第17話 「魔界からの招待状」
タイトル「魔界からの招待状」
飛行機に乗り機内で昨晩の試合が頭から離れずに呆然とする一心。ガムテープで目の前に試合の映像が張られているように何度もリプレイする。試合での勝敗はつかなくドローという形になったが目を閉じれば幻のダンクシュートが悪夢のように蘇る。今までも365日朝5時に起きて、夜9時まで練習して規則正しい生活も送って来た。マンネリ化しないように目標も立ててそれを忠実に実現しこなしてきた。そんな努力の重みすら軽々と吹き飛ばす敵が同世代にいた。改めて伊集院が言うように世界基準で見ると自分が小さな存在かと思い知らされた。これからどんな練習をしたら奴らに追いつけるのか?その方法を必死で模索していた。そんなとき、
客室乗務員が食事の準備をするためにAかBか選ぶように声をかけるが食事を断った。横を見ると隣同士に座っていた、マートンや流稀亜、スタメン全員が考え込んでいて同じように食事を断っていた。それを見て自分たちはまだ成長できる。そう確信した。飛行機で日本まで4時間と少し。その間、寝ることもなく一心達はそんなことをずっと考えていた。
成田国際空港 第2ターミナル。
日本に到着して入国しようと空港内を歩いていると乗り換え便の傍で見覚えのある金髪の美女が手を振って一心を呼んでいるように見える。金髪の美女シャネルは伊集院 誠のマネージャーだった。
「?」驚く一心とそれに気が付く流稀亜。
「あれ?あの人って…」
「伊集院さんの…」
「なんや、金髪やんかい。知り合いか?」
マートンはその美貌とスタイルの良さに驚いている。
「ん?知り合いってわけでは…」
「ストップ」
シャネルが指を3本立てて一心、流稀亜、マートンに止まるように言った。
「…ストップ?」
「誠から話は聞いてないの?私は誠のマネージャーでシャネルよ。あなたたちを案内するように言われてる」
一心が口を開く。
「金髪が日本語話した…」
流稀亜が口を開く。
「日本語が上手い…」
マートンがシャネルの胸をガン見しながら口を開く。
「しっかし、胸でかいな…乳なんぼあんの?」
シャネルが鋭い目つきでマートンに向かって叫ぶ。
「お前…クソ、ガ~キ!」
驚くマートン。
「…はい」
一心が携帯電話を確認すると口を開く。
「ああ!伊集院さんからライン入ってる!流稀亜とマートンも連れて試合を見に来い。勝ったお祝いだ。だって!」
流稀亜が続く。
「イケメンだね!やったー招待されたんだ!…勝ったって言っても…幻だけど…」
「そうだね」
一心がそう言って、頷くと流稀亜が続く。そしてしばらくマートンを無視して二人で会話し始めた。
「イケメンはニューヨークの本場のハンバーガー食べたいな!」
「俺は自由の女神とか見たいな…あ、でも本場のドーナツも食べたいな~」
「イケメンは、追加でアイスクリームもね」
マートンがつぶやくが無視する一心と流稀亜。
「…あんなあ?」
「シン!でもさ、ハリウッドスターにも会いたいね」
「そうだね、ルッキー、今ってニューヨークって何が流行ってんだろう?」
「何だろうねえ~」
また口を挟むマートン。
「あんなあ~?何、シカトしてんねん!」
一心と流稀亜はそれでもマートンを無視している。
「ピザも食べてみたいね」
「イケメンもピザも好きだよ!」
「おい、ボケ!」
マートンがそういうと一心が口を開く。
「何?マートン、関係ない話~」
「ボケ!さっき俺の名前も言っとるやろが!」
一心と流稀亜が懸命に首を横に振る。
「全然、言ってないよ」
「マートン、イケメンじゃないからアメリカには入国できないよ!」
「そう、俺はイケメンじゃない…ってんなもん関係あるかボケ!俺も見たいんじゃい!なあ、チビさっき俺の名前も書いてあったんちゃうの?」
一心が口を開く。
「…しつこいな!」
「ちょい携帯みせいや」
「嫌だね!」
一心がからかうようにマートンを挑発する。
「貴様しばくぞ!」
そんなやり取りをあきれ顔で見ていたシャネルがついに口を開く。
「シャラップ!マートンあなたもよ。私が責任もって案内するわ。3人とも」
大喜びのマートンはその場で飛び上がって喜んだ。
「やったでー!」
一心が面白くない顔でつぶやく。
「え…ーマートンも来るの…全然、先輩後輩の仲じゃないし…約束もしてないし」
「何を細かいこと言うてんねん、ケツの穴が小さいんや!クソチビ!ニューヨークやで!バスケの試合を生で見れるんさかい、そな細かいこと気にせんと楽しまなあ罰があたるで!」
流れに任せるように妙に納得する一心と流稀亜。
「それもそうだね。マートン、たまにはいいこと言うじゃん」
「アホ、いつもや。金髪のボイン姉ーちゃん。はよ行くで」
「バチン!」
シャネルに頬をたたかれるマートン。
「酷い、父ちゃんにも叩かれたことアラへんのに…」
涙目のマートンに食って掛かる一心。
「嘘つけ、お前の父ちゃんはサファリパークにいるだろが!」
「ガオ!ってアホ!ワシの出身はサファリパークちゃうわい!」
「ははははは」
その場にいる3人の笑い声が空港の廊下に響き渡った。しかし、一心は何かを思い出すと流稀亜とマートンから距離を置いた。
「…やばい!」(どうしよう愛梨と約束していたようなしていないような…約束してます…また不発…どうしよう)
そんな一心に気を遣うように流稀亜が声をかけてきた。
「シン!大丈夫?何かあったの?」
「ちょっと…お腹、お腹が痛いからトイレに行ってくる!」
「分かった!待ってるね!」
「え、うん」
トイレに向かい、個室に入ると一心は愛梨に電話を掛けた。
「あ、いっちゃんもう着いたの?早かったね。空港に迎えに行こうかと思ってたんだ!」
個室トイレで一人あたふたする一心。そして一度、深呼吸すると愛梨に電話を掛けた。
「…あの…間違い電話です…」(何言ってるの?俺?馬鹿?)
一心は一種のパニック障害になり神経回路が上手く機能していなかった。そんな一心に対して心配そうに優しく声をかけた。
「いっちゃん…どうしたの?」
「あのですね…」
細々と小さい声で話す一心をさらに心配する愛梨。
「何?大丈夫?」
「実は…その…非常に言いずらいのですが…」
「負けたの?」
「いや、勝ってもないし、負けてもいないような…」
「男らしくないな!」
「はい、あのね…」
電話越しであったが一心は目をつぶり、座りながら頭を下げると口を開いた。そして一心は愛梨に事の詳細を話した。すると愛梨が声を弾ませながら口を開いた。
「凄い!凄いじゃんいっちゃん!ニューヨークからいつもどるの?」
「14に出るから15日かな?」
「あ…すれ違い…だね…」
残念そうな愛梨の声とため息が一心にも伝わった。
「ごめんね」
一心がそう言うと愛梨は無理に明るくふるまった。
「どうして謝るの?チャンスだよ!そうか先にいっちゃんが行くのか…ねえ、帰る前にまた連絡して!」
「…愛梨」
「何?」
「その、あと…あの日の夜の事なんだけど?」
話を切り出すのがバツの悪そうな一心を察した愛梨が核心をついた。
「不発弾の事?…気にしてるんだ?」 力なく返事をする一心。
「はい…」
「いっちゃんが本当に気にしているなら正直に言うけどさ…」
「うん」 「私、気にしてないよ!」 「愛梨…」(なんて…満点な回答…先生は愛梨ちゃんに100点差し上げます!) 「だって結婚したらそんなの毎日できるでしょ!」 「毎日…毎日…え…」(最終ミッションが結婚すること…景品でもれなく毎日…やばい、やばい、やばい、やばーい!)トイレで一人、解く事のできない難解事件を考えてがて悩むような仕草をすると一人、挙動不審な行動する一心。 「いっちゃん、まさかだけどさ…鼻血…出してないよね」 「え、うん…出てる」 「きゃっはは、やだ、いっちゃん」 「ははははは」 愛梨のそんな言葉にも電話越しに微笑む一心、そして明るい声で笑う愛梨の声が個室トイレに響き渡った…
ニューヨークケネディ空港までは日本から約13時間。機内では伊集院の粋なはからいでビジネスクラスに座わり、至れり尽くせりのサービスを受けて3人ともご満悦だった。記念に写メを撮りまくる3人は調子に乗ってスチュワーデスとも撮影を済ませたりとすっかり修学旅行の気分になっていた。ケネディー空港に到着すると田舎者丸出しで左右をきょろきょろ見渡し、ため息ばかりつく3人。
「うわーすげー!」
「なんやねん!」
「イケメン…」
3人は驚きながら空港を見渡す。天井が高く大きな開放感ある空港の通路を抜けると外に出た。
「乗って」
シャネルにそう言われて、車を見ると大きな黒塗りのリムジンが一台止まっている。
マートンが大きな声を出して驚く。
「なんやねん!」
「イケメン…過ぎるねこの車」
流稀亜と一心も驚きながら口を開く。
「何これ?アメリカの救急車?」
マートンがあきれた顔をしている。
「ボケ!おまんホントに天然やなリムジンや!リムジン!」
一心の天然発言が飛び出す。
「ん?ガムの名前?」
「ちゃうわボケ!あー調子狂う。おまんの頭は年中、時差ボケちゃうか?」
「何時差ボケって?マートンそんなフケの病気なの?汚いから隣に座らないでね」
「アホ!ボケとフケはちゃうやろ!」
「そっか」
「ははははは」
ためらうことなくドアマンが明けた車に乗り込む一心。
「サンキュー~」
それに流稀亜とマートンが恐る恐る続く。
「ソ、ソーリー」
ホテルにつくまでニューヨークの街を見渡し顔をキラキラさせる3人。
「うわ!めちゃめちゃ迫力あるやん!」
「男女問わずにイケメンも多く歩いてる…」
「なんか、歩いている人いろんな国の人多いね。マートンもなじめそう」
「ボケ!動物園ちゃうわい!」
「ははは」
「でもなんか…活気があるのは伝わって来るね」
「そうだね」
「当たり前やろボケども。ニューヨーク言うたら世界の渋谷みたいな所や」
「へー詳しいの?」
「マートンプロフェッサーと呼んでみいや!」
「じゃあ、マートン自由の女の所に案内してよ!」
「ボケ、自由の女ちゃうわい。理不尽な女神やろが!」
「え?違うよ綺麗な髪の長い女性でしょ?」
一心がそう言うと流稀亜が流暢な英語の発音で口を開く。
「自由の女神。the
Statue of Liberty(スターチュ オブ リバティー)直訳すると自由の像だよ」
するとシャネルが口を開く。
「はははは、いいわ。ディナーに行く前に見ていきましょ」
「えー!やったー」
そうやって、全員で喜んでいると一心が窓の外を見乍ら口を開く。
「マートン、ちょっと頭下げてなんか見えてきた!邪魔!」
「なんや邪魔とは!」
「だってその生い茂った髪の毛のチリ毛が邪魔で前が見えないから」
「そうそう、俺のチリ毛が邪魔で見えへん…ってボケ!しばくぞ!」
「ははっははは」
車の中で3人はまるでピクニック気分だった。
タイトル「本物」
一心達はその後自由の女神を見た後で伊集院に食事に誘われていたためその店へと急いだ。店は「adam」という店で会員制の店らしくその会員費が年間500万だと聞いて一心達は口から泡が吹きそうになっていた。
「え…?」
車が店の前に止まると店を見上げるが実際ここに高級な店があるというのは気が付かないだろうと思った。外観は特に豪華なイメージはなく少し古いコンクリートの建物のような感じだった。たいしたことはないと思っていたが一歩中に足を踏み入れると印象が、ガラリと変わる。2階を取り壊した高い天井から豪華なシャンデリアが入り口付近で出迎える。中に入ると食事をする様なテーブルがあり自宅のような雰囲気だ。そして奥には物凄い広さのリビングが先が見えないほど広がっている。それを見て3人は思わず口を開く。
「広い…」
落ち着いた柄の壁に飾られた絵画などは昔、学校の授業で見たことのある絵が何枚か飾られていた。
「あの絵って…」
ダリやモネ、レブランド、セザンヌなど…そしてすれ違う人々も女性は全てこの世の人とは思えないほど美しくきらびやかで、男性はさりげない格好で来ているが背筋がピンと伸びて一流の香りがするようなきりっとした顔つきの人達ばかりだった。場違いな場所に来たと思いながらも席に着くとマネージャーのシャネルが料理を注文し料理が運ばれてきた。テーブルに並ぶ草履のような大きさのステーキ。初めて見た巨大ステーキに開いた口が開きっぱなしになる。500グラムとかではない。1キロ以上はあるその肉に驚きを隠せなかった。
流稀亜が口を開く。
「なんて大きさなんだ…」
一心も続く。
「サンダルかな?」
マートンがあきれた顔をして口を開く。
「そやねんサンダルや!って…ホンマに!アホやな…サンダルに見えるか!ボケ!…いやサンダルに見えよるな…」
今一度、3人はステーキをみるとやはりサンダルの様に見える。大笑いする3人。
「ははははは」
「ではいただきます!」
夢中でその肉にかぶりつくと一心が口を開く。
「うまい!日本の肉とは違っては歯ごたえがあってまるで肉と格闘しているようだ!」
マートンも続つく。
「食の格闘技や!」
流稀亜も口を開く。
「イケメンもこれには驚き!」
そんな肉を夢中に食べていると一瞬、誰に招待されて何をしにきたかなど忘れていた。そしてその肉と格闘してやっと食べ終える頃、シャネルが立ち上がる。すると伊集院がテーブルに来て軽くシャネルとハグを交わす。その後席に「ドスン!」とついた。伊集院の醸し出す殺気に圧倒される一心、流稀亜、マートン。
「お疲れ様です!」
全員は軍の部隊のように直立不動になると伊集院が手を横に振る。
「よく来たな。座れ」
そういいつつも少し疲れた顔の伊集院。
「はい!」
「どうだ?」
一心が口を開く。
「どうもこうも、全部スケールがでかくて驚きです!」
「イケメンも感激してます!」
マートンが口を開く。
「後輩でもないのにえらいすまんへん」
伊集院が口を開こうとするがその前に一心が口開く。
「そんな、ケツの穴ほど小さいことを気にするチリ毛!はははっは」
「神木…おまんわ…」
「伊集院さん!マートン目も細くないですか?ポテトフライって有名なんですよ。バリューセット!」
「そう、ワイはバリューセット!って貴様しばくぞ!」
「…」
騒がしい雰囲気を見て笑いう伊集院。しかし、伊集院は誰かに気が付き立ち上がる。
「あ、ちょっと俺挨拶してくるは」
「え、伊集院さんが挨拶ってそんな偉い奴いるんですか?」
伊集院が立ち上がり、奥の方へ行くとその人物が一緒にテーブルに向かってきた。人間にオーラがあるというのは都市伝説だと思っていたが、迫って来るだけで威圧感が半端なものではなかった。
「おい、お前ら知ってるよな。シアトルマリナーズのサブローさんだ」
伊集院の横に立っているのは日本で数々のタイトルをものにして、日本からメジャーリーグの外野手として初めて乗り込み、その後成功をおさめ、ここアメリカでも名声をほしいままにしているメジャーリーガーの三郎だった。
「…!」
緊張のあまり声が出ない3人。
「おい、きちんと挨拶しろ!」
「あああ、マ…マートンです」」
「ぼぼぼぼくはイ…ル…キア…です」
「あ、え…っと…僕は…ヒ…シンです」
サブローが軽く笑うと口を開く。
「わざわざ日本から来たんだって?君たちがいつも彼が話している金の卵3兄弟だね。噂は会うたびに聞いてるよ。今日は僕のおごりだ。好きな物を食べて楽しんでいきなよ」
一心、流稀亜、マートンが驚いて口を開く
「え?よく話す?」
「…イケメンのことを?」
「そうだと思ってたんや~」
すると伊集院が口を開く。
「勘違いするな。出来の悪い後輩がいるって話しかしてないぞ」
一心が口を開く。
「え、それでも話題に上がってるんですね!」
「イケメンやる気出ます!」
「伊集院さん…直接の後輩ちゃう、ワシのことまで…泣けてくるで!」
そんな様子を見てサブローが笑い出す。
「はははは…ユニークだね。僕も君たちぐらいの時のこと思い出すよ。…伊集院君、じゃあ僕はこの辺で」
「あ、ごちそうさまです」
伊集院と一緒に軽くお辞儀をする3人。するとサブローが振り向きざまに優しく微笑むと一言だけ残して振り返り元の席へ戻って行った。
「come back someday」(いつか戻って来い)
「…(かっこいい!)」一心が小さい声でつぶやく。
「(今の映画の名セリフだよな。あれはちょっと違ったか!)」流稀亜も小声でつぶやく。
「(やばい惚れそうやで)」マートンも口を開く。
「げ、マートン気持ち悪い!」一心が眉間にしわを寄せ口を開く。
「ははは」
その後、席に座ると緊張していたのが手の平にかいた汗の量で分かった。伊集院も座ると同時に口を開いた。
「海外で戦う日本人にとってサブローさんは特別な存在だ。夢であり、目標であり、光である。文化、人種差別など乗り越えてここで奮闘するのは並大抵のことではない。通常なら年齢的に全盛期を過ぎようとしている今でさえ進化し結果を残す。老いといういう年齢に対する批判とも戦い続けて世界最高峰のトップレベルを維持する彼の姿には、もう誰もがリスペクトしかない。本当に奇跡の人だよ。サブローさんは…」
伊集院が心の底から尊敬しているのがその言葉で伝わって来た。テーブルに質素な鶏肉の胸肉とサラダ、(胸肉は皮が付いていない)野菜ジュースがおかれる。
「これって伊集院さんの食事ですか?」
「ああ、夜はこんな感じだな。パワーが付く料理などは主に試合の5時間前ぐらいに食べるが、夜は脂肪を取らないようにしている」
改めて伊集院の体つきを見るが足だけでなく、腕までもが引き締まった余分な脂肪がないシカの足のような筋肉をしていた。ただ改めてまじかでその筋肉を見ると腕や足に生傷のようなひっかき傷、縫い傷、が体中のいたるところにあった。何の傷なのかは一心はその時さほど気にはしなかった。伊集院が口を開く。
「シン、何見てるんだ気持ち悪いぞ」
「あ、すみません」
マートンが口を開く。
「そや、クソチビ!」
伊集院が口を開く。
「ああ、お前らは気にするな。卒業するまでは好きな物、食えばいい大学行って、自分の身長とか止まったなと思ったら始めればいいんじゃないかな」
一心が口を開く。
「こういうの、必要なんですね」
「体脂肪率が変われば、何万分の一のスピードと、パワー、体力、それらを得るためには何かを捨てなくちゃな」
「…」
「俺は基本的に中学で筋トレや諸空自制限なんて馬鹿げてると思う。だから日本は小さくしかまとまらないんだよ。それと同じで高校ぐらいまではある程度好きなもの食って、体を作ればいいと思う」
「はい!」
「それよりも、中国遠征ドローになったらしいけど勝ってたって話だな?」
一心が歯切れ悪そうに口を開く。
「…それが…その…たぶん負けてます」
「負けた?」
「最初からベストメンバーじゃなかったし…最後の乱闘騒ぎがなかったらおそらくは…いや確実に負けてました」
「いつ以来だ?」
「負けたのは一年のインターハイ落として以来初めてです。それからは練習試合、公式試合、全て無敗です」
「悔しいか?」
「…俺たち大学に行くまでゆっくりしてようと思ってましたが気持ちが変わりました。伊集院さんが言っていたとおり、あいつら今の実力は俺たちより上です」
「そうか…じゃあやることやんないとな」
「はい!所で伊集院さんは…今日は試合どうだったんですか?」
伊集院が所属するニューヨーク・ニックスは、ニューヨークに本拠を置くNBAのチームで、イースタン・カンファレンス アトランティック・ディビジョンに所属している。ニューヨークはオランダ人が開拓した町であることからイメージして名付けられた。結成以来同じ都市を本拠地としている数少ないチームでもあり、世界的な都市であるニューヨークを本拠地にしているため、他のチームに比べても注目度は高くトップクラスの人気を誇る。黄金時代が1980年代半ばから1990年代で、実に14年連続でプレーオフに進出するという常勝チームだった。しかし、近年のニックスの成績は低迷気味でシーズンも負け越しが続いており、プレーオフ進出も2年連続で逃していた。
「…負けたよ」
伊集院は力なくそう言うも、一心は全く気にせず口を開く。
「明日は勝てますよね!」
「無茶言うなよ、今のNBAでNO.1のロサンゼルスレイカーズだぞ」
「伊集院さんが負けるなんてイメージできませんよ!」
「馬鹿言うな、相手のロサンゼルス、レイカーズは昨年もワールドチャンピョンに輝いた競合中の強豪だぞ。うちは良くてプレイオフにやっと出るような戦力だぞ。チーム。補強や戦力、どれをとっても勝てる要素が見当たらない」
ロサンゼルス レイカーズはNBA最多勝利(3027)、最高勝率(.619)を誇る。名門中の名門で、最も多くNBAファイナルに出場し(31回)、優勝回数は歴代2位の16回である(1位はボストン・セルティックの17回)。レイカーズはまた、アメリカのプロチームの中で最も長い連勝記録33を持っている。NBAを代表するトップチームだった。確かに伊集院が言うようにチームとしての戦力に差が十分にあった。食事が終わった伊集院が立ち上がり席を立とうとする。伊集院の背中がどこかいつもと違う。何と言っていいかわからないがとにかく一心の知っている伊集院の後姿よりも元気がないようにも見えた。何かを口に出さずにいられなかった一心は思わず思いをぶつける。
「…でも、でも伊集院さん言いましたよね。この世で一番の罪は自分自身に限界を感じて努力しないやつだって…」
立ち止まる伊集院。
「…確かに言ったな…昔…はははは」(自分の言った言葉を後輩がブーメラン返ししてくるとはな…)
席に戻って来る伊集院。ポケットから財布を出し黒いカードをテーブルに置く。
「お前らに教わることがあるとはな」(俺はこいつらの希望なんだよな…)
「そんな…」(なんだろう…いつもの伊集院差じゃない…)
「明日の試合の後、俺はシカゴに移動する。お前らにかまってやる時間はないからシャネルに言って、日本に帰る前にどこかで買い物でしてこのカードで土産でも買うといい。俺からの礼だ」
「礼だなんて」
「少し、弱気になっていたのかもな…ありがとな」
「そんなこと…」
カードを見て驚くマートンはそんなやり取りも気にせずに口を開く。
「…これ、ブラックカードちゃいますの?すんげー!」
一心がまたとぼけた発言をする。
「かりんとうカード?」
「そやかりんとうカードや!…っておい、クソチビ!お前はホンマにアホやなブラックカードや!ブラックカード言うたら限度額がなくて車ならフェラーリやベントレー、はたまた家やマンションまで買う事が出来るっていうまさしく夢のようなカードや!」
マートンの話に全く興味がない一心。その後も二人のやり取りが続く。
「ふーん」
「アホか!ちっとは、驚かんかい!」
「はい、はい。大阪人はお金に目がないね」
「そう銭こそ全て…ってアホ!ちゃうわい!価値が分かるだけや!」
「伊集院さんありがとうございます!」
一心がそういうと伊集院が答える。
「ああ、気にするな」
「あのーー本当に何でもいいんですか?」
「欲しい物があるなら、好きなだけ買え」
「やったー!」
大喜びする一心。マートンも喜んでいる。
「おおきに!この際、欲しかったシューズ買うで!あとは…」
「おい、チリ毛お土産だろ!買っていいのは」
一心はマートンの前に立ちはだかる。
「なんでもいい言われたんねん!」
抵抗するマートン。
「大体お前は後輩じゃないだろ!」
「アホ、伊集院さんから見たら海を渡ってここアメリカにつけば、それはすべて伊集院さんの後輩みたいなもんや!」
「調子いいな、このチリゲ!」
「なんだとクソチビ!」
流稀亜と伊集院、シェネルはそれを静かにあきれ顔で見ていた。そして店中のVIPが一心達を軽蔑したような目で見ているのに気が付くと伊集院が口を開く。
「おい、お前ら静かにしろ!目立ってるぞ。そんなに騒いだら出禁になるだろうが。いいから好きな物を買え!」
「はい!でも、それより伊集院さん明日、勝ってくださいね!」
一心が無邪気な表情でそういうと伊集院が口を開いた。
「…全力は尽くす…」
いつも自信満々の伊集院が言った「全力を尽くす」その力のない言葉は一心の心にひっかかかるものがあった。去年に暮れに契約を済ませて、NBAに入った伊集院は試合にこそスタメンで出ていたものの、ニュースで見る限りは一心が思っていたよりは活躍していなかった。世間からすれば凄いことで、日本では大騒ぎされていたが伊集院がNBAでスタメンで出場することなど一心から見れば当た前でもっと活躍してもおかしくないと思っていた。伊集院でも悩んだり、スランプがあるのだと思ったりもしていた。
タイトル「異次元の男の葛藤と再生」
翌日試合が行われるバークレイズセンターまでは車を遣わず自分達で地下鉄に乗っていった。2012年に完成した大型の多目的施設でアイスホッケーチームの本拠地でもあった。収容できる人数はおよそ1万9千人…桁違いだった。電車でのアクセスも良く最寄駅は『Atlantic Avenue Barclays Center Station』地下鉄のラインが2・3・4・5・B・D・Q・Rと実に8ラインも乗り入れており、マンハッタンのミッドタウンからでも30分もあればつく距離だった。当日の試合、駅前には信じられないほどの人だかりだった。簡単荷物チェックを会場前で済ませるとホットドッグにコーラ片手にコートと手前の席に座った。
「ちか!」
3人は思わずそう口に出した。コートと観客席までの距離がほどんど感じられなかった。練習はすでに始まっていて軽々とシュートを決める両選手にまじって伊集院の姿があった。3人は何か胸にこみ上げるものを感じていた。これだけ大きな会場で日本人である先輩が今まさにコートに立とうとしている。そのことが誇りも思えてテンションは上がりっぱなしだった。オープニングのパフォーマンスで音楽が鳴るとチアリーダーもそれに合わせて踊りだし、観客席でも手拍子が始まる。
「ズン、パ、ドン、パ、ドン!」
試合前の観客も選手同様盛り上がって来た。それまで経験したことあるプロの試合とはすべてが違っていた。これが本場の正真正銘のプロだと思った一心だった。両選手がアナウンスでコールされるとチームのメンバーとはハイタッチを交わしながらコートに出てくる。どの選手も体が大きい。コートが本当に小さく見えた。遂に伊集院が呼ばれる。
「ナンバー7!マコト イジュウイン~」
そのコールを聞くこと一心、流稀亜、マートンが声をからす。
「いけー!伊集院さん!フンズケろ!」
「伊集院さん!カッコイイっす!イケメンも負ける!」
「兄貴!しばいたれ!」
「おい、チビ、何故にフンズケろやねん?」
「まあ、いいじゃん」
「…そやな」
珍しく納得するマートン。
ロサンゼルス レイカーズ
スティーブ ザリオン 208cm PF(シューティングフォワード)背番号 11
スコッティ カッペン 198cm SF(シューティングフォワード)背番号6
シャビール マール 216cm CF(センター) 背番号01
ラブドル ジャンパー 204cm CF(パワーフォワード)背番号 3
マジック ジャクソン 202cm SF(ポインントガード)背番号22
ニューヨーク 二ックス
伊集院 誠 188cm PG(ポイントガード) 背番号7
パトリック リーディング 208cm CF(センターフォワード)背番号0
デニス ロックマン 201cm C(センター) 背番号 91番
カール マーラン 201cm SF(フォワード)背番号 88
チャールズ バックリン 198cm PF(パワーフォワード)背番号 41
手に汗握る試合前。自分の試合よりも緊張する一心達3人はいつの間にか姿勢よく席に座って微動だに動かなかった。試合が始まるとすぐにあることに気が付いた。伊集院に対しての審判の笛の甘さとラフプレーだった。
「…?」
明らかに相手選手が見えないところでユニフォームを引っ張ったり、ドリブルしているときの故意的なファール。背中から手で押す、ひどいときには見えないところで肘を入れたりしていた。一心だけがそう思っている分けっではないのが、伊集院がドリブルで切れ込んだときに倒されてコートの外に出た時だった。審判は笛を吹かずにそのまま試合を続行した。
「…え?」
我慢できず思わず口にする一心、流稀亜、マートン。
「ねえ、さっきから審判おかしいない?」
「イケメンもそう思ってた」
「そやな…人種差別的な奴かのう…あ、あいつまたひじ入れよったで」
「許せない…」
3人は自然と歯を噛み締め拳を強く握っていた…
「伊集院さん!負けるな!」
「伊集院さん!ファイト!」
「伊集院さん!かましたれや!」
大きな声で声がかれるほど応援する。その姿は傍で見ている観客が引くほどだった。試合は伊集院も頑張っていたが、常に10点差前後の差が開いていた。そして迎えた2コーター目終了まじか残り6秒ほどのところで49対40と9点リードされている時だった。伊集院がトップスピードでコート中央を駆け抜ける。そのスピードに相手選手も翻弄されついていけない。
「いけ~!」
「決めろ~!」
「いってまえ!」
そして、その期待に応えるかのようにゴール前でゴールめがけて飛び上がる伊集院。「決まった!」そう思った瞬間、シャビールが素早い反応を見せブロックに来た。ただのブロックではないボールではなく顔面を故意に手でたたくようなファールだった。
「ワゥオ…」
そのまま体ごと押された伊集院が一心達のすぐそばで倒れこむ。倒れた伊集院が動く事が出来ずにもがいている。
「グゥ…」
それをニヤついた表情で見ているシャビール。当然のようにファールの笛は吹かれない。コートの中で日本人は伊集院一人だけだった。伊集院に必要なファールを犯したシャビールが伊集院の傍でつばを吐いている。伊集院の額からは切り傷だが血が流れていた…
一心、流稀亜、マートン、それぞれが過去を振り替えると走馬灯のように思い出される映像の数々。レストランに入ったとき気が付いた伊集院の生傷。蘇る伊集院の言葉…
「そういえば、そんなこと言ったな…」
「君達がよく話していた未来の金の卵かい?」
「このカードで何を買ってもいいんですか?」
「ああ好きなの買え」
そんなことを思い出すと3人とも自分達が恥ずかしくなった。目指している場所は生易しい所ではなく、もっと上を目指すならと招待してくれたに違いない伊集院。それなのに観光気分でニューヨークを訪れていた自分が恥ずかしくて仕方なかった。
「俺たちは…」
「馬鹿だ」
「最低やないかい…」
「俺たちはいったい…何しに来たんだ…すげーよ。伊集院さん…NBA…でも我慢できない…」そんな映像が脳裏に浮かびわずか数秒で蘇ると心臓の鼓動が聞こえる。冷静さを保つ事が出来ず、どうしようもなく体に力が入った。自分では制御しきれない。目は充血して今にも涙が出そうだった。そして一心が口を開いた。
「あの野郎…もう我慢できない…」
立ち上がり大きな声でシャビールに向かって叫ぶ!一心と流稀亜、マートン。
「ファック!ファック!…ファック野郎!お前に言ってるだよ!」
「ファック!イケメンの僕が君を許さない!そのプレー美的センスなしだね!」
「しばくぞ!ボケンダラ!まじで鉄板焼きの上乗せて!ほんでたこ焼きの具材にいれたるで!許さへんで!」
それでも気が付かないシャビールに腹を立て、傍にあるコーラを一心がコートに投げつけた。
「この野郎!ふざけんなよ!」
観客席から立ち上がりそんな行動を一心がすると、コートの真上にある大きな巨大スクリーンに映し出される一心をはじめとする、流稀亜、マートン。
「あ…」
観客席で見ている客も気が付き少しざわつき始める。立ち上がり現役NBA選手のスター選手であるシャビールに親指を立てて臨戦態勢に入っている。
「イエロージャッブ…」
笑いながらそう不敵な笑みを浮かべるシャビール。
「おい、お前!俺達3人のことをよく覚えておけよ!お前を絶対にぶっ飛ばしに俺たちはここにまた来るからな!
「I'll be back」
睨み合うシャビールと3人。そして会場全体が異様な雰囲気に包まれる。勿論一心達にとっては危機的状況。しかし、更にマートンが怒りが収まらずコートに入ろうとしたとき伊集院の声が聞こえる。
「やめろ!」
「伊集院さん!」
伊集院が立ち上がりこちらを見ている。額から流れる血が生々しく痛々しい。その傷を手で押さえつけ口を開く伊集院。
「馬鹿野郎!お前ら何やってんだ!」 一心が口を開く。
「だって、だってあいつわざと、それに審判だって!」 流稀亜が続く。
「そうですよ、こんなの公開処刑じゃないですか!」 マートンも顔を赤くして怒っている。
「そやで!2度漬け禁止より酷いで!大阪なら出禁になるで!」
一心が鋭い目線をまっすぐ伊集院に向ける。伊集院の背中にいつものような光の輝きが見えない。意を決して大きな声で口を開く一心。
「伊集院さん!負けるのを見せるために俺たち呼んだ訳じゃないですよね!」
「…」 一心のその言葉で伊集院の思考が一時的に真っ白になった…
負ける?
俺は伊集院 誠 前人未到の9冠を成し遂げた…過去…過去の話
そう昔は…誰にも負けなかった…
誰にも…
周りの評価はどうだ?
この場所NBAのトップチームとこの点差…スタメンで出場し、平均的な活躍で日本でも有名なバスケ選手…そんなことに満足して負けることに慣れているのか? 「レイカーズが何だって言うんですか!」
馬鹿を言うな、レイカーズはNBAのリーグチャンピョンを何度も取っている超一流チームだ…俺は…いい方だ良くやってる…相手はNBAのトップチームだ… 「勝つ可能性が0なわけじゃないでしょ!」
そうだ…可能性は0ではない…諦めているのか?
やはり俺が負けることに慣れたのか?
叶わない敵?
誰が決めたんだ?
…いつから勝ち負けにこだわらなくなったのか?
契約金が入ってきて、そのほかの副収入も増えたのに…
この満たされない気持ちはなんだ?
プロは勝負に負けても金がもらえればいいのか?
俺はそんなことに満足しているのか?
いや…違う…俺は…伊集院 誠…
「なんで、どうして何も言わないんですか?俺たちに会うたびに偉そうなこと言っているのはったりなんですか?」
一心にそこまで言われた伊集院が反応する。
「何だって?」そう声に出すのがやっとで一心のその言葉を何とか否定する事が出来なかった。伊集院の胸に突き刺さる一心の速球。
「この世で一番犯していけない罪は、自分自身の力を信じて努力しないやつだ!とか言って、伊集院さんは自分の力信じてやってるんですか?こんなもんじゃないはずですよ。俺たちが知っている伊集院 誠は!」
「…」(こいつ…)しかしその言葉で確実に一度は負けに支配された伊集院の思考が再起動しようとしていた…
一心は涙目になりながら話し続けた。いや叫び続けた。
「ドリブルのスピードだってこんな平凡な物じゃないでしょ。空を切り裂く稲妻のようなドリブルはどこに行ったんですか?」
そして、流稀亜、マートンも口を開く。
「イケメンも驚くようなクイックネスなシュートだってこんなもんじゃないです!」
「俺は後輩ちゃうさかいプレーのことはよういわんけど、あんた日本のキングなんやで…俺らの目標なんやで!」
伊集院が何かを決意したかのように拳を強く握りしめる。
「…馬鹿ども!」
一心がまた口を開く。
「こうも言ってましたよね!バスケは体格でするスポーツじゃない。魂でプレーするスポーツだって!今の伊集院 誠のどこに魂が感じられますか!」
「神木…お前…」
「嘘ついてたんですか?こんな伊集院 誠はこの俺が追いついて…いや追い越して見せますよ!」
一瞬、一心と伊集院に不穏な空気が漂う。流稀亜とマートンが一心を止めようとする。
「シン…いいすぎだよ」
「そやで、完全にすべっとるで…」
「…」
一瞬の沈黙の後伊集院が顔を上げて天井を見ながら大声で笑う。
「はははは!」(…シン!よく見ておけ!…これからお前に見せる光景が俺が言っていた正真正銘、本物の戦場だ!)伊集院が自信満々な表情で口を開く。
「俺の本気を見せてやる!」
一心が涙目に微笑みながら呟く。
「…伊集院さん…遅いっすよ!」(伊集院さん勝ってください!)
「生意気だなお前…」(シン、ありがとうな)
「伊集院さん俺達…欲しい物なんて何もありません!勝ってください!」
「任せておけ!」
伊集院は一度ベンチに戻り、先ほど転んだ時に額を切った場所に包帯を巻きながら試合をスタートさせた。
「行くぜ!」(俺のゴールはここじゃない!見てろお前ら!)
コートに戻った伊集院のその姿は明らかに何かが違っていた。
「いけー伊集院さん!」
しかし、生意気なことを言いながらも3人は反省していた。一心も、流稀亜もマートンも下手くそな自分が恥ずかしく、許せなかった。目標とする先輩が理不尽な目にあっているのに同じコートにすら立てない。そして、アジアでさえ手こずっている自分達。3人の誰もが思っていた。
「いけー!」
今の自分たちは弱い…そして弱い自分たちは今コートにたってプレイしている伊集院を応援することしかできない。
伊集院がコートで叫んでいる。
「邪魔だ!」
その後の伊集院はまさに戦場を駆け抜ける武将の如くドリブルで相手を切り裂き圧倒した。
「遅い!」
NBAの現役トップチームの選手でさえその素早い動きを止める事が出来ない。近寄る者を蹴散らす稲妻のようなドリブル。そして守りではサバンナを駆け抜ける草食動物を捕らえるがごとく攻撃的なディフェンス。
「もらった!」
ピシャの斜塔のように理解不能な芸術性の高いため息の出るよう美しい弧を描くシュートの数々。「よっしゃ!」それらが何度も何度もゴールネットすり抜ける。
日本が誇るスーパースターが、世界のスーパースターになる瞬間だった。伊集院 誠のワンマンショーがそこ(コート)で開催されていた。そんなプレーを見て体中の細胞の一つ一つが踊りだし、血液が上昇して心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
「凄い…」
一心達は同時に歯を食いしばり「俺もいつかこんな風に…」と強く、強く願った。その後も日本を代表するNBAプレイヤー伊集院 誠は無敵のコマンドーの如く次々と敵を殲滅した。
そして残り、5秒06
ニューヨークニックス 101 対 103 ロサンゼルスレイカーズ
タイムアウトを取ったのはにニューヨークニックス。伊集院が3人に向けて人差し指を突き上げてリングを指差す。予告ホームランならぬ、予告ブザービートだった。 そして試合が再開されると、伊集院が1オン1を仕掛ける。左に右にフェイントをかけ、クロスオーバーで一人目を抜き去ると、2人目をバックビハインドで交わし、更にドリブルで抜くと見せかけて3人目のディフェンスが下がるのを確認すると、後ろにステップを踏み素早い3ポイントシュートを放った。その挑発的な姿を見て3人がつぶやく。マートンがつぶやく。
「マジかよ…」 流稀亜が口を開く。 「神か悪魔か…」 一心が自信に満ちた口調で口を開く。一心の中で伊集院からの教えや、憧れ、夢が次々に交差する。 「いや、あれは伊集院 誠だよ…」
(早い…なんてスピードなんだ…伊集院さんヤッパヤッベーな…流石、異次元から来た男だ…最後のウインターカップの優勝を含めて、在学中8冠の達成。そしてフレッシュマンカップでの勝利…口で言うのは簡単だけど、その道の途中で苦労や、恐怖、喪失感、が何度も繰り返し襲う。それはまるで音のない世界の端っこに一人でいるような孤独感の様だった…そんな険しい道を通り抜けて遠くにいたはずの伊集院さんに少し近づいたかな?そう思っていました…でも伊集院さんはやっぱり俺達の先の、先の、先にいたんですね…伊集院さん、いつも俺たちの光であり希望であり続けるのは辛くて、切なくて、厳しいですよね。今なら少し俺達にも伊集院さんの気持ちが分かりますが、どんな悩みなかんて爪の垢程度ほどしか分からないかも知れません。それでも俺たち、いつか同じコートで伊集院さんと一緒にプレー出来る日が訪れるまで、振り返らずに全力疾走することを約束します!ああ、あんなに早いモーションで打ったシュートなのにループもしっかりかかって、角度も問題ないですね)ボールの軌道が伊集院のブザービートが問題なく決まることを知らせていた。3人ともボールの軌道を見てシュートが入る事が分かっているのに興奮を抑えられないず迷子になった犬の様に叫び散らす。(一流のプレイヤーはボールが手から離れた瞬間、そのシュートが入るか入らないか判断できる)
「行け~!」
「入れ!」
「いったれ!」
そしてシュートは定められた方向に美しい放物線を描きながら見事にリングに沈んだ。
「シュ」
「スゲー!」
一心、流稀亜、マートンの表情もまるで小さな少年がスーパースターに憧れている、そんな表情をしながら目を輝かせていた。伊集院がシュートを決めると指を3人にむかって突き刺した…「俺は世界の伊集院だ!」
ニューヨークニックス 104 対 103 ロサンゼルスレイカーズ
その奇跡的な逆転勝利に会場が物凄い歓声に包まれた。会場は地震で揺れているんじゃないかと思うほどだった。
そしてその日以来アメリカでは伊集院の背番号7が背の低い選手が付けたがる人気ナンバーワンの背番号になった。そして感動的な逆転シュートを見ながら3人とも同じことを考えていた。世界から見たらまだ、まだ弱い自分達…どうやって這い上がるか、そんなことを考えているとアドレナリンが全開になり体中が熱くなった。控室に戻る前に伊集院が観客席に座るそんな3人に向かってきて声をかけた。
「お前ら、ガキの使いじゃねんだからよ。自分で吐いた言葉きっちり飲み込めよ」
「ゲ…」
「一心、お前は俺を追い越す。確かに聞こえたぞ」
一心が気まずそうに答える。
「それはその、つい…」(この威圧感…いつものデビル…いや伊集院さんだ)
「流稀亜、マートン。お前らもスター選手のシャビールに喧嘩売ってNBAに来れなかったら一生馬鹿にされるぞ」
「あ…イケメンしまった」
流稀亜の表情が硬くなる。
「ワシもやってもうた!」
マートンも少し後悔した顔をする。しかし、3人と伊集院が顔を合わせると何故か大笑いしていた。
「はははは」
タイトル 「世界の中では井の中の蛙」
翌日の朝、シャネルが一心達の部屋を訪れるとすでに3人は部屋から出てどこかに 行っている様子だった。そして、部屋の机の上にはブラックカードがおいてあり行く予 定だったショッピングモールもキャンセルすると書かれていた。そしてトレーニングに時間ぎりぎりまで行くからと整理された荷物を車に入れるように書かれていた。
「ふ、生意気な…あんたたちのマネージャーじゃないのよ」
シャネルがその置手紙を見ているころ、一心達はセントラルパークで10キロほどのランニングを済ませて公園内の敷地にあるバスケのコートに来ていた。既にコートでは腕に自信がありそうな人物が数人、バスケをしていた。すると3人を見て3オン3の試合をしようと英語で誘ってきた。
マートンがつぶやく。
「どないする?」
一心が口を開く。
「丁度、なんかこうなんだろう、マグマみたいなのが溜まってるんだよね」
流稀亜も続く。
「イケメンもなんか抑えられないよ」
「なら、決まりやな」
最初は日本人だとなめていた、現地の人々も数十分する頃にはそのプレーに人だかりが多くできるほどになっていた。3人は一切の手を抜かず力の限りプレーした。
「案外、外でやるのって気持ちいんだね」
「くっちゃべっとらんとしっかりパス出せや!」
「イケメン、思うけどさっきり3ポイント外したのはマートンのシュート力のなさだと思うよ」
「はははあ」
どんな相手が来ても負ける気はしなかった。前日伊集院が見せたプレーに3人は昨夜から興奮が収まらなかった。何度ダンクを決めても、何度3Pとを決めても、何度いいパスを出しても「もっと、もっと」と自分たちのバスケの向上心が収まることはなかった。次第に集まるやじ馬は日本からバスケの上手な奴が来たと話題になり、徐々にそれなりの強者が来るようになっていた。しかし、誰も3人を止めることはできなかった。そう、すでにそれなりのレベルでは3人の本気を止めるのは難しかった。しかし、そんな調子図いている3人を見ている人物がいた。
レジー バンガード (196cm)
ウイード トーマス (188cm)
コルネール ドン (216cm)
バンガードが口を開く。
「あの手首の傷は…あの時の…それと、アイツも…」
するとそれを見ていたドンが口を開く。
「おいおい、まさかあのジャップ知り合いか?たしか昨日の試合でシャビールに喧嘩売ってたな」
するとトーマスが口を開く。
「面白そうだな、俺たちも混ざてもらおうぜ」
「…遊びじゃ済まなくなるぞ」
そして、次々に出てくる強者を倒しいつの間にか一心達に声援を送る地元の人もいるくらいになっていた頃、シャネルが公園に来て声をかけた。
「あなたたち、飛行機の時間よ」
「分かった」
シャネルがそういうと、一心達は最後のゲームを終えた。勿論勝利していた。タオルをしまいシャネルの方に歩いて行くと背丈が流稀亜と同じくらいの男がシャネルと話をしていた。一心が口を開く。
「あれシャネルがナンパされてるよ?」
流稀亜が口を開く。
「困ってるみたいだね?」
マートンが続く。
「ほな、助けよか?」
するとシャネルが一心達に声をかけてきた。話を聞いてみるとナンパではなく、近くをランニングしていた3人が少し前から3オン3を見ていたとのことだった。バスケットの素人ではなく経験者だとだけシャネルからは聞いた。相手側の男たちは上下のジャージを着ていたがそれを脱いだ。服を脱いだ体つきは相当に鍛え上げられた肉体だった。それを見て3人とも臨戦態勢に入り、同じように来ていた上下のジャージを脱ぎ捨てた。流稀亜が口を開く。
「こいつ…あの時の」(こいつ…横須賀基地の試合の時の…バンガードだ…後で聞いたけどあの時は熱があったって…)
一心が振り返ってマートンを見ると何故か眉間にシワを寄せていた。
「あいつは…」(横須賀基地の時の…あのアホ…俺より試合で目立っていた…バンガードや…その顔、忘れへんで!)
「…二人ともどうしたの?」一心は天然のためかバンガードの顔を見ても何も思い出せないでいた。すると、一心を無視して着替えた服を脱ぎだす流稀亜とマートン。
「…試合するのね」
一心がそういうと流稀亜が声を上げる。
「シャネル!やるよ!」
「おおきに、やってやろうやないかい!」
「…どったの?二人とも…?」
一心がそういうと二人は無視した。
「…はい?」
シャネルが口を開く。
「そうね10分よ。先に10点取った方が勝ちでいいわね!」
シャネルが口を開く。
「シン、勝てるの?」
「勿論でしょ!」
相手はとても同じ年齢とは思えないほど体格もしっかりしていた。それを見て今度はマートンが口を開く。
「積年の恨み…ひねりつぶすで!」
一心が口を開く。
「…シャネル!ちょっと待っててね。すぐ終わらせるから!」
「シン…そう簡単にはいかないよ…彼は横須賀基地の…」
流稀亜がそういうと一心が口を開く。
「横須賀キーマカレー?」
「…シン…聞いた僕が馬鹿だった」
それを見てシャネルが小声でつぶやく。
「彼ら…どこかで見たような気がする…でも…まさかね…そういえば彼らの名前を聞くの忘れたわ」
一心達から見た三人の印象と名前は次のような感じだった。
レジー バンガード (196cm) 黒人で均整の取れた筋肉と長い腕が印象的。身長は流稀亜と変わらないが筋肉がしっかりとついている。見るかにスピードとバネがありそうな選手。
ウイード トーマス (188cm)
3人の中では一番身長が低い。しかし、体つきは黒人特有のバネがありそうな大腿二頭筋などが盛り上がっている。手足も長く、手のひらも大きい。やはり早そうな選手。
コルネール ドン (216cm)黒人で3人の中で一番大きく、鍛えている体はアメフトの選手の様。日本には絶対いないタイプの選手。素人でないのは見た目で分かる。
神木 一心 176cm PG (ポイントガード)
暁 流稀亜 194cm SF(シューティングフォワード)
ディリック マートン 205cm SF(シューティングフォワード)
周囲はいつの間にか騒ぎになり、一心達は自分達のゲームを見に観客が来ていると思っていた。知らない間にちょっとした人だかりができ約100人ほどの人に見守られていた。ゲーム前にコインを上に投げると面を出したのはアメリカの学生の方だった。その後、手を握手するとバンガードが一心に声をかけた。
「Long time no see」(久しぶりだな)
「…誰?」
首をかしげる一心はバンガードが誰かは覚えていない。一心が首をかしげると見ていた観客が相手チームを応援し始めた。
「USA、USA!USA!」
「キング!キング!キング!
「トルネード!トルネード!」
「マージック!マージック!」
それを見たマートンが口を開く。
「完全アウエーやないけ!」
そしてゲームが始まった…
ガードのトーマスがドリブルをつくと驚いた表情の一心。
「何だ…このドリブル…」
それは手に吸いつような黒人特有のドリブル。一心はしっかり抑え込もうとする。
「行かせない!」
マートンもしっかりマンツーマンでドンを抑え込み、パスコースをふさいでいる。しかし、トーマスはあわてる様子もなく、一心の目の前で試すようにクロスオーバを何度もしながらドリブルをつく。一心は必死にボールを取りに行った。
「早い…」
しかし、トーマスの個人技はそれを優に上回っていた。目の前でドリブルチェンジをすると、また抜き、バックターン、などで翻弄する。一心は不規則な変化に対応しきれず姿勢を崩しそうになる。初めての経験だった。足がもたついて転びそうになった。すると突然ロケットのようにスタートするトーマス。すると目の前に疾風が吹き一心の顔に残るのは風だけ。
「何!」
トーマスはあっさりとランニングシュートを決めた。あまりの速さに一瞬何が起きたのか分からなかった。
「…早い…なんてスピードだ…」
今度は一心達の番だった。しかし攻撃的なディフェンスを仕掛けてくるトーマスをうまく振り切る事が出来ない。
「クソ!」
今までにない経験だった。ドリブルして中央に出ようにもうまく体を使われてどんどんコートの端に寄せられる。マートンは身長差もあり、がっちりドンにマークされている。流稀亜がなんとかバンガードのマークを外しフェイントからドライブインしてシュートの体制に入ると、軽々とドンにハエたたきのようにブロックされる。
「うわ!」
一心達の表情は青ざめていた。何故ならわずか数プレーで実力差が分かったからだ。先日行われた国際試合の対戦相手の中国より数段上だった。
「5分で終わるのは俺達…」
とんでもない勘違いだった。開始3分を過ぎた時にはすでに勝負がつこうとしていた。今度はバンガードの信じられないような早いモーションからの3ポイントをその後2度連続で決められると、最後は一直線にリング手前にとんだパスをドンが豪快にダンク。
「オリャ!YES」
その破壊力に吹き飛ぶマートン。11対2。圧倒的実力差で敗北を期した。まるで電光石火のようなスピードで相手を切り裂くバンガードのドライブイン。クイックネスな動きからマジックのようなパスを出すトーマス。マートンを吹き飛ばし、リングが壊れるかと思うほどのパワーの持ち主ドン。早送りされたコマのようにあっという間に終わった試合。酸欠でもないのに胸が苦しくなった。こんなにも世界が遠いい所にあると改めて現実を見せられた…
「こいつら一体…何者なんだ…」
愕然とする3人にシャネルが声をかけた。
「相手が悪かったわね。あの3人は今年の全米高校生選手権で優勝したチーム。バージニア州、マウス オブ ウイルソンにある オークヒルアカデミーの選手よ。オークヒルアカデミーは数々のNBAのスター選手を輩出した名門校よ。気にすることないわよ。仕方ない。それに彼らは現在アメリカのビッグ3と呼ばれていて高校を卒業する今年、NBAドラフトにかかると噂されている」
レジー バンガード (196cm)(通称 キングjr)
父親は元NBA選手のレジーミラン。バンガードは数々のブザービートを中学時代から繰り返し決めている。コートでのプレイや、言動が紳士的で、世間から注目を集めキングとと呼ばれる。18歳の現在NBAのドラフト1巡目にかかると言われている。超一流選手。
ウイード トーマス (188cm)(通称 マジック)
変幻自裁に変化するドリブルと、どこから飛んでくるかわからないパスを武器に相手をほんろうする。ついたあだ名はポルターガイスト。18歳の現在NBAのドラフト1巡目にかかると言われている。超一流選手。
コルネール ドン (216cm)(通称 トルネード)
並外れたパワーとスピードでゴール下を席巻する。阻止するディフェンスがいるようならばまるで竜巻の様にそれらすべてを跳ね返す。ついたあだ名がトルネード。18歳の現在NBAのドラフト1巡目にかかると言われている。超一流選手。
ト―マスが落ち込んでいる一心達を見てガムを噛みながら口を開く。
「おいjr、あいつらなのか?お前が昔、日本に凄いが奴が2人いたって騒いでたよな、もう一人はおまけか?」
バンガード、トーマス、ドンは小さいころからアメリカの選抜チームで一緒だった。
「…」
黙っているバンガードを見て今度はドンが口を開く。
「やっぱりお前、風邪だったせいで実力を見誤ったな。それとも俺たちが強すぎるのか…まあいずれにせよ、日本のNO,1はあの程度か」
「…」
膝に手を着き青い顔をした一心が口を引く。
「アメリカNO,1…これが世界の実力…俺たちは…何だ?」
そして流稀亜を開く。
「俺たちは何を目指してたんだ?俺たちは…最強じゃない…」
マートンも続く
「高校生活…やりたいことも我慢してすべてをバスケに捧げてもまだこんなに…」
するとキングことバンガードが口を開く。(バンガードは日本に何度か来ていて日本語を話す能力があった)バンガードは同時通訳しながら話し始めた。
「お前らの言う努力ってそれか?トーマスは貧しいスラム街で生まれて親の顔も知らない。ドンは母親が病気で金さえあれば助かった…」
ドンが続けて口を開く
「俺の大好きだった母親死んだのは、俺が10歳の時だった。金がなく移植手術を受けることなく死んだ時に俺は無力な自分を恨んだ。そして早く家族の役に立ちたいと思いバスケで勝ち続けた。わかるか?俺たちはバスケがしたいんじゃない。NBAで成功して金を稼ぐんだ!」
そしてトーマスが口を開く。
「俺も同じような環境だ。毎日バスケの練習が終わると下を向いて歩いた…別に世の中絶望して下を向いて歩いていたわけじゃない…落ちているゴミに食い物のカスがまじってないか探すためだ!ドンも俺も最近でこそ目標はNBAなんて言っているが小さい頃は賭けバスケで勝って腹一杯メシ(ハンバーガー)を食うことが目標だった!お前らの様に自分たちのためにバスケをするのは趣味だろ!生きるためじゃない!覚悟が違うんだよなめんなよ!NBA!遊びじゃねんだ!」
そしてバンガードが再び口を開く。
「遊びたい時期に、遊びを我慢しただ?それで負けたから悔しい?それがどうした?当たり前だろ!」
「…」
一心が声を震わせるようにして顔を上げた。
「俺たちだって…遊びじゃねえ!もう一度勝負しろ!」
トーマスが口を開くと一心も負けじと言い返す。
「いいぜ、暇つぶしだ相手してやるよ」
「何度もなめられてたまるか!」
相手は少し一心達をなめたのか、ボールを先に一心に渡し、手首をひねり
「来いよ…」
というよな仕草を見せた。しかし、そんな挑発にも乗ることなく勝つことだけを考え一心達は集中していた。
「行くぞ!」(俺たちだって負けない。魂を燃やす!)
ロケットスタートのように飛び出す一心の高速ドリブル。
「ん?早くなった…」
少し驚いた表情でディフェンスにつくアイザイア。長い手が一心の手に襲い掛かると同時に一心は一度スピードを緩め緩急をつけ更に体を前に出し完全に抜き去る。
「何!」
カバーに来たバンガードに対して臆することなくと飛び上がりパスを出すと見せかけて自分でシュートに行く。
「もらった!」
しかしバンガードの長く大きな体が障害となりリングが見えない状態。何千回、何万回、とシュートを打って来たかわからない。
「自分を信じろ!」
その感覚を信じてフックシュート(正面を向いてシュートが出来ない時に腕を半円の弧を描くように打つ上級者のシュートです)を放つ。
「いけ!」
綺麗な弧を描き見事にシュートが決まると見ていた周りの一般客も驚く。
「オーマイゴット!」
一心のそんな動きを見て不敵な笑みを浮かべるバンガード。
「最初から本気出せよな、馬鹿」
そしてそのプレーに感化される流稀亜、マートン。
「イケメンも負けない…僕は日本最強!」
「クソチビ!ナイスや!」
一心達は攻撃の手は緩めない。ディフェンスに入っても全員がマンツーマンでプレッシャーをかける。しかし、ボールがバンガードにわたると神業の様に早いモーションからドリブルインすると見せかけバックステップして3ポイントを撃つと綺麗な放物線を描きそのまま決まる。
「早い…」
流石の流稀亜もこれは止められない。湧き上がる歓声。
「キング!キング!キング!」
「USA!USA!USA!」
一心が、トーマスのディフェンスを抑えながらパスのチャンスをうかがっていると、マートンが流稀亜にスクリーンをかけ一瞬のスキを突き流稀亜がドライブインする。
「うおおお!」
カバーに入ったドンにコースをふさがれる。
「フニッシュ!」
しかし、そのブロックを空中で飛びながら右腕で交わすと更に上に駆け上がりボールを持ち替えて左腕一本でダンクシュートを決める。
「イケメンは日本最強!」
「ズトン!」
驚くドンとトーマス。それを見てバンガードが口を開く
「ドン、トーマス、本気でやれよ」
「…」
本来、流稀亜のプレーはこういった強引に入り込むドライブインをしないが、ここアメリカに来て何かが変わり始めていた。今までは交わしていたディフェンスに対して、最短コースでゴールに向かうようになっていた。その後、マートンが打ったシュートがドンによって防がれる。
「まだだ!」
諦めないマートンはリバンドを広いゴールに対して貪欲さを見せる。そしてマートンが強引にシュートを決める。
「ナニワ節や!」
日本 6 対 7 アメリカ
ディフェンスに入る一心達は床に手を張り付けるようにして気合を入れる。
「守るぞ!」
相手の表情が変化したのがディフェンスをする3人にも伝わった。そして気の様なものがビリビリと伝わってきた。
「来るぞ!」
ここで相手に3ポイントを決められると自分達の負けになる。バンガードが中央に立つドンからのスクリーンで3ポイントラインでフリーになるとシュート体制に入る。間に合わないと思ったシュートブロックだが、流稀亜が見たこともないような必死のディフェンスでそのシュートを阻止する。
「俺は日本最高のスコアラーだ!」
凄まじい高さのブロックだった。
「シン!任せた!」
一心は少し3ポイントラインから離れた位置からボールを貰う。ディフェンスをするアイザイアは一心の得意のロングシュートを知らない。打つはずがないと思い、少し下がった位置でディフェンスをしいる。当然のようにシュート体制にはいると手が離れた瞬間に入ると分かるような3ポイントシュートはネットに沈む。
「シュンー!」
「アンビリーバボ!」
日本 9 対 7 アメリカ
絶対に負けるわけにいかない。今度はトーマスがスタートダッシュをかけ一心のディフェンスを振り切ろうとする。しかし、一心も食らいつく。一瞬距離が開き、一心が追いついたところで急旋回して一心を抜き去るアイザイア。ドリブルからシュートに行こうとするが流稀亜がまた身体能力を生かしたブロックでシュートコースをすべてふさぐ。
「止める!」
しかしアイザイアは余裕の表情でシュートに向かい片手で投げつけるようなシュートを打つ。
「何!」
そのボールはリング後ろのバックボードにあたるとバンガードへ。バートンはノーマーク。急いでマートンがカバーに入るがバンガードのシュートモーションは神風のように早い。
「もらった!」
バンガードはの3ポイントシュートがあっさり決まる。同時に観客の声援が鳴り響く。
「USA!USA!USA!」
結果
日本 9 対 10 アメリカ
「アメージング!」
「ファンタスティック!」
「キング!キング!キング1」
完敗だった。一見して得点差だけ見ると接戦のように見えるが違っていた。肌で触れることわかる。まだもう一段階、こいつらはギアが入っていないと。それが証拠に試合が終った後で肩で息をする一心、流稀亜、マートンに対して、バンガード、トーマス、ドンは笑みを浮かべ余裕の表情をしていた。
「…」
相手は、試合慣れしていた。もし、決めなければ負ける場面でトーマスは冷静にシュートに見せかけパスを出し、ボールを受けたバンガードは当然のようにシュートを決めた。悔しいが完敗だった。試合が終わると少しは認められ認められたのだろうか?トーマスとドンが名前を聞いてきた。
「Your name is?」
「イッシン」
「ルキア」
「マートン」
お互い最後は握手をして終わったが、そんな気使いも正直腹立たしかった。何か、お膳立てされた猿の芝居でもしているような気分だった。横を見ると流稀亜とマートンも、握手しながら目が全然笑ってなかった。すぐに振り返り、その場を後にした一心達だが同じことを思っていた。
一心、流稀亜、マートンは三者三様、思いを言葉にぶつけた。
「俺はNBAに行くぞ!」
「イケメンもNBAに行くぞ!!」
「NBAでアホンダラ!しばいたるで!」
「お前ら、顔と名前は胸に刻んだ。必ず近い将来ブッ倒しに来るかなら!」声に出さずとその様子は表情が語っていた。観光気分で来たニューヨークは今までで一番濃いバスケの遠征合宿になった。そして自分たちのレベルの低さを痛感させられていた。そしてこれから、目標を達成するために何をすべきか、わかりきっていた。
「徹底的に1on1を鍛える!」
個人技を鍛え上げ、今よりも得点力を高める。個人の個々の応力を高めるのが急務だと言うことを実感していた(今はまだ叶わない、でもいつか見てろよ…)
タイトル「運命の人…」
そしてその後、夕方の飛行機に乗る前に一心は約束通り愛梨に電話を入れた…
「おはよう」
「ごめん、そっちはまだ朝だよね」
「5時半ぐらいかな?」
「どうだった?」 愛梨がそう尋ねるとかすれた声で小さくつぶやく一心。
「…駄目だった。全然通用しないよ…今の俺じゃあ…」
自信家の一心が珍しく弱気なのに驚く愛梨。
「…いっちゃん…」
「悔しい…心の底からこんなに悔しのは…」
電話口からもその悔しさが伝わるほど、一心は喉をつぶしたような声を出していた。
「諦めるの?」
「まさか!どうやってやり返すか考えてる所だよ!」 「…流石、私が惚れた男!」 「え?」 「流石、私が惚れた男ね!って言ったんだけど?…話が変わるけど私も、明日から行くからね…心配…してる?」 「全くないよ」 「酷い!」(そこは、行かないで愛梨!とかいう所じゃないの!馬鹿、馬鹿、馬鹿!) 「だって愛梨は僕が惚れた女だから…」 「いっちゃん…」
「どんな時も離れていても…僕は愛梨を信じているよ」(愛している) 「いっちゃん…私は…いっちゃんが私を思ってくれるだけで私の生きる世界が満たされて…そして 世界の…空の色が変わるの!」 愛梨のその言葉を聞いた一心は電話越しに少し沈黙をすると静かに口を開いた。 「You’re my destiny」(君は我が運命)
「え…」一心のその突然の言葉に驚く愛梨。両目にたまった涙を悟れないようにして口を開く。 「何?カッコつけちゃって!まさか…いっちゃん…鼻血、出てない?」(会いたい…もう一度、あなたの笑顔を見てから…) 一心がまた口を開く。 「You’re my destiny…」 愛梨はその言葉を再び聞くと目を閉じた。唇をそっと噛み締めると秒針がはじけ飛ぶようにして時を超え一心と繋がる真実の気持と面影、過去と未来と現実。 「…会いたい…いっちゃんに会いたい!」 周りの雑音が遠のき、一心のその言葉だけが心に響き体中をループする。愛梨は胸の苦しみをこらえながら無理やりに明るく笑ってみせた。 「キャハははは…フッハ、ははははは!」(いっちゃん…どんな言葉で伝えたらいいのか分からない。この思いを伝える言葉を私は知らない…だから笑顔で笑うね。不器用でごめんなさい…) それに同調するように一心も笑う。
「はっはははっはははは!」
一心と愛梨は、お互いに両目にたまった涙を悟られないようにして笑い続けた…それはまるで限られた季節のページを 信じ合う織姫と彦星のようだった…
2020年 2月下旬~
タイトル「一心不乱」
日本に戻った一心と流稀は早速食事制限を始めた。合宿所でもご飯の量を半分に減らし糖質制限を行った。体を絞った。そして必要な筋力もつけた。卒業まであと2か月。流稀亜と一心は個人技を磨く意味でも進学予定の大学も入団内定しているプロチームもわざと別々にしていた。
そしてひたすら個人技を磨くため今まで以上に帝国高校の練習にOBとして励んでいた。新しい世代の帝国高校も始動しはじめて全国優勝にむけて懸命に練習していたが一心と流稀亜の練習熱はそれを優に通り越していた。朝、後輩たちが掃除のために訪れる6時にはすでにウエイトトレーニング室で体を鍛えはじめ、その後シュート練習200本をすませると体感を鍛えるためにバランスボールを使ったトレーニングをしていた。授業が終わってからの練習では新チームの練習試合の相手になった。一切手を抜かない一心と流稀亜。新チームは練習試合をすると敗北を通り越し、絶望しか感じられないほど徹底的に叩きのめされた。冗談で北沢が一心と流稀亜に声をかけた。
「アカン!えらいすんまへん。師匠~少しは手え抜いてくりはります?もうシャレにならんですわほんまに…」
10分の試合形式のゲームをしていたが3年生チームと新チームの得点差は30対4と圧倒的な差があった。それまで以上に切れのある流稀亜と一心のオフェンスを誰も止められず。ディフェンスに入れば一心のスティール、流稀亜の高いブロックの前にまともにボールがリングにあたることもほとんどなかった。
「…」
「聞いてますの?」
一心が眉間にしわを寄せて口を開く。
「簡単に全国取れると思うなよ。このままだと無冠になるぞ!」
「アカン!男、北沢 剛!燃えてきたで!」
すると一心がまた眉間にしわを寄せて口を開く。
「北沢…はっきり言ってお前単独で何が出来るんだ?」
流稀亜も口を開く。
「そう、シンの言う通りだよ。イケメンの僕やシン、ノブがいたから攻撃力は必要なかった。でも北沢、一人で得点取れるほど技術あるの?」
「…」
黙っている北沢を更に追い込む一心。
「いい加減な気持ちでやるなら今すぐやめた方がいいんじゃないか?」
ちょっと前まで北沢に優しかった一心が今は人が変わったようだった。それに北沢も驚きを隠せなかった。普段から明るくふるまっている北沢だが、本当のことを言われて何も言い返せず気持ちが落ちていくばかりだった。珍しく下を向く北沢。それでも一心のきつい言葉は変わらなかった。
「体育館…使わないなら俺たちが使う!おい、新キャプテン、お前このままで全国取れると思うなよ!追われる立場の辛さ分かっているんだろうな?」
蓮が力なく返事をしてつぶやく。 「…はい」 「追いかけてくる奴は背中に隠れて追い風を防いで一気に出てくるぞ!」
北沢、蓮をはじめ新チームをコートから追い出そうとする一心と流稀亜。強くなってもらいたいと言う思いも確かにあったが、やる気のない練習は本当に時間の無駄だと感じていた。何よりも試合後、諦めることが先行して体力が限界になるほど追い込んで試合が終ると倒れこむのではなく平気でへらへらしているほど体力が残っていること自体が気に食わなかった。しかしそのやり取りを見ていた石井が二人を呼びつけた。
「シン!流稀亜!ちょっとけでや!」(二人ともちょっと来い!)
「…はい」
監督室に呼ばれると、石井がストーブの上に網をはり餅やスルメを焼き始める。それを黙ってみている一心と、流稀亜。少しすると石井が話し始める。
「ほら、けでや」(食べろ)
餅を指差す石井。
「いえ、僕たちは糖質制限しているんで」
「…めんこぐねえな…んがだじ、アメリカからけってくるっていうのに土産の一つも買ってこねえで、まさが、土産も制限か?」(可愛くないな…お前ら、アメリカから帰って来たのにお土産もないのか?お土産も制限しているの?)
「時間がなくて…」
一心がそういうと流稀亜が口を開く。
「あ、伊集院さんは気を遣ってカードを貸してくれたんですけどね。あんなに一生懸命に命はって稼いだお金…一円だって使えませんよ…それに向こうでも練習してたんで」
「練習?んがだず、どうすた?」(練習?おまえらどうしたんだ?)
「別に…」
「んがだじ、本気でやるごとさ文句ねえども後輩が自信なぐすべしゃ」(お前らが本気出すのはいいけど自信なくすだろ)
一心と流稀亜が交互に口を開いた。
「偽りの自信なんて最初からない方がいいですよ」
「そんなのあったって何の役にも立ちませんよ」
「あいつらが下手で、弱いのがいけないんです」 「戦いは始まってるんです」
口を開けてびっくりする石井。
「…」
一心が口を開く。
「何かおかしいこと言ってますか?」
「ん?んがだちなすた?…んがだじ少し休んだらいいんじゃねえべが?」(おまえらどうした?少しやんだ方がいいんじゃないか?)
流稀亜が口を開き立ち上がろうとする。
「結構です。話がないなら時間がないんで…」
立ち上がろうとする二人を止める石井。
「…おい、なにがあったったいばアメリカで…んがだすっかりかわったべしゃ」(何かあったのか?アメリカに行ってからお前ら人が変わったな)
一心が口を開く。
「変わった?違います」
「…イケメンも変わったと思ってません」
そういうと打ち合わせしたかのように二人同時に同じことを言う。一心と流稀亜。
「知らなかっただけです…」
「なぬを」(何を?)
一心が口を開く。
「自分たちが下手くそだって事実をです。だから努力してもっとうまくなって伊集院さんと早く同じコートに立つんです」
「…んがだじがへだ?ははははは!8冠達成したおめいだいがか?下手くそははは」(お前らが下手くそだって?8冠達成したお前らが?)
流稀亜が口を開く。
「本気で思ってます。世界には俺たちより凄い奴ゴロゴロいますから!」
「へばよ、例えばアメリカに誰がいらったが?」(例えばアメリカに誰かいたのか?)
一心が口を開く。
「許せない奴がいます。一番はシャビール。それから…」
流稀亜が口を開く。
「オークヒルアカデミーのバンガード、ドン、トーマス…こいつら3人とも全然俺らよりうまいです」
「…オークヒルアカデミーってははは、今年の全米の高校NO,1だろが…」
石井を睨み付けるようにして一心が口を開く。
「何がおかしいんですか!伊集院さんはそんな奴らと対等に戦ってましたよ。監督!NBAって戦場なんですよ!」
一心のその勢いに任せた口調に驚く石井。
「…」
我に返る石井(考えてみたらこの馬鹿どもの言っていることが正しい。最初から負けると思っていれば笑い話だが…違うのなら…どこかで負け慣れしている日本に侵されているのは俺の方かもしれない)
「戦場?」
「そうです…命がけなんです!。特に身長の低い僕なんかはNBAに行くことになれば毎試合相当な体力の消耗があるでしょう。あれだけフィジカルの強い選手がいるんです。体がぶつかることで生じる体力の消耗。肉体的にも精神的にも格闘技の試合をこなしたような感じになると思います!」
「んが…だじ…本気でNBAに行く気が?」(お前、本気で行く気なのか?)
一心が口を開く。
「何を当たり前のこと聞いてるんですか!監督は精神病でしょうか?」
「監督は若年性更年期障害か何かでしょうか?イケメンも行きますよ。行くに決まってるでしょ。NBA!」
「精神病に若年性更年期障害…俺が?」
その言葉に圧倒されて開いた口が塞がらい石井。そして一心が口を開く。
「時間ないんで…もう行きますね!」
そういって、立ち上がると体育館のドアを閉める一心と流稀亜。
ドアが閉まると石井はニヤニヤが止まらない。あわてて、椅子から転げ落ちるとスマホを手に取りスカイプで国際電話を掛けた。
「誠か?」
「どうしたんですか?珍しいですね…そして凄いタイミング、たった今ホテルについたところです」
「んがだば、とんでもない時限爆弾を仕掛けたな」(お前、とんでもない時限爆弾をしかけたな)
「何がですか?」
「楽すみだあ」(楽しみだ)
「あいつら…どうですか?」
「目の色変けえで、馬鹿みたいに練習ばすてる。新チームはおかげで自信喪失だいば」(目の色を変えて練習をしている。おかげで新チームは自信を喪失している)
「そうですか」
「んが、ダイジョブが?」(お前は大丈夫か?)
「俺ですか?」
「んだ、なんでもかなりの可愛がりば受けてるらすうな。試合はネットで見だども細けいごと実際に見ないと分がらんたいばな」(そうだなんでも凄い可愛がりを受けているらしいな。試合はネットで見ているけど細かいことは実際に見ないと分からないからな)
「何の話ですか?」
「んがなば、なんぼ、そういうどおもったいば。おめえさっけいつもそうだ。どこさいでもその場所さ、ズブンの物にすらったいな…おめえさっけ、おすえることねえなあ)(お前ならそういうと思ってたよ。お前はいつもそうだ。どこにいてもその場所を自分の物にする…俺も何も教えることはないな…)
「…なんすか、急に」
「誠…「ありがとう」
「監督…実はあのバカ共に俺も教わったんですよ…」
「ははっはは」
お互いに電話口で笑う伊集院と石井。
「あいずらおめえさに追いつく気だど!」(あいつらお前に追いつく気だぞ!)
「きっと、あいつらなら」
「…んだな」(そうだな)
「アイツらが来るまで俺はここ(NBA)のトップ プレイヤーであり続けます!」 そして伊集院は、その宣言通りそのシーズンも爆進し続けた…例え汚い言葉罵られようが、不可解なファールで審判に笛を吹かれようが、どんなに理不尽なファールをされようが伊集院は一心や、流稀亜、マートンが再認識させてくれた己を信じて、いつかNBAに来ることを誓った後輩と戦うその日まで輝き続けるのだった…
タイトル「最後の1on1」
朝の六時。土曜日と言うことで下級生もまだ体育館にはまだ誰も到着していない。卒業まじかに控えた一心と流稀亜。いつもと変わらず少し汗を流すと1対1を始める。誰もいない体育館にシューズのきしむ音が「キュキュ」と鳴り響く。時には床を叩き付ける足音とリングが揺れる音。真剣勝負は毎朝3回行っていた。今日は最後の日だ。様々なことがプレイする中で蘇る。言葉に出さずともお互いを信頼しあい助け会った二人。これから先はお互いの事を考えて別々の道に進む。1on1が終わると二人とも倒れこむように床にあおむけになり息を切らせる。
323勝323敗。
一心は横にいる流稀亜の顔をじっとのぞき込む。
「ねえ、流稀亜…もしかしてだけど俺たち横須賀で会ってない?」
「…今頃気が付いたの?シン…」
「えーだって雰囲気が全然違くて」
「どうして気が付いたの?」
「いや、髪の毛が中途半端に伸びて…その角刈りっぽい頭を見た気がして…」
OBとなった一心と流稀亜の髪はスポーツ刈り程に髪の毛が伸びてきていた。
「ははは」
大笑いする流稀亜。
「そこにマートンもいたの知ってた?」
「え?嘘!」
「本当だよ。コーチの息子だったんだよ。でもその時のマートンは肥満体質で太ってからね」
「え!そういえば…試合に出るときにそんな子供に睨まれていたような気がする…」
「はははっはは」
顔を合わせて笑う一心と流稀亜。
「これでお互いに五分五分だね」
「次は大学とプロで勝負だね」
「しして…オリンピックにNBA…」
そんな話をしていると、後輩たちが勢いよく体育館に入って来る。
「おはようございます!」
「…」
途中で言いかけた言葉が何か二人は交わさずともよくわかっていた。
「ははっは」
「流稀亜…3年間ありがとう」
「シン、僕も感謝してる。ありがとう」
「イケメン…間違ってないよね。進む道」
「うん、間違ってないと思う。別々になってお互いの個人技を磨いて、今度はA代表…全日本で会おう!」
流稀亜が口を開く。
「まずは全日本のスタメンに入ろうか」
「うん、まずはオリンピック、そして次はNBA!だ!」
そう言った後で一心と流稀亜はお互いの手をがっちりと握りあった。これから始まるであろう険しき道。そんな険しい道を逆に待ち望んでいるような笑顔で二人はその後笑っていた…
一心は横浜の大学に通いながらのプロチームに所属することになった。NCAA(アメリカの大学バスケットボールリーグ)のチームからも誘いがあったがそれらを一心は断った。
神木 一心 進路
所属大学 神奈川県 横浜港北学院
プロチーム 「レッドブルドッグス」と契約。
流稀亜もNBAやNCAAからの誘いもあったが敢えて試合に出る事が出来るチームで個人技を磨くため日本にとどまった。
暁 流稀亜 進路
所属大学 東京 等々力体育大学
プロチーム 東京 渋谷 「サイバー トリック」と契約。
ディリック マートン 進路
所属大学 松濤大学。
プロチーム 東京 港区 「バッファロー侍」と契約。
3人の戦いはまだ序章が始まったばかりだった…
FLASH DUNK(フラッシュダンク) 神楽坂 玲衣 @ryu731
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