最終話 永遠にともだち

「何故だぁ、俺はソニックビースト……瓶子法久だぞ……これは……なにかの間違いだぁ……」


瓶子はまだ死んでいなかった。

半獣半人の生首状態で、自分の状況を受け入れない戯言を吠えている。

さすがキュマイラ。


でももう、意味ないけどね。

早く死んだら?


アタシは、足を振り上げた。


「くたばれ」


残されたハヌマーンの力を使い。


急加速で思い切り踏み抜いて。

瓶子の頭を木っ端みじんに粉砕した。


これで、終わり。


……勝てた。


アタシは勝利を自覚し、崩れ折れるように腰を下ろす。


血に汚れた、下着姿のまんまで。


戦って、分かった。

こいつ、アタシらより格上だった。


一人じゃ、絶対に勝てなかった。


全部、彼のおかげだ。

作戦を全部立ててくれて、アタシに忍ちゃんの仇を討たせてくれたのは、彼のおかげ。


向こうで、部屋の備え付けの椅子を引っ張り出して、休憩している彼を見た。


彼を……下村文人を……




「すまん。ちょっと、脱いでくれるか?」


いきなり言われた時は、ビックリした。

何でそんなことを言うの?って思ったから。


でも、彼の顔は別に欲情してるように見えなかった。

勝てないかもしれない戦いに赴く前に、性欲を解消したいとか、そういうのじゃ無かった。


だから、アタシは黙って従った。


戦闘服をさっさと脱いで、下に着ていた白のスポーツブラと、パンツ姿になった。


「全裸がいいかな?」


「悪い。頼む」


……別にさ、はじめてじゃないわけなんだよね。

これまでも、童貞の真面目系の男の子と寝るときに、男の子の前で裸になってきたからさ。


だから、慣れてるはずなんだけど。


すごく、ドキドキした。

彼の前で裸になるの、はじめてだったから。


何が違うのかな?


スポーツブラを下にずり下げて脱いで、パンツも下ろして。


アタシは素っ裸になった。いつもの居間の真ん中で、アタシは素っ裸で男の子の前で突っ立っていた。

アタシ、身体のラインには自信あったから、みっともないって気はしなかったけど。


彼の視線を感じて、心臓が早鐘を打った。


何でなんだろう?


何故、彼はこんなことを頼んできたのか。


ぐるぐる回りながら。アタシの身体を隅々まで見るように観察し。


「OK。もういい」


そう、彼は言った。


何がよ。

そう、ツッコミながら、許可が下りたので服を着ていると。彼は割りばしをひとつ、台所から持ってきて。


錬成した。


彼の腕の中に、素っ裸のアタシが居る。


……え?


まるで眠っているようだった。

生気が無いけど。


アタシが……もう一人?


「……なんとか、成功みたいだな。どこから見ても、お前だし」


そして、下着を身に着けた状態で固まっているアタシを見て、再度、それを錬成した。


今度は、下着姿のアタシ。

やっぱり、眠っているよう。


これは……?


アタシの視線に応えて、彼は教えてくれた。


「人体錬成。まぁ、生きてないから肉体錬成って言った方が正しいか」


彼は別に誇らしげでも無く、事実を言うようにして、続けた。

彼曰く、肉体錬成したアタシの身体を、床に下ろして、その出来栄えを確かめながら。


「これが奥の手だ。これを完璧にやるために、お前の全裸を見ておく必要があったんだ。……ごめんな。脱がせてしまって。嫌だったろうけど」


「モルフェウスって……こんなことまで、出来るの……?」


絶句する。想像もしてなかったから。


何とか口に出来たのがそれだった。


「出来そうだな、って思ってたからな。神崎瑠璃絵氏にも散々質問して、可能性を確かめたし、本で読んだ過去事例からでも、出来る目はあると踏んでいたんだ」


それが今回役に立つ。彼はそう言った。


作戦はこうだ。

彼は言った。


まず、アタシが瓶子に哀願を装い、瓶子がアタシの弱みを握り、肉体関係を強制するように仕向ける。

で、興奮しきったところを、待機して隠れていた彼が後ろから襲い、仕留める。


ようは色仕掛け作戦。


それが失敗した場合、彼とのコンビネーションで、ガチ戦闘で仕留める。


これがプランB


「で」


それでも駄目そうな場合、奥の手がこれ。

プランC。


「疲労をな、感じてきたら、僕に倒れ込んでくれ。それが合図だ」


まだ体力が残っているうちに、それを合図に体力の限界を装い、煙玉で視界を切った時にコレとアタシを入れ替える。

アタシはエンジェルハィロゥのエフェクトで、光を屈折させて姿を隠し、彼がこの肉体錬成のアタシを抱いて、まるで動けなくなったアタシを抱いているように装う。


そして、勝利を確信した瓶子を、アタシが後ろから仕留める。


「多分、騙せるはず」


何せ、一般にこれを実行したの、僕がはじめてのはずだしな。

そう、彼は断言した。


……この人……すごい。凄すぎる……


アタシは震えてしまった。


「絶対に、勝つぞ」


彼の言葉。

頼もしかった。




もうだめ。

もう、抑えらんない。


アタシは彼に駆け寄った。

ちょっとだるかったけど、関係ないよ。


もう、抑えられないもん。


「あやと!!」


椅子に座った彼に、アタシは縋りついた。


彼の視線がこちらに向く。

アタシは言った。


「アタシ、アンタが好き!アンタの女になりたい!!」




「ううん、そうじゃない!アンタの奥さんになりたい!ずっと一緒に居たいの!」


……徹子の表情は、普通じゃ無かった。

目が爛々と輝き、狂気の色さえ帯びていた。


「でね、でね、結婚指輪は無くていいから、爆弾首輪作って!できるでしょ!?あやとなら!」


でね、あやとを裏切った瞬間、首輪が爆発して牝豚になったアタシは死ぬの!

これなら絶対にアタシ、アンタを裏切らない!だって死ぬんだもの!名案!なんで思いつかなかったんだろう!?これならアタシも恋愛できるじゃん!!


言ってることが、どんどんおかしくなっていく。

こいつ、本気で言ってる。間違いなく。


「アタシ、何でもするよ!?何だってやってあげるし、拒否しないよ!?だからお願い!アタシを選んで!!」


……


僕は、覚悟を決めた。


本当のこと、言わなきゃな。


「悪い」


僕は、そう言った。

それを聞いた瞬間の徹子の顔が、可哀想で見てられなかった。


「それは無理だ」


時間が停止し、静寂が降りる。


やがて。


「……なんで?」


彼女は、言った。

底冷えする声で。顔から表情が消えている。

整った顔立ちの徹子だから、鬼気迫るものがあった。


「何が気に入らないの?……ひょっとして、アンタの奥さんになっても、他の男と寝るとでも思ってる?……そんなわけないじゃん。アタシ、元々そんなにセックス好きじゃないし。大体、そのための爆弾首輪じゃん」


「そうじゃない」


「……もしかして、処女じゃ無いから?女のアタシが言うのもなんだけど、処女に価値なんて無いよ。膜なんて、一回破れたら後は一緒だよ」


「違う」


「じゃあ、何でよ!!」


僕を見上げる彼女の眼には、憎悪が宿りつつあった。


「アンタ、一緒に半年以上生活して、幸せを感じなかったの!?アタシは幸せだったよ!!毎日、どんどんアンタのこと好きになっていった!」


「それなのに、アンタ、アタシを選ばないんだ!?ふざけんな!!殺してやる!!背骨を引き抜いてやる!!」


僕の身体に指を食い込ませ、怒りの形相で僕を睨みつけてくる。


……本当のこと、言わなきゃな。


「……僕だって、幸せだったさ。当然だろ。お前の事、好きだったし。わりと最初から」


目は逸らさない。逸らしてはいけない。


「仕草の可愛さも好きだったし、妙に純粋なところも惹かれてた。僕に無いところだったからな」


そう言った瞬間、徹子の表情が、呆然としたものになった。

理解できなくなったんだろう。


だったら、何で拒否するの?って。


「お前さ、大事なことを忘れてるぞ」


ずっと黙ってた。

だから「お前に友達以上の感情は無い」って嘘を言い続けていたんだよ。

その理由。


「僕はこれで二人目」


「お前は、これで三人目」


「誰かに命じられたわけでもなく、身を守るためでもない。『憎いから、許せないから』って理由で、僕らは人を殺したんだな」


彼女の目を見つめ続けて、続けた。


「そんなやつに、愛を語らう資格は無い」




え……?


彼にそう言われたとき。

自分は、何を言われたのか理解できなかった。


アタシたちに、愛を語らう資格が無い……?


「どうして?」


意味不明だった。


「アンタ、こんなやつ、殺されて当然だと思わないの!?」


首を失い、背骨を引き抜かれた瓶子の死骸を指さして、アタシは言う。


「思うよ」


「じゃあいいじゃん!!」


「良くない」


「なんで!?」


「……僕らが殺されて当然だと思った相手は、殺していいのか」


すげえな。僕ら、神様だ。


……その一言で、アタシは分かっちゃった。

彼が、言わんとしてることが。


アタシらの「許せない」「死んで当然」って。

結局、アタシらの主観でしか無いんだってこと。


やったことは後悔して無いよ。

だって、許せなかったのは本当だから。


でも、勝手な判断で一方的に他人の命を絶っておいて。


終わった後に、愛しい人と愛を語らう?


……そんなの、許されるの?


思いあがったゴミのくせに?

他人に平気で「死ね」とか「殺したい」とか言ってる奴より酷いのに?


……そっか。

だから、資格が無いのか……。


悔しいなぁ……


納得、しちゃったよ……


ぼろぼろと、涙が溢れてきた。

だって、反論できないんだもの。

納得しちゃったから。


「だからさ」


そんなアタシに。

彼は優しく言ってくれた。


「友達でいいだろ。人殺しのクズでも、友情くらいあってもいいと思うんだ」


「僕と心通える本当の友達になれるの、多分お前だけだし」


彼の手が、アタシの髪に触れる。

だからさ、何で、そんなに優しいのよ。

気遣ってくれるのよ。


……そんなんだから、こんなのになったんじゃない。

無責任。

いい加減にして欲しい。


だったら、このくらい、要求していいよね?


「……一回だけ」


アタシが、ポツリというと。

彼が反応した。聞いてくれてる。


「一回だけ、恋人としてキスしようよ。双方ナイショの思い出で、とっておくの」


この提案は、受け入れてもらうつもりだった。

駄目だ、なんて言わせない。


もし言ったら、これまでの私に対する優しさ、労いの数々を列挙して、追い込んでやるつもりだった。


男だったら、責任は取るべきだよね。


「……」


彼は、アタシの目を見て。

アタシの覚悟を感じ取ったのか。


「分かった。一回だけ、しようか」


って言ってくれて。


ちなみに僕は経験ないから、って付け加えてきた。

やっぱ、童貞だったんじゃない。

最初に捨てときなさいよ。させてあげるって言ったのにさ。


……そのせいで、やりそびれたじゃん。

アンタと。


ほんと、ムカツク。


まあ、童貞だけ捨てたいって言うなら、いつでもさせてあげるけどさ。


アタシ達二人は、見つめ合って、立ち上がった。


リードはアタシ。

だって、彼、経験無いんだもんね。


アタシはスッと、彼の首に腕を回し、背伸びして彼の唇に自分の唇を重ね合わせ。


いきなり舌まで入れた。


さすがに、彼は驚いたみたいだった。


……当然だよね。

一回こっきりなんだから。


心残りは無しにしておきたいもの。

このぐらいは認めてもらわないと。


彼の口腔内を舐めまわすと、彼もぎこちなく応えてくれる。

なんだかおかしかった。


オーヴァードとしては天才の領域なのに、こっちはこんななんだ、って。

ホント、可愛いな。

また、彼が好きになった。


……封印しなきゃいけない気持ちなんだけどね。


彼と口腔内で深くつながると、頭の中に、イメージが湧いて、消えていった。


見たかった夢。


彼と結婚する夢。

彼の奥さんになる夢。

彼の子供を産む夢。

家庭を築く夢。


流れて、消えていく。


長いキスが終わると、双方息があがってた。


彼の唾液が、アタシの唇についてる。

アタシは、それを舐めとって。


「……初めて、本当に好きな男の子とキスしちゃったよ」


って言って、笑った。

本当は、泣きたかったけど。


だって、もう、できないんだもん。


ああ……


彼とは、汚れる前に会いたかったなぁ。

汚れる前なら、彼と何も問題なかったのに。

恋人にも、夫婦にもなれたかもしれないのに。


でも、汚れないと彼と出会えてないんだよね……


悔しいよ……


そう思ったらさ。

急激にこみ上げてくるものがあって、号泣しちゃった。


彼はまた、質の悪いことに、そんなアタシを優しく抱いてくれた。

だから、そんなことをしないでよ……


そのときだった。


『素晴らしい!!』


アタシたち二人しか居なかったはずの指導教官室に、声が響いたんだ。


驚いて、見回すと。


瓶子の死骸の上に、黒い靄が立ってて。

その靄、人間の顔みたいだった。


何、これ……?


文人が、アタシを庇うように前に出てくれる。


靄は、攻撃の意思は持ってないみたいだった。

ただ一方的に、自分が言いたいことを言ってくる。


『その憎悪、恨み、呪い、そして殺しに対する姿勢、全て私の美学に合致する!』


靄は続ける。


『お前たち二人を、是非我がセルに迎え入れたい!!この我が「闇の虎」セルに!!』


これが。

後でずっとお世話になる闇の虎セル・セルリーダーの「先生」との出会いだった。

アタシらは、ここで養成所卒業後の行き先を決められたんだ。




そして。


それからずっと、文人とは仲良くやってる。

支え合う友達として。


仕事では「相棒」「相方」って呼び合ってるけどね。


その日、仕事の明くる日。


いつものように学校の制服のブレザー姿で、ファミレスで彼とダベる。


今のアタシは、17歳。

高校二年生だ。


養成所では黒髪だったけど、今は金髪。

染めている。

こうした方が人払いできるかなと思って。


容姿もだいぶ牝豚化が進んできて、鏡を見るたび血は争えないなと嫌になるよ。


「そういやさ」


アタシは言った。彼の向かいの席で、アイスコーヒー(無糖)を飲みながら。


「ん?」


「来海仁君。覚えてる?」


「無論」


本を読みながら、彼は答えてくれた。

ああ、覚えてくれてたんだ。


……ちょっと、嬉しかった。


「彼、どうなったのかな?何か知らない?」


ちょっと調べようと思ったんだけど、上手く行かなくて。

そう言ったら


「ああ、見事『グリーンビートル』ってコードネームとって、卒業後の就職先も決まったらしい。かなり優秀なんだとさ」


「へぇ」


良かった。

彼には生き残って欲しかったもんね。


「ちなみに、どこのセル?」


「軍神の娘(ハルモニア)さんのとこのセル」


あぁ、そこだったら無茶させないから、幸せにいけるかも。

まぁ、ちょっとセルリーダーが甘すぎるから、そこのところが不安ではあるけど。


「良かったね」


「どうかな?僕としては、あいつ、セルリーダーにセクハラして追い出されないか心配だわ」


あいつ、絶対年上好きだから。

そう付け加えてきた。


「そうなの?」


「お前に抱かれるたびに、あいつは性的に興奮していた」


涼しい顔でそう言う文人。

よく覚えているね。


「そりゃ、思い出だからな」


思い出というキーワード。


アタシは、ナイショの思い出をふと思い起こして。

自分の唇に触れて、小さく微笑んだ。


彼を見つめながら。


(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

FHチルドレン養成所の話 山川海のすけ @yamakawauminosuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画