天才は怪物と出会う

大学生やってます

第1話

サッカーU18日本代表に飛び級で選出された橘龍馬は退屈していた。




橘竜馬は天才である。


小学生の頃から日本代表に選出されており、先月行われたU 17のワールドカップでも日本を準優勝に導いた。


そんな竜馬がなぜ退屈してるかというと代表戦がしばらくないからである。


竜馬は日本代表である前に所属しているチームがある。


日本代表でプレーする機会が多いためチームにいる機会が少ないが、代表戦がない場合はチームに戻るのである。


そして現在、チームの練習の帰りで竜馬は退屈していたのである。


竜馬の入っているチームは弱くない。むしろ全国有数のチームであるだろう。


しかし竜馬は同世代に匹敵する選手がおらず、常に自分より年上の選手とプレーしてきた。


そのためいくら全国有数のチームの練習であろうと竜馬には退屈なものであったようだ。


そんな竜馬が練習からの帰りで最寄りの駅から自宅に帰ろう歩いていたとき、ふと音が聞こえる。




(この音、誰かリフティングでもしてるのかな?確か帰り道に公園があったような。そこでしてるのかな)




そんな何気ない感想を漏らしながら竜馬は帰り道を歩いていく。


ちょうど公園の前を通るとき何気なく公園の中をみる。公園の中央にリフティングをしている少年がいた。




この少年の名前は安藤詩音。近くに住む普通の中学生であった。




これは本当に偶然だった。


たまたま親が迎えに来れずに電車で帰っていた竜馬。


休日の夕方にたまたま気分転換に公園にサッカーをしにきていた詩音。


二人が出会えたのは奇跡だった。




詩音がリフティングしている姿をみた竜馬は驚愕する。




(なんて繊細なタッチだ。あんなタッチは見たことない。僕でもできないだろうな。


世界中を見渡して何人できるかどうか。きっと相当うまい選手だ。


見たところ僕と同じぐらいの歳だと思うけど見たことないな。話しかけてみようか)




そう考え竜馬は公園に入っていく。詩音は公園に入ってくる竜馬に気付くが特に気にせずリフティングを続ける。


竜馬は詩音に近づき話しかける。




「ねえ君、どこのチームでやってるの?」




声に気づいた詩音はリフティングを続けながらで言う。




「どこのチームってなんのことだ?」


「サッカーのチームだよ。君相当うまいでしょ。だからクラブチームに入ってると思って」


「俺はサッカーなんてやったことないぞ。このリフティングはただの趣味だ。つい一月前に始めたんだ」




そう言われ竜馬は驚愕する。




(嘘でしょ。絶対やってると思ったのに。しかも一月前に始めてこんなリフティングができるなんて)




竜馬は背中に電流でも流れるような気がした。


竜馬は他人をあまりすごいと思わない。


もちろん全く思わない訳ではないが同世代にたいして思うことはほとんどない。


そんな竜馬は素直にすごいと思った。


この目の前にいる少年はたったひと月で自分でさえできない繊細なタッチを手に入れているんだと思って。




竜馬がそんなことを考えてると梅雨知らず、詩音は困惑していた。




(一体なんなんだこいつは。


いきなり話しかけてきてサッカーチームがどうたらこうたら言って、何がしたいんだ?


それよりそろそろ時間だな。もう帰ろう)




「どこの誰かは知らないが俺はもう帰るぞ。じゃあな」




そう言って詩音はリフティングをやめて帰ろうとする。


いきなり帰ろうとする詩音に竜馬は焦ったように言う。




「ちょっと待てよ。本当にサッカーやってないの?」


「本当だよ。興味もないし。用件はそれだけか?じゃあ本当に帰るからな」




詩音にそう言われ焦った竜馬は自分でも思ってもないことを言う。




「待ってよ。もし良かったらサッカーしない?」




この一言が二人の少年の運命を変える。退屈していた天才は眠っていた怪物を目覚めさせてしまったのだ。


それがわかるのはまだ先のお話である。




サッカーしないかと言われて詩音はまた変なこと言いやがったコイツと思った。




「さっきから変なことばっかり言ってお前一体誰なんだよ?」


「え!僕のこと知らないの?テレビとかで見たことない?日本サッカー界の至宝って呼ばれてるんだけど」


「知る訳ないだろ。サッカーに興味ないって言ってるじゃん」




詩音がそういうと竜馬はガックリと項垂れる。意外と自分の知名度に自信があったようだ。




「知らないんだね。じゃあ自己紹介するよ。僕の名前は橘竜馬15歳、サッカーU18日本代表だよ。


今は日本サッカー界の至宝って呼ばれていま〜す」


「ふ〜ん。そうか。じゃあ帰るから」


「いやいや、僕が自己紹介したんだから君もしてよ」


そう言われ詩音はとても嫌そうな顔をしながらも自己紹介をする。




「俺は安藤詩音。14歳だ。帰宅部をしている。


もう帰っていいか?」


「すぐ帰ろうとしないでよ。帰宅部なら高校からでもサッカーやってみない?


君はすごくうまくなる気がするんだ」


「なんで俺がサッカーなんてしないといけないんだよ。


めんどくさい。俺は今のうちに勉強して将来楽に過ごすんだ。


だからサッカーなんてしてる暇ないんだよ」


「そう言わずにさ〜。君ならプロになれるよ。そしたらすごいお金持ちになれるよ?」




いたずらっ子のような顔をしながら竜馬は言った。


それに対しても対して反応せずに詩音は言う。




「なれる訳ないだろ。俺は素人だぞ。今からやってプロになるなんて遅すぎる。


俺は慎重なんだよ。確実なことしかしないんだ」


「君の才能なら全然遅くないと思うけどな〜。


まあ確実になれるプロになれるとは言えない。さすがに甘い世界じゃないからね。でも可能性はすごい高いと思うよ」


「確実じゃなきゃしない。だから諦めろ。じゃあな」




そう言って詩音は公園を出ていく。


その背に向けて竜馬は笑顔で声をかける。




「仕方ないから今は諦めるよ。でも気が変わったらサッカーをやってね。


そしたらまた会おう。」




それに対し詩音は返事をする訳でもなく自転車のカゴにサッカーボールを入れ帰っていく。






公園に一人残った竜馬は思う。


(彼ならいいライバルになりそうだったのにな〜。あの感じじゃやらなそうだしな〜。


残念だけど仕方ないか。そろそろ僕も帰らなきゃな。また会えないかな〜)




これが後にサッカー日本代表で7番を背負い天才司令塔と言われた橘竜馬と


世界中を熱狂させ日本の怪物と呼ばれた安藤詩音の出会いである。








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