オパイ the セーラーウーマン

シロクマKun

第1話 オパイTheセーラーウーマン


「お姉さん、おっぱい貸してくれない?」


 なんだか学校に行きたくないあたし、折井衣舞おりい いぶ(16歳)がそんな耳を疑う頭の悪い言葉を掛けられたのは、朝のラッシュもひとしきり終わった頃だった。


 空は快晴、でも学校行くの面倒くさい。さて、どうやって授業をサボってやろう? そんな事を考えながらコンビニでアイスコーヒーを買い、余分に貰ってしまったコーヒーミルク関西ではコーヒーフレッシュをもて遊びながら人気ひとけのない公園に向かう。そこでベンチに座りぼーっとしていると、いきなり後ろから声を掛けられたのだ。



「お姉さん、おっぱい貸してくれない?」


 はあ? もしかしてあたしカツアゲされてる? ってか、おっぱいって言った? お金じゃなくて?


 いやそんな、タバコの火貸してくれみたいに言われてもなぁ。おっぱいは簡単に取れないじゃん? とか思いながら、後ろを振り向くと、そこに変態がいた。


 いや、変態と言うといささか語弊があるかもしれない。何故なら普通の変態には頭に角なんか生えてないからだしかも2本ありました

 額の両側からニョッキリと細身のタケノコのように伸びている。

 普通、頭に角が生えてたらそれは、季節外れのハロウィン仮装かアニメイベントのコスプレイヤーくらいだろう。


 その変態は真っ黒いマントに身を包み、悠然と立っていた。ボサっとしたワイルドな黒髪の中にある顔はそれなりに整っていて、アタシを上から見下ろしている。身長は2㍍前後ってところか。胸の辺りがマント越しでもわかるくらい、大きく膨らんでいた。


 そう、彼女は女だった。



「おっぱい……ですか?」

 聞き間違いじゃないかと思い、聞き返してみる。


「うん、あるよね? おっぱい」

 そう、無邪気とも思える顔で聞いてくる変態。

 やっぱ聞き間違えじゃなかったのか。まあ、台詞のおかしさと見た目のおかしさが同じ方向、向いてるから違和感ないけど。


「いや、まあ、ありますけどね? 二つほど。でも、見ず知らずの人に貸すのはちょっと無理ですね」

 あたしはキッパリ拒絶する。大体、どうやっておっぱい貸すんだよ?


「えぇっ、いいじゃん?減るモンじゃなし。先っちょだけなし崩し的手腕ですねでもいいから」


「いやですよ。なんでそんなにおっぱい揉みたいんです?」


「アタシら改造人間はおっぱいパワー吸って強くなるんだよね」


 あ、なんかすんごいバカっぽいキーワードが出たんだけど。ナニ? 改造人間って? 昭和? しかも『アタシら』ときたか。少なくもあと1人、こんな馬鹿がいるって事だよね。大丈夫か、日本?


「そんなに揉みたければ自分の揉んだらどうです? 立派なの、ついてるじゃないですか」

 変態さんのおっばいはマント越しに見てもデカいしね。


「自家発電したらむ自家発電って言うなよしろパワー落ちるんだよ。だいたい、アタシのおっぱいはアタシの物だけど、お前のおっぱいもアタシの物なんだよ。嫌って言っても揉ませて貰うぞ?」


「そんな某いじめっ子みたいに言わないで下さい。あっ、ちょっと、ダメだったらっ、ああん」


 いきなり図体に似合わぬスピードで背後に回られ、がっしり胸を鷲掴みにされた。そのまま超高速でモミモミされる。


ちょっ、ダメモミモミモミモミアァっ、そんなもみもみもみもみしくしたら……モミモミモミ


 揉まれる度に体から力が抜けていく。いや、感じてるとかじゃなくてホントにエネルギーが吸われてる感じ。こころなしか、おっぱいも小さくなっていってるような……


 うぉい、ちょっと待て⁉ このまま吸われたら、あたしのおっぱい無くなっちゃうんじゃないの⁉


「うぼほほっコレモミモミモミモミはなかなかいいおっぱいもみもみもみもみじゃないか。ほっほ〜たまらんっモミモミモミモミ



 その時だった。


「止めろっ、このへんたいっ!」


 突如、セーラー服の女の子が現れ、真横から変態にライダーキックをかましたのだ。


「ふがっ、なんだぁ?」

 蹴られた変態は、ほぼダメージはないようだったが、あたしのおっばいから手は離れた。


「大丈夫か?お姉さん?」

 セーラー服の少女がそう、あたしに声を掛けてきた。

 

 中学生くらいだろうか?サラッサラのショートヘアに切れ長の目が印象的な少女だった。あたしより背は低く、全体的に細身な身体つきで、胸はまだ発達途上というところか。


「なんだキサマぁ! おっぱいの無いヤツは引っ込んでろ!」


 変態が少女の胸ぐらを掴み、そのまま片手で投げ飛ばす。

 ビックリするぐらい飛んでいった少女は地面につく前にくるっと身体をひねって、まるで猫のように綺麗に着地した。


「この変態、なんてパワーだよ?」

 少女が驚いたように呟く。


「ふわっはっは、いいおっぱいパワーをいっぱい頂戴したから何気に韻を踏んでますな。今のアタシは吉○沙保里の次の次くらいに強いぞ!」


 3番手かよ? えらい謙虚な改造人間だな。つか、吉田○保里のハンパ無さしか伝わらないわ。


 でも確かにあの変態は強い。どちらかというと華奢なセーラー服少女が敵うとは、到底思えなかった。


「そうかい、ならコッチも奥の手を出すか」

 そう言って少女はスカートのポケットから何やら四角い物体を取り出した。


 パック牛乳?


 そう、それは確かにパック牛乳だった。

 少女は箱の側面に付いてるストローは使わず、おもむろにストロー穴に人差し指を突っ込んだ。結構硬いパックなのに指が第一関節くらいまで入ってる。

 引き抜いた指についた白い液体をチロっとなめた後、左手を腰に当て、仰け反るようにして直に牛乳を飲み始める。


 見間違いだろうか?

 ゴクッぼいんっ、ゴクッぼいんっ、と喉がなる度、少女の胸が膨らんでいく。


「ぶはぁっ」

 と飲みきった時には、ほぼ絶壁だった少女のおっぱいはCカップくらいになっていた。


「な、なんだーそのおっぱいはぁっ⁉」

 変態が目を剝きながら噛み付く。


「吸収率がいいんだよ夜でも安心


 いや、そういう問題⁉ ってかこの子も普通じゃないな。ホントに大丈夫か、日本?


「ええぃ、どーせそのおっぱいもアタシのモノだ。揉み倒してくれよう!」

 変態が手を広げてセーラー少女に襲い掛かる。


「揉めるもんなら揉んでみなっ」


 角付きの2㍍の大女と、華奢な少女ががっつり手4つに組む。

 プロレスでお互いの両手を組み、力比べをするアレだ。 


 グググと上から全体重を掛けるようにする変態の顔は、歯を食いしばりすごい形相になっているが、対する少女の方はまるでダンスを踊っているかのように涼しい顔をしていた。信じられない事だが、明らかに変態大女の方が押されている。


 すっごい、この子。横顔も美少年風でエロカッコイイし。あたしは思わず見とれてしまう。


 少女はやがて力比べに飽きたのか、変態の両手を掴んだまま、ジャイアントスイングのようにブンブン振り回し始めた。


「うおぉい止めろっ目が回るぅー‼」


 それは何というか、とてもシュールな光景だった。スリムで小柄な少女が2㍍の角付き変態女をぐるぐる回している。


「はっ、離してくれぇっー!」

 大女の悲痛な叫びが響きわたる。


「離して欲しいの?じゃあ、はい」

 そう言って少女が手を離すと、変態女はマンガみたいにすっ飛んでいく。


「ば、ばかっ、いきなり離……」  すなーっ……


 変態は無茶苦茶飛んで植込みに顔から突っ込んだ。


「やったぁ、キミすごいのね?」

 あたしがセーラー少女に近寄ると、彼女はふっと笑顔を見せ、前のめりに倒れながらあたしのおっぱいにしがみついた。


「えっえっ、アンタもおっぱいが目的なの?」     いや、キミなら別にいいけど


「……目が回った……」


 そっちかいっ! 調子のって回し過ぎるからだろっ。焦ったわ!



「あれ? キミ、心なしかおっぱい萎んでない?」

  Cはあったであろうおっぱいがまた、最初に見た絶壁に戻ってる。


「あ、ホントだ。やっぱ都会のパック牛乳は駄目だなぁ。薄い上に量が少ない」

 そう彼女が呟く。

 

「キミって牛乳飲んでおっばい大きくなって、超人的な力出せたりするわけ?」


「そうだよ」

 そう言ってニコッと笑う少女。うぉっ、ズキュンどきたぁ。ヤバイ、かわいい。

 てか、一つ疑問が。


「ひょっとして身内にほうれん草好きな水兵とか居たりする?」


「うん、ボクのお祖父ちゃんアメリカ人でほうれん……」


「待った‼ みなまで言うな‼」いろいろヤバいわ。




 その時、すっ飛んでいった変態女が顔を真っ赤に染めながら戻ってきた。

 

「うっわ、また来たよ、あの変態。ねえ、キミ大丈夫?」

 おっぱいが小さくなった少女は無念そうに頭を振った。


「うーん、この状態じゃ、勝てないなぁ」


「じゃあ、あたしのおっぱい揉む? それで力出ない?」

 少女が何言ってんだコイツみたいな顔してこっちを見てくる。


「いや、ボクあんな変態じゃないから。おっぱい揉んで力なんか出ないよ。それより、お姉さん母乳出ない?」


「出るかいっ!! 高校の制服着てて母乳出たら怖いわっ!!」



 そんな間にも変態は近づいてくる。どうしよう、せめてなに

か武器になるような物ないかな?そう思い、ポケットを探る。

 ん、何だコレ?


 ポケットから取り出したソレを見て閃いた。

 少女にそれを見せると「行けるかもしれない」そう返事が帰ってきた。

 

「お姉さん、ボクがアイツに組み付いた三秒後にアイツに馬乗りになって……」

 少女が素早く手順をあたしに伝えてきた。


「うん、わかった」あたしは頷く。


「じゃあ行くよっ」

 その言葉と共に少女が変態へと走っていく。


「きっさまーっ絶対許さんっ! ふんっ、どうやら馬鹿力も切れたみたいだな?」

 変態女はそう言って余裕を見せた。確かに走っていくセーラー少女に先程の凄みはなく、どこか弱々しく見える。


「それはどうかな?」

 そう言いつつ少女が取り出した物、それはあたしがさっき渡したコーヒーミルクだ。

 走りながらペロンとフタをめくり、そのまま飲み干す少女。

 途端に走るスピードが倍くらいになった。コーヒーミルクは実はミルクじゃないんだけどあの少女は知らないみたいだ。まぁプラシーボ効果ってやつ?

 

 変態の顔付が歪む。


 少女は変態の足に組み付いた。あたしはカウントを始める。


 イチ


 少女が変態の足を取り、変態を地面に倒す。


 二


 少女が変態の足の間に自分の足を入れ、複雑に絡ませたまま自分も倒れ込む。アキレス腱固めだ。



 少女が叫ぶ。



 『サンだ! 乗れ!』でダッシュした。




 アキレス腱固めを決められて動けない変態に、あたしは馬乗りになった。 

 これが、コーヒーミルクではごく短時間しか力が出せない彼女の苦肉の策だ。変態のマントをペロンと捲くる。ボイ~ンとでかいおっぱいが出てきた。そのおっぱいをガシッと掴み、高速でもみもみする。


「なっなにをっモミモミモミあっ、やめっ、だめもみもみもみっ、そんなっああっ!モミモミモミ!」


 変態が泣こうが喚こうが、悶えようが、あたしは容赦なく揉みまくった。


「ああっ、もみもみもみほんとにっ、モミモミモミやめっ、ああーっ」もみもみもみ

 

 うーん、何かだんだん楽しくなってきたな、ほれほれ、ええか? ええのんかあ?








「あのー、お姉さん、もう止めてあげた方が……」

 セーラー少女に肩をポンポン叩かれ、あたしは我に返った。


「しくしくしく……」

 ふと下を見ると、2㍍の大女が半分程になってた。おっぱいもつるんつるんだ。


「えっ? ええッ⁉」

 

 なんと、変態大女は小学1年生くらいの幼女になってしまっていた。頭の両横にちょこんと小さな角が付いている。


「アンタ、これが本当の姿だったの?」

  あたしがそう問い掛けると、幼女は泣きながら立ち上がり、あたしをニラ見据えた。


「お前ら、絶対に許さないっ、今度あったら覚悟しとけ!」

 そう言い放って背を向けた。

 トボトボと歩き出す幼女。


 あたしとセーラー少女か呆然としてる中、幼女が振り向いて叫ぶ。


「アタシの名は、『青井+あおいプラス』だっ! お前らは?」


「あ、あたしは折井衣舞おりい いぶ


「ボクは名乗る程のもんじゃないから、じゃあね」


「「あっ、こら待て!」」

 

 あたしと青井+の叫びがハモる中、セーラー少女は颯爽と行ってしまった。


 何か無茶苦茶だったけど、もう会う事ないんだろうなぁ。

 うーん、アタシ好みに可愛かったし、ちょっと残念。


 気がついたら青井+とか言う変態幼女も消えてた。

 こっちはもう一生会わなくていいやww



 ――そう思ってたんだけどなぁ。


 運命なのか何なのか、意外と早く再会してしまうのだった。




 ◇


 

 Xmasも近い寒い放課後、とある案件を抱え思案しながら歩くアタシは、後ろから走ってきた車に激しくクラクションを鳴らされ、思わず心臓が飛び出そうになってしまう。

 振り返ると、1車線の狭い道をどえらい勢いで車が突っ込んでくるのが見えた。

 慌てて道の端ぎりぎりまで避けると、車はスピードも落とさないまま通り過ぎていく。

 オマケに通り過ぎる瞬間、ドライバーに憎々しげに睨まれた。

 はあ?、なにあのバカ⁉

 そもそもこの道、通学路だぞ?

 徐行運転するのが当たり前だろ?

 怒りに震えながら車を見送ったら、馬鹿ドライバーはさらなる悪行を重ねた。

 走りながら窓を開け、火のついたタバコを窓からポイ捨てするという極悪非道の行為。

 今時、あんな事する⁉

 めちゃくちゃムカついたが、何も出来ない自分がもどかしい。


 その時、アタシの横をめちゃデカイ犬が通り過ぎた。

 立ち上がったらアタシの身長くらいあるんじゃないかと思う程デカイ犬にもビックリしたけど、その背中に小さな女のコが跨っているのにはもっとビックリした。

 まるで優雅に乗馬するように乗犬?する少女と犬が軽快に走っていく。

 そして少女は手に持ったゴミばさみで、スピードを落とさないまま器用に火のついたタバコを拾い、更に走っていく。

 やがて信号待ちをしていたあの馬鹿ドライバーの車に追いついた。

 停車しているドライバー側の窓をにこやかな顔でトントンとノックする幼女。

 ここからだと馬鹿ドライバーの表情は見えないけど、いきなり可愛らしい幼女に窓をノックされ、さぞかし面食らっている事だろう。

 中からだとデカイ犬は死角になって見えないしね。


 どうやら馬鹿ドライバーが車の窓を下げたみたいだ。

「嬢ちゃん、何か用か?」

 って声が聞こえてくる。


 すると、幼女はにっこり笑って、

「落とし物ですよ?」

 と、言いながら火のついたままのタバコを車内に投げ入れた。


「@#*&%$#%@$!!!」


 馬鹿ドライバーの言葉にならない喚き声が響いてきた。


 幼女と犬はといえば、ぐるっと方向転換してこちら側にドドドドドって勢いで走ってくる。

 そりゃまあ、あんな事したら逃げないとね。

 こっちに走って来るもんだから、アタシもつられて走り出しちゃった。


 何故か犬と並走しながら幼女に尋ねる。

「アンタ、何やってのよ?」

 すると額に二本の角がある幼女はやっとアタシに気がついた。


「あーっ、おまえっ! 忘れもしない、えーっと、クロワッサン?」


折井衣舞おりいいぶだよっ!」


 そしていきなりボケてきた幼女はいつぞやの青井+である。


「何してるって、見りゃわかんだろ? ゴミ拾いのボランティアだ」

 犬に跨った青井+が言う。

 コイツ、悪の組織のメンバーじゃなかったっけ?


「ボランティアはいいけどさ、あの馬鹿ドライバー、悲鳴上げてたじゃん?」


「ああ、火のついたままのタバコ、股間に投げてやったからな。大好きなニコチンで玉ニコとチンがこげるんなら本望だろw?」


 うわぉ、ボランティア活動の方向性はいいけど、方法が激しく間違ってるな、コイツ。まぁ、アタシ的には『良くやった』って言いたい気持ちもあるけどさw。


「ハァハァ、そんで、その犬は何なの?」

 走りながらの会話はさすがにキツいな。


「最近仲間になった改造ワンコだ。名前はあのパン屋の名犬○ーズにあやかって、『バター』にしたぞ?」

 バター犬かよっ! 意味知ってんのか、コイツ?

 あ、バター犬知らない人はググりましょうね。


『ヨロシクだワン。お嬢さんバターいかがですワン?』


「うわぉ犬が喋った⁉ つかバター勧めんなよっ!」

 犬の頭を思わずポカリと叩いてしまう。


「あーっ、おまっ、動物虐待だぞ?」


「アホかっ、動物改造する方がはるかに虐待だわっ!」

 まあ、人間は改造してもいいのかって話だけどね。


「言っとくが、外科手術はしてないぞ? ウチの博士が、頭が良くなる特殊な薬を飲ませただけで」


「はぁ? そんな怪しい薬があるの? あるならアタシが欲しいくらいだけど」

 なんか怪し過ぎるなぁ。

 こいつらの組織って、高齢者に低周波治療機とか売り付けてんじゃないだろな?


「ふふーん、それがあるのだ。たしかD H Oどこかへんなおじさんとか……」


D H Aドコサヘキサエン酸だ、バカ。お笑いレジェンドか? つかそれ、全然コンビニで買えちゃうヤツだからっ! あと、取り敢えず止まろ……ハァハァ」


 あの馬鹿ドライバーが追いかけてくる気配もないし、あたし達は立ち止まった。


「ふぅーっ、久し振りの運動はさすがにキツいな〜」


「それよりここで会ったがこんにちはだ。勝負しろ!」


 なんか変なプログラム頭にインプットされてんのかな、コイツ?


「ヤダよ。しないけど因みに何の勝負よ?」


「ボランティア勝負だ。タバコ拾いとか」


「それ、めっちゃ断りにくいじゃん。吸い殻で枕とか作るわけ?」


「ん? なんで枕?」


『あの、お話中ですが、アイツ追っかけて来ましたワン』

 と、バター犬が割り込んできた。

 見るとホントにあの馬鹿ドライバーが血相変えてこちらに向かって来てる。

 

「わははははっ、見ろっ、股間焦げてるっ!」


「バカ、笑ってる場合かよ。何とかしないと」

 言うと青井+がアタシの胸に手を伸ばしてきた。


「何とかしてやるから、おっぱい揉ませろ」

 おっぱいパワー吸うつもり? それやったらおっぱい縮んじゃうじゃん。


「えーっ、やだよ。そうだバター、アイツやっちゃいな?」

 このでかいバター犬なら対抗できるだろう。


『イヤだワン。男相手に腰振りたくないワン』


「交尾しろとか言ってないわっ!」

 バターって言うよりバカーか?


 あっそうだ! 突然閃いた。


「ねえ、おっぱい揉んでいいよ?」

「えっいいの? では遠慮なく」


 青井+がアタシの背後に回り込みおっぱいに手を回す。

 そして揉み始めると……


「止めろ、この変態!」

 あっ、来るかと思ったらホントに来たよ。

 そう、いつぞやのセーラー服少女がまた飛び込んできたのだ。

 今日は相手が幼女だからか、ライダーキックじゃなくて、頭を軽くチョップに留めてるみたい。

 ってかこの娘、どこでアタシのピンチを見てるんだろ?

 


「あいたぁ。あーっまたお前かっ! 勝負だこらっ!」


「勝負はいいから。はい、これ飲んでアイツやっちゃって?」

 アタシはそう言いながらセーラー少女にパック牛乳を渡す。

 こういうこともあろうかと、最近パック牛乳を持ち歩いてるんだよね。


「ん? よくわかんないけど?」

 そうは言いつつもセーラー少女はアタシたちの前に立ち、馬鹿ドライバーに対峙する。

「なんだお前、どけっ!」

 近付いてきたバカが少女の襟首を掴んだけど、少女は気にする風でもなく、パック牛乳にズボっと指を刺した。穴を開けたパック牛乳を掲げドバドバと豪快に喉に流し込む。

 少女のおっぱいがボンっボンっ、って膨れていった。

 相変わらずイカリの入れ墨のあの人を彷彿させるなあ。


「なに!? こいつ!?」

 突然爆乳になった少女にたじろぐバカ男が掴んでいた手を離してしまった。

 すると少女の方が男の両脇に手を入れ、そのまま「高い高い」をするように上にぶん投げる。

 男の体は通常の胴上げの倍くらいの高さまで飛び、落ちてくる。

「や、やめろ、こらっ!」


 何度も繰り返される一人胴上げ恐るべし。

 終いに「やめてください、ごめんなさいごめんなさい」とバカ男に言わせるのだった。


 結局、すっかり毒気が抜けたバカ男はヘコヘコと頭を下げながら帰っていく。


「じゃ、ボクもこのへんで、グフッ」

 案の定、サッサと帰りかけたセーラー少女の首をスリーパーホールドで締め上げた。

「ちょっ、おねーさん、苦しいってば」


「うるさいっ、あんた一応主役の癖に名乗りもしないって、どんだけ引っ張るつもりよ?」

 そう、まだ誰もこの娘の名前を知らないのだ。


「そーだぞ? ちゃんと勝負しろ」

 青井+は相変わらず同じ事言ってるし。

 ん? あっ、そーだ!


「そんなにボランティア勝負したかったら、いい考えがあるんだけど?」


 アタシは二人にそのアイデアを提案するのだった。






  ◇




 それから数日後の放課後、アタシはとある幼稚園の前にいた。

 今日はこの幼稚園でXmasイベントが行なわれるのだけど、アタシはクラスの友人から、ボランティアでやる催し物の手伝いを頼まれていたのだ。

 アタシと友人とがやるのは人形劇なんだけど、ついでに青井+とセーラー少女に、何か催し物やって誰が一番うけるか勝負しない?と提案したのだ。


 おそらく何も考えていないであろう青井+は予想通り直ぐノッてきたんだけど、セーラー少女も意外とすんなりOKしたのにはビックリしたなぁ。

 

 で、今二人が来るのを待ってるわけ。

 ポカポカと快晴なのは有り難いけど、Xmas的にはもう少しどんよりして欲しい気もするのは贅沢かな?


 待つ事数分、いつも通りのセーラー服姿の少女と、でかいリュックを背負い

バター犬を連れた青井+が現れた。

 因みに今日の青井+は女子高生くらいの姿だった。

 って事は、既にどっかでおっぱいエネルギーを吸って来たんだろう。


「そのでかいリュック、何入ってんの?」

 冷蔵庫でも入ってんのか?ってほどでかくて気になる。


「内緒だ」

 ふーん、余興の小道具なのかな?

 逆にセーラー少女は潔い良いほどの手ぶらだし。

 

 大丈夫かなぁ。






  ◇



 アタシと友人達との人形劇が終わり、パチパチと拍手がなる。

 イソップ童話をアレンジした人形劇だったんだけど、娯楽に慣れてる今時の幼稚園児にはインパクトが薄かったかな? 

 それなりにウケたけど、大歓声は上がらなかったし、自己採点したら68点ぐらいかなぁ、と思う。


 次にセーラー少女の番なんだけど、緊張のきの字も感じられない、のほほんとした様子、やっぱり得体が知れないわ。

 少女は牛乳瓶一本持って子供たちの前に立つ。何するかなんとなく想像つくけど。


「みんな牛乳は好きかなー?」

 と、呼び掛ける少女。


「すきーっ」とか言う子は少数で、ほとんど「きらいーっ」「おいしくないー」って声だった。


「牛乳飲むとねー、とーっても強くなれるんだぞー?」

 と、少女。


「ほんとー?」「ええー、ウソだー」

 様々な反応を見せる子供たち。

 中でもちょっと悪ガキっぽい子たちは否定的なようだ。


「嘘じゃないよ。今からボクが証拠を見せるね。あ、君と君、手伝ってくれる?」


 そう言って、悪ガキ二人を呼び寄せた。


 そして、おもむろに牛乳を飲み、おっぱいがドカンと大きくなる少女。

 目が点になる子供たち。

 さらに少女が二人の悪ガキをポイポイと宙に放り投げお手玉を始めたので、その場にいた全員が仰天する事となる。

 事情を知ってるアタシも見てて気が気じゃなかったけど、悪ガキ二人はキャッキャとはしゃぎ出し、他の子供たちも一気に興奮状態に。

 無事終わった瞬間、「ぼくも牛乳のむーっ」「牛乳飲みたいー」って声で埋まるのだった。

「いきなり強くはならないから真似しちゃダメだぞー? みんなは毎日牛乳飲んで強くなろうね」

「「「はーいっ!!」」」

 元気に答える子どもたち。これは完全に負けちゃったなあ。

 でも、まだ青井+の番が残ってるんだよね。




「ちょっと準備があるからさぁ、先にオヤツタイムやっといて」

 

 青井+にそう言われたので、皆にお菓子とケーキを配る。


「「「いたたきまーす!!」」」

 

 楽しそうに食べる子供たちに混じってアタシらもケーキを頂くことにした。

 セーラー少女はやたら子供たちに懐かれてもみくちゃにされてるし、なんだか幸せな時間が過ぎていく。

 それにしても青井+はなんの準備をしてるんだか。


 そんな時、誰かが声を上げた。


「あっ、ゆきだーっ!!」


 その言葉にみんな窓から外を見ると、確かにキラキラと輝く粒が落ちてきてる。

 今日って確か快晴のはずなんだけどなぁ?


 やがて、誰かが校庭に飛び出し、後のみんなもそれに続いていく。アタシらも外に出てみた。

 見上げると快晴の空から綺麗な雪の粒がどんどん落ちてくる。


「あーっサンタさんだーっ⁉」


 子供たちが幼稚園の屋根を指差すと、そこにいたのは大きな角を付けてトナカイになったバター犬と、真っ赤なサンタの衣装を身に纏った青井+だった。大きな白い袋からどんどん雪が舞い上がっている。

 どうやらあの大きなリュックには降雪装置が入っていたようだ。

 これが青井+の余興って事か。


 都会の空に舞う雪に大はしゃぎの子供たち。

 大人たちもまた、予想外の雪に大盛り上がりだった。

 ここにいる誰もが幸せそうな顔をしていた。

 勿論、アタシもだ。


「綺麗だねぇ。故郷を思い出すよ」

 アタシのすぐ側に来たセーラー少女がそう呟く。


「うん、素敵だね。今回は完全に負けちゃったな」

 アタシもそう、思わず本心が出てしまう。

 でもこんな清々しい負けもそうないよな。雪の舞う空を見上げながらそう思った。




 今年のXmasは一生忘れられないだろう。




 その思い出にあの変態が絡んでるのはちょっと微妙ではあるけれどw。



 そしてこれからもこのセーラー少女と青井+のドタバタは続くんだろうな。


 そんな予感がした。













 了







 

 







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オパイ the セーラーウーマン シロクマKun @minakuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ