第22話 名前の無い国

 馬車に揺られている俺はふと思った。

 今向かっている西の国の名前はなんと呼ばれているのだろうか。と。

 だいたいの国の名前は把握出来ている。

 東の国・ゴールディーンズ、南の国・エクセロット、北の国・ストレガルト、そして真ん中に位置するヴァニラ王国。

 しかし、西の国の名前を聞いた覚えが全く無い。

 ヴァニラ王からの手紙にも、「西の国」としか書かれておらず、その名前はしっかりと表記されていなかった。


「お兄さん、今向かってる西の国ってなんて呼ばれてるんですか?」


 俺は、前で馬車を動かしている若い男性に聞いた。


「西の国の名前ですか……僕もよく知りませんね。西の国のことは皆『西の国』と呼んでます。孤立していて全く情報がありませんからね」


 すると、シロハは俺がしたかった質問をしてくれた。


「なぜシーラさんの年齢が元に戻ったら西の国の人達はヴァニラ王国に攻めてきたのかしら?」

「場所の事なら、馬車をやっているこの身、人並み以上は知っていますが、そのような政治についてはわたくしも疎いのでよく分かりません」

「私が話しましょう」


 若い男性の後にそう言ったのは、シーラだった。


「まず暗黒騎士がどこに居たのか覚えていますか?」

「ええ、エクセロットから北西の方に進んだ場所だったわね」

「そうです。その時、その町に敵が居たのは覚えているはずですが、その敵は一体どこから湧いたんでしょうか。……ヴァニラ王国とエクセロットからは魔物は絶対に湧きません。ならあの町にいる魔物の根源は西の国というとになります」


 シロハと俺が真剣にシーラの話を聞いている中、メルは爆睡していた。

 こんな時に眠れるというのも特技なのかもしれないな。


「ですが、ヴァニラ王国に攻めてきたのはおそらく人間でしょう。魔物ならヴァニラ王国に色を塗り、ナワバリにしてしまうでしょうから」


 確かに、暗黒騎士が居た町は、建物やら何やらが全てが紫色に染められてあったが、ヴァニラ王国は初めて見た時から何ら変わっていなかったな。


「そしたら、もう結論は出てくるのでは無いでしょうか?」


 え? 分からないんだが──


「──西の国は、人間と魔物を操れる者が支配していて、暗黒騎士を倒した情報が西の国の支配しているひとまで届いたから、と言う事ね」

「そういうことです」


 シロハは納得したように目を伏せ、ため息をついた。


「なるほど。だからヴァニラ王も『敵の兵力を潰して欲しい』だなんて言っていたのね。人や魔物を倒しても一番上を倒さなくては意味が無いから」


 シロハの言葉にやっと俺も納得した。

 そして、それと同時にウッドの事が頭に浮かんだ。

 確かウッドは西の国の英雄だ。と言っていた。ならこの事態に動かない訳がなく、おそらく、この事態で動いたからエクセロットから出る時にウッドさんが居なくなっていたのだろう。


 もしかして……ウッドが黒幕なのか?


 いや、そんなことは無いはずだ。そうであって欲しい。

 ウッドが黒幕だという根拠は無い。だが逆にウッドが黒幕じゃないという根拠も無い。

 しかしこの件、簡単に言えば西の国との戦争だ。

 ならば──


 ──人を殺す覚悟くらいはしておこう。

 たとえそれが、『英雄』という『兵力』だったとしても殺せるように。


 だって、


 ──俺は『勇者』や『英雄』では無く、ただ、王様の命令に従っているだけなのだから。

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俺を溺愛するハイスペック彼女と異世界へ 時雨 しふ @shiou0503

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