ。」
「あ、ほんとだ!じゃ、後でね~。」
そう言って裕司は席に戻った。
放課後はついに事件の真相が分かる。
石像と炎の海の件は、どちらも何らかの関係があると思う。
一般市民の俺が知る権利はないと思うが、心の中で何かを期待していた。
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