第3話出会いの記憶3

家に着くと、何かをする気力が出ずダラダラしていた。

そして、気づけば夜になっていたのだが、部屋には虹がまだ居座っていた。


「なんでまだお前居んだよ。」

「何言ってるの?今日も泊まるからに決まってるじゃん?この荷物の量見て気づけよ。それより、風呂入ってくるから覗かないでよ。」

「覗くわけないだろ?それなら、俺は散歩してくる。」


ダラダラし過ぎて、今になって体を動かしたくなってきてしまった。

それに、久々に神社に行ったのもあって余韻がまだ残っていた。

なので、神社の方へと向かったが、昼間では賑わっていたのに今では誰一人といない真っ暗な場所となっていた。

体を動かしたいと言っても激しくというわけではないのでゆっくりと歩きながら一周した。


「ん、なんだこれ?」


歩いている途中に見つけたベンチに、月に照らされて光っている何かがあった。

よく見るとストラップ見たいもので、よく見えるように月に照らしてみた。


「これ、…ガラスのストラップ?…いや、この光の透き通り方が違うな。宝石のついたストラップか?」


なんでベンチの端に置いてあるのかと思ったが、誰かが地震の時に外れた事に気付かず忘れて行ったのかもしれない。

でも、持ち主は分からないし、ここに置いたままにするわけにもいかない。

けど、交番に届けて持ち主と入れ違うわけにもいかないし、ベンチの上の置いておいた方がいいのか?


「置いていくか…。」


ストラップを元の位置に戻して、俺は家に帰る事にした。




5月8日


「はぁ~。もう学校か。5日間も時間があったのに、もう休みがないのか。」


結局あの日から、グダグダと過ごしていたせいで休みが一瞬にして消えて行った。

せっかくの休みだし、色々楽しい事をしようと思ったのに、いつのスキップされたように時間が早く経った。

気が付けばぐうたらするだけの休みへと成り果てていた。

しかし、5日間も休みだったせいで学校に行く事に抵抗もあったが、それでも行かねばと重い体を起こした。


「ん、それよりなんだこれ?」


床に転がっていたものを拾い上げる。

俺の部屋に似つかわしい人形がそこにはあった。


「虹の物か?なんかのアニメのキャラクターの人形だと思うけど、あいつどんな趣味してんだ?」


人形は正直ブサイクであり、高校一年生の趣味にしてはあまりよろしくなさそうだった。

それでも、兄として妹の趣味に文句を言うわけにもいかないのでここは黙っておこう。


後は、この人形をどうするかだが、絶対持って帰り忘れたやつだろし、どうせまた来るからそこら辺に置いとけばいいだろう。

いつの間に入り込んでくることがあるし、忘れ物なら黙って取りに来ると思う。


時間を見れば登校には少し遅い時間だった。

嵐のように急いで身支度を整えて家を出た。

階段を降り、少し小走りで駅の方まで向かうと虹が待っていた。


「お、兄やん少し遅いよ。もう少し早くしてよ。待ってる美人のことも考えて行動してよね。」

「お前、少しうるさいぞ。お前が勝手に待ってるだけだろ?」


何故か、怒り気味だ。

待ち合わせなんてせず勝手に待ってただけなのに文句が多いし、自分の事を美人と抜かしてやがる。

ここは、少しおちょくってやろう。


「それより、どこの美人が俺を待ってくれてんの?もしかしてお前、友達でも連れてきてくれたのか!?兄ちゃんうれしいぞ!で、美人さんはどこだ?見当たらないんだが!?」

「む、美人はここにいるんだけど、ここに・・・。」

「え、お前もしかして、自分のこと美人だと思ってんの?」

「流石に、怒るよ!!」

「はいはい、それよりお前、本当に友達と学校に行かないの?毎日、俺と登校してるとブラコンだと思われるぞ?しかも俺がシスコンだと思われるから、そろそろ友達と行けよ。」

「兄やんは嫌なの?」


なぜか真顔で、虹に問われた。

俺が説教しているはずだったのに…。


「そこまで言ってないけど、お前だって友達と行く方が楽しいだろ?」

「うんん。別にそこまで変わんないよ?それより早く行こうよ!」

「ああ、お前がそれでいんなら別にいいけど。」


そう言っていつも通りの道をたどって、学校に行った。



~~~~~~~~~~~~



「へ~、選ばれたんだ。ちゃんと上手くいったようね。いい実験になるわ~。契約だから努力をしたつもりだったけれど、こればかりは運しだいだものね。ん~、あっちは上手くいったし、後は彼が見つけるだけね。そろそろ、時が来るみたいだし、私もあの子のもとへ行かないと‥‥。桜城冬樹、後は自分の力で何とかする事ね。ふふふっ。」


1つの声が、静かな部屋に不適な笑みをもたらした。



~~~~~~~~~~~~



学校に着けば一番最初にうるさい奴に絡まれた。


「お!おっはよ~冬樹。上条さんとどうだった?」

「お前、登校初日にそんな事しか聞けないのか?後、本当に上条とは何にもないからな?それに上条だって変な事言われて困ってるだろうが。」


そう言って、上条の方を向いた。

しかし、俺が思っていたような反応を上条はしていなかった。


「あれれー?上条さん顔が少し赤くなってるよ?本当になんかあったんじゃないの?」

「ちょっと、上条、本当に何もないよな?」

「えっ。うん。何も、ないよ?」

「ほんと?顔が赤いよ~?」


本当に何もなかったが、ほんのりと頬を赤らめていた。


「えっと、ほ、本当に何もないから。顔が赤いのは、た、たまたま、少し熱っぽいだけだから。」


それはそれで心配だ。

あれだけ頑張っていたから、疲れが出ているのかもしれない。


「熱っぽいんだったら保健室に行った方がいいんじゃないか?昨日頑張ってたし、疲れが出てたんじゃないのか?」

「だ、大丈夫だから?ね?」

「上条が良いんだったらいいが‥…?」

「あ~あ、いいな~。上条さんと彼氏彼女みたいな関係で。独り身の僕は邪魔って言いたいのかな?ほんと、いつ手を出したのかな~?」

「お、お前、いきなり変なこと言うなよ!変な噂が立つだろうが。それに上条にも迷惑かかるだろうが。」


マジで変なこと言うなよ!

この学園に、上条の名前を知っている奴と同じ数だけファンがいるんだ。

本当に付き合っているなら胸を張って言うが、そうで無いから変な噂を流されたくない。

そのファンとやらに背中を刺されかねない。


「…………………」


それとは裏腹に上条は、余計に顔を赤らめて黙ってしまった。

そのせいで、みんなが口々に、言葉を漏らす。


『桜城君、上条さんに手を出したらしいよ。』

『え、上条さんってお嬢様よね?大丈夫なの?』


『”く”っ”そ”ー”!!桜城ばっかり!!!」

『やっぱりイケメンだからか、イケメンだからか!?』

『少しイケメンだからって。』

『くっそ、こうなったら。』


クラスの雰囲気がどんどんと悪くなる。

裕司のせいで収まる気配が無くなったにもかからず、言い出した本人は全く気にする気配がない。

今までもたまにこういう事はあったが、たいていの事は予冷がなって授業が始まって忘れ去られる。


「みんなー、席についてー!そろそろホームルームを始めるよ。」

「お、ナイスタイミング。」


いつものように予鈴がなって、授業が始まった。

本当のところ、裕司が狙ってやっているのではと思うことがある。

が、こうして無理やり話を収めることができた以上追及はしない。

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