記憶を届けて
雪の降る冬
始まりの記憶
第1話出会いの記憶
空は黒く、辺り一帯は何もなくなっていた。
一人、また一人と仲間が倒れていく。
そして、残っていた最後の少女もあっけなく倒れてしまった。
そんな彼女を優しく抱きかかえると、冷たくなった体温が現実を感じさせる。
闇に飲み込まれた世界に取り残されてしまった俺は、後悔しかなかった。
どうにか出来る、助ける事が出来る。
その思いだけを糧にしてここまで進んできたのに、また同じ道を通ってしまった。
「冬樹……様。ごめん、な、さい。」
誰もいないその場所で、少女を抱えながら泣き叫ぶ事しか出来なかった。
間違えないように、助けられるように、今までやってきたはずだった。
それでも、結果は同じだった。また間違ってしまった。
どうして。何が悪かったんだ。どこがいけなかったのか。
頭の中で色々な疑問が飛び交う。
それでも答えは出ないまま、時間が過ぎていく。
そうして、気づいた時にはそれはすぐそこまで近づいていた。
禍々しいそれは全てを飲み込む。
死んでいった人間の怨念、憎悪が飛び交う。
その中に、俺たちを引きずり込もうとしている。
いっそのこと、あそこに入れば‥…なんて思えば、一瞬の内に飲み込まれる。
もう時間はない。
この世界はもうじき終わる。
何もかもが手遅れになってしまったんだ。
だからもう一度だ、今度こそ救ってみせる。
次こそは、うまくやってやる。
…さあ、時間だ。またあの時に戻ろう。
この力がなくなるまで、何度でも挑んでみせる。
待っていてくれ!
――――――――――――――――――――――――――――――
5月2日
「はっ!今のは一体…。」
夢で何か壮絶な物語を見た気がする。
昔見た演劇?それともテレビの映像?
どちらにしろ、心を抉られるような胸糞悪い気分になってしまった。
「……て、何の夢を見ていたんだっけ?」
さっきまでは覚えていたはずなのに、一瞬にして記憶が無くなっていた。
こんな事人生初めてかもしれない。
「まっいいか。忘れたってことは、どうでもいいってことなのだろう。それより学校に行く準備でもするか。」
忘れた事をこれ以上言及しても出てこないと思い、それなら他の事をしようとそっとベットから腰を下ろした。
「にしても。やっぱり誰もいないなー。1年もこの生活をすればなれると思ったのにな。」
見渡しては、毎日のように言った。
俺は、
どうしてこんなことになったかというと、簡単に言えば親離れをして一人暮らしがしたかったのと、妹が部屋が欲しいって言ったせいだ。
親父は、妹には昔っからとても甘かった。
それもあったおかげでこうして生活できたし願ったりかなったりだったけど。
「今日も、栄養補給ゼリーでいいか。」
朝はお腹に入らないほうなので朝食代わりに栄養補給ゼリーをグイッと飲む。
そして、すぐに制服に着替えた。
「そろそろ行くか。」
鍵を閉めて、マンションの階段を降りた。
すると、見たことのある一つの影があった。
「おっそいよ兄やん。少し待ったんだからね。明日からゴールデンウィークなんだから、今日ぐらいちゃんとしてよ。」
「うるさいな。誰も待ってほしいなんて言ってないんだから、勝手にいけばいいだろ。それとも、入学してから一か月、結局友達ができなかってのかよ。かわいそうだな。しょうがない一緒に行ってやるよ。」
このうざったい奴は、桜城
名前が厨二っぽくて、よく「にじちゃん」なんて、言い間違えられる。
読み方の由来は、虹は七色だからっていうことらしい。
これほど憎まれるような名前を考える親に、似たんだなと思い知らされる。
「何言ってんの。友達ぐらいできたよ。逆だよ逆。1年経っても友達ができなかった兄やんのために、一緒に登校してるんだよ。逆に、敬うべきだよ。」
「おまえこそ、何言ってんの?誰を敬うって?それに、友達ぐらいいるし。」
「じゃあ、今度紹介してよ。男女二人ずつ。」
「っ!!」
「あいたっ!」
痛いところを突かれたので、代わりに頭をこついてやった。
本当に生意気な奴だ。
「ほらやっぱりいないんじゃん。いてて…」
「一人だけいるんだ。」
「……いや、まあ、ごめん。」
何謝ってるんだよ。逆に悲しくなるわ!!
こっちだって友達が欲しいが、誰に似たのか目つきが悪いせいで女子だけでなく男子からも少し距離を置かれてるんだよ。
唯一友達になったやつは、クラス全員と仲が良くて少し変なところがある奴でもある。
だから、友達になったって言っても、単なる興味本位ぐらいだと思う。
「ったく。もう行くぞ。コンビニで昼飯買ってくるから遅刻しないように早くいくぞ。」
「はいよ。」
何か一つ言おうと思ったが、それこそ言ってしまえば兄としての威厳が崩れそうだったので心の中にしまっておいた。
~~~~~~~~~~~~~
「お!ふっゆき~!おっはよー。」
「お前もいつもみたいにうるさいな。」
「ちょっと、ひどくない?せっかく声かけてあげてるのに。」
「はいはい。ありがとうごだいます。(棒読み)」
教室に入ってからいきなり話しかけてきたのは、俺の唯一の友達、
ダルがらみをするような変な奴だ。
身長は低いが、顔が良いせいでクラスの中で人気者だ。
「今日は、いつもなくダルそうだねー。目つきも悪いし。」
「目つきに関しちゃあ、生まれつきだ。ダルそうなのは、明日が休みなのに、学校が今日あるからだ。」
そう、俺がこのクラスで友達ができなかったのは、本当に目つきのせいなのだ。
自分でも目つきをどうにかしようとしているのだが、直す事が出来ずみんな怯えて近づかない。
「それで聞きたいんだけど、明日空いてる?せっかくだし、みんなと遊びにいかない?」
「断るよ。どうせ俺が行ってもみんな怖がるだろうし、それに先約がある。」
「先約!!もしかして
「なんでそこで上条が、でるんだよ。」
上条と言うのは、同じクラスの女子。
名前は、
簡単に言うとお姫様のような存在。
この街で一番有名な会社の社長の娘で、貴族様でありながらデカい態度ではなく、誰にも優しく接してくれる美人。
責任感とリーダーシップを持ち合わせ、勉強と運動は文武両道と言っていいほど出来た完璧お嬢様。
上条についてはこのクラスだけでなく、学園全体で名前を知らない奴は馬鹿ぐらいと言っていいほど知られている。
しかし、そんな上条と俺がデートだって?
完璧美少女に対して目つきの悪い男となると月と鼈以上の差があるのにどうしてそんなことを言い出すのか分からない。
「だって、明日行かないの、冬樹と上条さんだけだよ。」
「なるほど。上条もあっちの手伝いか?……でも考えてみろ。俺と上条だぜ。月と鼈以上だろ。」
「あぁ確かに。でも、何か知ってそうだね?どう言うことなのさ。」
「明日何があるか考えてみろ。神社周辺でお祭りがあるだろ?だから、俺は、さつきちゃんに呼ばれてるの。で、あの祭りには上条の所の会社が関わってるだろ?」
お祭りというのはこの街にある神社に伝わる伝承(?)による言い伝えをもとに古来からあるしきたりを盛り上げるためのものだそうだ。
毎年行われるので地元の年配方は古い考え方が多くしきたりの重要性を重んじて参加する人が多い。
しかし、若者からすれば毎年恒例の事で飽きている人の方が多く、興味をなくしているため参加する人が少ない。
そこで、この街一の会社である上条の所が祭りのスポンサーとなって、イベントを盛り上げようとしている。
だから、上条も会社の手伝いをするんだろう。
「なるほど。お嬢様でもそんな事をしないといけないのか。」
「さつきちゃんもあれぐらい責任感があれば神社のお手伝いをする気がちょっピり上がるんだけどな。」
「誰だ、さつきちゃんって言ったのわ!皐月先生と呼ぶように言ったでしょ、桜城君?」
「誰だとか言いながら、分かっているんじゃないですか。」
いきなり話しかけてきたこの人が、クラスの担任でありさっちゃんの正体。
名前は、
しかも、先生をやっていながら、神社の巫女でもある。
のだが、巫女としての役目をはたしている所をしきたり以外では見た事がない。
「次言ったら、廊下に立たせるよ。そろそろ座りなさい。みんなも。」
そう言われると、俺や立っていたクラスメイトが座り始め、号令と共に授業が始まった。
――――――――――――――――――――
―――――――――
――――
―
授業の終わりの鐘がなる。
それを待っていたかのようにさつきちゃんはチョークを置いてこちらを向いた。
「今日はここまで。復習と予習をしっかりしといてねー。それじゃーさよなら。」
「やっと終わった。そろそろ帰るか。」
そう言って席を立つと、さつきちゃんに呼ばれる。
「ちょっと待って、桜城君。」
「何ですか?さつきちゃん。」
「また言ったね?ま、今はいいか。それより明日のこと忘れてないよね。」
「はい。ちゃんと覚えてますよ。」
「じゃあ、妹ちゃんにもよろしく。」
もちろん祭りのことであるが、『おじさん』もと言い、さつきちゃんのお父さんの頼みでもあるので、バックレるつもりはない。
今日はこれ以上なさそうなのでそのまま帰ることにした。
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夜、俺は『メモリアル』という軽食店に来ていた。
夜食を作る事は出来てもの、作るのが面倒だから大体ここに来て済ませている。
「いらっしゃいま、あっ!桜城君。今日も来てくれたんだ!それにしても、今日は、ごめんなさい。みんなに変な勘違いされちゃって…。」
「いきなりどうしたんだ?謝られても困るし、まずは、席に着かしてくれないか?」
「あっ、そうだね。こちらへどうぞ!」
そう言って席へ案内してもらった。
話しかけてきたのは上条。
このお店でアルバイトをしている。
ただし、クラスメイトにバレないようにコスプレっぽい変装をしている。
「で、変な勘違いって?」
「その、明日私とデートするんじゃないかって言われてたでしょ?私と一緒にされるなんて嫌だったでしょ?」
「いやまさか。上条とだよ?嫌なわけないよ。」
「やっぱり、桜城君は口が上手だよね。……それでは、メニューが決まったらまたお呼びください。」
そう言って彼女は、去っていった。
にしてもなんであのお嬢様である上条がこんなところで働いているのか、と思った人がいるだろう。
この店は上条のお祖父さんの店らしい。
なのでも社会科見学を兼ねてアルバイトをしているらしい。
それに、お嬢様だからお金を沢山使えるというわけではないらしい。
だから、単純なお小遣い稼ぎでもあるらしい。
上条が働いているお店に毎日来ているのは、上条がいるからであるというわけではない。
下心なんてあるわけない。
上条が働いているのを知ったのは2年になったからで、知った理由も向こうから声をかけてきたからだ。
『今年も同じクラスだね!よろしく。』
と、言われて、それまでは学校の制服姿と店のメイド服姿があまりに違ったので気づかなかった。
それに、住む世界の違う人間と言う認識で、あまり意識していなかったのも大きいと思う。
そして一番に、ロングのストレートを三つ編みにしているし、だてメガネもしてるから印象が大分違い分からない。
「ま、それは置いといて、やっぱりいつものハンバーグ定食にするか。」
いつものハンバーグ定食を選ぶ事にした。
夜食をここで食べているのは、ここのハンバーグ定食が何処のお店よりもおいしかったのと、どこのお店よりも値段が安いから。
節約ができるので、これまでお世話になってきた。
熱々で届いたハンバーグ定食を味をかみしめながら食べていく。
ご馳走様のあいさつまで終えると、会計を済ませて家に帰った。
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