第2話出会いの記憶2
5月3日
『………』
「本当ですか?」
『………』
「分かりました。」
『………』
「分かっております。巫女との接触も出来ています。後は、……を回収するだけですが、どうしますか?」
『………』
「なるほど、代行者がいるのですね。それでは私は、伝達者として今後動けばよろしいのですね。」
――――――――――――――――――――――――――――――
「~~~ん?もう朝か。」
「おはよう兄やん。」
「ああ、おはよう……ってなんでいるんだ。しかも同じベットに。」
「兄やん、何言ってんの。もう昨日のこと忘れたの。あんなことがあったのに。」
「あんなこと。」
昨日、確かメモリアルに行った後、寄り道せずに帰ってきた。
そのあとは、‥‥。
「あっ、その顔思い出した感じだね。ほんと、夜遅くまであんな事や、こんな事までやったのに。」
「何があんなことやこんな事だ。勝手に夜に来たと思ったら、泊めてくれって言いだして、母さん達にちゃんと連絡してるのか確認したり、今日の事について事前に確認したりしてたら遅くなっただけだろうが。……それより、無駄な事言ってないで、行く準備するぞ。」
「へいへい。」
虹は文句を垂れながら起き上がる。
俺も体を動かし、支度を整えて家を後にした。
向かうのはもちろん神社だ。
さつきちゃんから頼まれていた祭りの手伝いをするために。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「まだ出店も開いてないのに人多いね。」
「一応、上条の会社がイベントをしてるらしいからな。」
あたりを見渡したすとスタッフテントの周り以外は多くの人で溢れかえっていた。
普段ならここまで人が集まるわけがないので虹が驚くのは分かる。
「お、桜城兄弟来たようだね。10分前に来るなんて偉いね。」
「おはよう、さつきちゃん。けど、虹と一緒にするなんて、俺に失礼だろ?」
「何言ってるのさ。それはこっちのセリフだよ、兄やん?」
軽い言い合いを終えると、いつものように話し始めていく。
最近困っている事はないかとかの雑談でここからが大切な話。
「それよりも、役割に変更はありますか。」
「特にないね。もともとそんなにやることないんだから、遊んでても大丈夫だよ。」
あれだけ多くの人を誘導するためにスタッフが走り回っているのに、流石にそれはどうかと思う。
それに、神社の巫女をしている人の言うセリフではないと思う。
「わ~い!じゃ、兄やん遊ぼうよ!」
「馬鹿か!遊んでられるか。よくあれを見てみろ。あんなに頑張ってる上条に対して、俺も働かないわけにはいかないだろ。」
偶々頑張って働いている上条の姿を見つけたので虹に見せつけようと思った。
まだ始まっていないので、裏方の仕事ばかりを手伝っているようだった。
「って、アレめっちゃ露出度高くない?えっっろ!!それを見つける兄やんは、下心丸出しだしのスケベ!!」
「はぁ!?!?」
服装をちゃんと見ていなかったので思わぬカウンターを受けてしまった。
虹の言ったように、肩や腕、腰回り、太股より下など露出度が高い服を着ている。
多分、今回のイベントに関連したキャラクターの服装だと思うが、社長の娘にあそこまでさせるか?
「上条さんはね、お父さんの会社だからって言って、一番きつい仕事を引き受けたのよ。」
「さつきちゃん、先生として生徒の名誉を傷つけるかもしれない事させていいのかよ。これはこれでよかったけど。」
確かに、上条が着る分には似合っているので、見る側からすれば目の保養になるだろう。
ただ、高校生と言っても、女子生徒に着させるのはいかほどと思う。
「止めたんだけど、上条さんがどうしても譲らなくてね。」
責任感の強い上条なら確かに譲らなそうだ。
少しだけ先生達を責めた事に対して撤回しなければならないかもしれない。
「ま、それよりもここに溜まってないで、動いた動いた。」
「「はいはい。さつきちゃんも頑張って。」」
俺たちも遊びに来たわけでもないので、打ち合わせに決められた持ち場に向かった。
あくまでしきたりのの手伝いなので、アニメのイベントの方は別のスタッフ担当だが、開催場所が同じなのでたまにそっちの手伝いもしないといけない。
それに伴って興味のないアニメのイベントを盛り上げる手伝いもしないといけないので大変だ。
最初の方は、人が多くて大変だったが、昼にかけて人が減り楽になった。
早朝から待つ人はいても、イベントでやる事なんて大した数があるわけではないので想定の範囲と言っていい。
むしろ予定導り過ぎたので、休憩もスケジュール通りにとる事が出来た。
しきたりは舞の奉納までは済んでいるが、舞の奉納は唯一限られたさつきちゃんの出番だから見れなかったのが残念だ。
学校ではちゃらんぽらんしていて、しっかりとしている所を見る機会がないから見ておきたかった。
その後、虹と合流して昼飯を取ることになっていたのであいつの持ち場に向かった。
「兄やん、こっちこっち。」
虹が大きく手を振っていたのですぐわかった。
虹も相当汗をかいていて、ちゃんと手伝いをしてたのが良く分かった。
「それじゃあ、近くのお店でいいよね?」
「ああ。」
そうして歩き出そうとした時、当然異変が起きた。
「きゃあぁっ!!」
「なんだ!?地震か!?虹そこを動くな!!」
そういって、虹を覆いかぶさるようにかがんだ。
それと同時に、色んな所で、悲鳴があがった。
突然の事でちゃんとその場にかがむ事が出来た人もいれば、動けずに尻もちをつくように倒れた人が出た。
そして数十秒後、あれだけ大きかった地震は嘘のように止まった。
第2波が来るかもしれないので、ちゃんと確認を取ってから動き出す。
「やっと収まったか。虹、もう大丈夫だ。立てるか?」
「うん、大丈夫、お兄ちゃん。」
「それじゃあ俺はさつきちゃんのところに行ってくる。虹は、テントのところでスタッフの人の手伝いを頼む。たぶん、人手が欲しいはずだから。」
あたりを見渡すと、何が起こったのか分からないと言う人が多くいた。
こういう時にちゃんと動かなければ、ここに居る意味がない。
「でも、お兄ちゃん。」
「神社の中は地震の影響で荒れている可能性があるから危険だ。今は言うことを聞いてくれ。」
「ごめん。…じゃあ気を付けて。」
そう言って虹はテントの方へ走っていってくれた。
それじゃあ俺も行くか、神社の方へと向かった。
神社の中に入るとすぐにさつきちゃんと合流できた。
「さつきちゃん、今どうなってんだ。」
「ん、冬樹君。大丈夫だった?」
「はい。俺も虹も大丈夫です。」
「そっか、それはよかった。それでね、神社の中がいろんなものが倒れて大変なのよね。しきたりも途中で中止になりそうだし、大切なものが落ちて壊れたってお父さんが大慌で大変かな。」
入った時に目にしていたが、多くのものが落ちて割れたりしていた。
だから、さつきちゃんのお父さんが慌てるのも無理はない。
けど、さつきちゃんは結構冷静。
「えっ。それって結構大変なことなんじゃ‥。」
「どうせ古くから置いてある偽物の神器とかなんだから、慌てることなんてないよ。」
「さつきちゃん、巫女さんなのにそんなこと言っていいの?」
「だって、普通に考えて数千年も前の物があんなに綺麗なわけないじゃん。」
マジでこの人は、巫女らしくない巫女だ。
神器と言えば、神社にとっての宝であるのだから普通なら焦るもんなのだが。
「いいんだよ。巫女なんて、ただの肩書なんだから。ま、そんなとこだから心配はいらないよ。それよりも、イベントの方が大変だと思うからそっちを手伝ってあげて。」
「分かりました。それで、イベントの方って中止だよね。」
「さすがに大きい地震があった後だからね。」
「それじゃあ、落ち着いたらまた戻ってきます。」
そう言って虹が手伝っている方へと戻った。
案の定スタッフテントにはイベント参加者が殺到して大変そうだし、多くのスタッフが走り回っている。
俺も簡潔に手伝えることを聞くとすぐに動き出した。
虹とまともに話せるようになったのは、1時間後の事だった。
「あ、兄やん。さつきちゃんの方はどうだった?」
「本殿の中にあるものがいろいろ倒れたらしいが、それ以外は大丈夫らしい。」
「それって大丈夫なの?結構やばいんじゃ…。」
「俺も最初はそう思ったんだけど、さつきちゃんが大丈夫って言ってたから。」
「それならいっか。それより、こっちの手伝いに来たんでしょ?人が多くて結構きついんだよ。」
「分かった。」
それから、増え続ける参加者に対して混乱を招かないように対応していった。
一時は落ち着いたが第2波が押し寄せてきて、それを片付けるのにさらに1時間ぐらいかかっていた。
それから、虹と共に神社の方へと向かった。
「あ、いた。おーい、さつきちゃーん!!」
「お、桜城兄弟。イベントの方は、大分片付いたのかな?」
「はい。それで今後のについてなんですけど…。」
「えっとね、このまま帰っていいよ。ただのアルバイトだし、片付けまで手伝わなくていいよ。」
おじさんたちが人手が足りなくて手伝えと言われるかと思った。
かなり体力を消耗して有り難いが、本当に大丈夫なのだろうか?
「やったー!それじゃ、兄やんの奢りであそこのお店のパフェ食べに行こうよ!」
「行くか!!それより、本当にいいんですか?」
「うん?そう言ったつもりだったけど?」
「いやだって…」
ある程度は落ち着いたと言っても、完全に収まっていない。
未だに頑張っているスタッフもいるわけだ。
例えばあそこ。
『みなさん、立ち止まらずにスタッフの指示に従ってください。』
参加者に呼び掛けている上条の姿があった。
今も、混乱したお客さんたちを鎮めるために率先して頑張っている。
「上条さんが今も働いてるから帰れないって言いたいんでしょ?」
「兄やん、上条先輩ににカッコちゅけたいの?」
「違うわ!!」
『ちゅけたい』って煽りのつもりか、あぁ??
こちとら断じてそんなつもりちゃうわ!!
全くだ。
美少女の前でカッコつけたいとか思ってないし!!
「兄やん、カッコつけた所で、相手が相手だよ?米粒程度にしか認識されないよ?」
「やってみなきゃ分かんないだろうが!!」
「冬樹君、先生の前でそんなことしていいと思ってるの?」
黙って聞いていればすき放題言ってと言わんばかりにさつきちゃんが入ってきた。
教師としてなら分からないでもないが、今は巫女だからな。
「独身の先生だから、今から恋人出来てないとやばい事ぐらい分かってるでしょ?」
「ちょっと何言ってるのか分かんないなー??そんなこと言う生徒は、今すぐ帰らないと、お父さん達にしばいてもらうよ?」
軽く煽ったつもりだったが、ラインを超えたようだ。
おじさんはさつきちゃんに甘いから、言ったらすぐされそうだし、しばきを食らわせられるのは勘弁してほしい。
「あ、はいっ!すぐ帰ります。虹、帰るぞ。」
「はいはい。じゃあね、さつきちゃん。」
さつきちゃんに成すすべなく逃げるように帰宅した。
「あ、そういえば言い忘れてたけど、お父さんたちが、神器が壊れたせいで落ち込んでるから、アルバイト代は出ません。」
「えっ、そんな、嘘やん。」
結構働いたつもりだったのに、アルバイト代ゼロとか憲法的にどうなんだよ。
最後の最後に爆弾を落とされて、落ち込みながら家に帰ることになった。
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