第3話

ユカリは、毎日根気よくヒトミにつきあい、アドバイスした。

 

初めに比べれば減ってきたとはいえ、毎日何かしらのダメ出し…それでも、必ず一つ以上は褒めたうえで、翌日の宿題を出すのだった。

 

そうしてひと月がたち、プレゼンの日を迎えた。

 

つたない企画書と押しに欠けるプレゼンだったが、目のつけどころが面白いと企画が通り、商品化された。

 

もちろん売れなかった場合のリスクも考えて、最初は最小ロットで作成し、店頭で販売された。

 

その商品は、最初はごく一部のマニアしか買い求めなかったが、彼らの口コミやブログなどで紹介されるとじわじわと人気が出てきだし、社内では追加発注の是非が会議の議題になっていた。

 

「よくやったな」

「ありがとうございます。課長」

「正直なところ、君には無理だろうと思っていたよ…気を悪くさせたなら謝るがね」

「いえ。私も最初は、絶対にできっこないと思っていました。ここまで頑張れたのは、ユカリのおかげなんです。彼女がずっと、アドバイスとか励ましとかしてくれたおかげです」

 

そのころユカリは、部長室の応接セットで部長の前に座っていた。

 

2人の間には、表紙に報告書と書かれた厚さ5ミリほどの書類が置いてある。

 

「それでは、企画書その5『人材育成”豚もおだてりゃ”計画』の結果を報告させていただきます。開始から終了までの経緯とノウハウは、報告書にまとめてありますので、お目通しください」

 

そう言うとユカリは席を立ち、一礼して部長室を後にした。

 

ひとり部屋に残った部長は、報告書をめくりながら誰に言うでもなく呟いた。

 

「・・・仕事ができない社員を手に余る業務に就かせ、音をあげて自ら会社を去るように仕向けるか。もしくは業務を全うさせて成功に導くか。どちらにしても、会社には損害が出ないのだが。一体社長はどこから、ああいう人材を見つけてきたのだろう」

 

部長は見終わった報告書を手にすると、デスクの隣のキャビネットを開いた。

そして、自社で企画開発した商品の中でも常に売り上げ人気の一位二位を争うため、商品名に企画立案者名を冠した『ユーカリファイル』に綴じ込み、No.4の隣に並べて扉を閉じた。

 

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研究の成果 奈那美 @mike7691

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