第23話 学会 010

「じゃあ、お前は本当にそれを解明して……どうしたい?」


 リュージュの問いに、ボイドは目を丸くする。


「どうしたい……とは?」

「『喪失の時代』に、何を期待しているのかは知らないが、あれはそんな楽観的に言えるものじゃない。並大抵の覚悟を持っただけじゃ、出来ないってことだよ」

「並大抵の……? つまり、リュージュ、あなたは知っているということですか? 『喪失の時代』について、その全てを!」

「ええ」


 あっさりと、リュージュは回答する。


「……ならば、何故それを教えてはくれないのですか? 『喪失の時代』が解明されることに、意義があるというのに」

「勇者のお伽噺は知っているかな?」


 唐突に、リュージュは話題を切り替えた。

 しかしボイドはそれもまた一興だと考え、それに乗っかることとした。


「……ええ、知っていますよ。勇者のお伽噺。話した方が良いですか?」

「話してくれるかな。もしかしたら、私が知っている話と齟齬があるかもしれないからね。ほら、私、ずっと塔の最上階で暮らしていたからね」


 ボイドは、これを話したら『喪失の時代』について教えて下さいよ、とだけ言い、話を始めた。

 勇者のお伽噺は、この世界、この時代の人間ならば誰もが知っている昔話だった。世界が暗黒に満ちた時、勇者が別の世界からやって来て、賢者と魔法使いと携えて闇を成敗する――そんな話だ。

 事細かに覚えてはいなかったとしても、概ね上述の内容ぐらいはすらりと言えるのは、最早常識に近しいものを感じる。


「うんうん……。私が知っている話と概ね内容は同じかな。しかしまあ、良くこの話が昔からずっと伝来している物だよ。話の内容だって代わり映えしないのも、凄いものだよね。普通、口伝で広がっていけば何処かで齟齬は出てくるだろうに……」

「リュージュさん、あなたは何を言いたいんですか?」

「ああ、うん。こっちの話。……じゃあ、一つだけ『喪失の時代』について教えてあげようかな。『喪失の時代』は文字通り全てが失われた時代だと言われているね? それは情報もそうだけれど、建物とかの物理的な存在も失われていると言われる。まあ、正確には痕跡が残っているのだけれど、本当にそれが正しいのか? という疑問を浮かべる学者先生だって多いはずだし、それについては言及しないでおこうかな」

「……そうですね。だから学者の夢であるとも言われます、『喪失の時代』の全容を解明するというのは――」

「でも、その『喪失の時代』っていうのは、実はある情報だけは誰もが知っている情報だとしたら……どうする?」


 リュージュの言葉に、ボイドは目を丸くする。


「……まさか、リュージュさん、その情報というのは……」

「流石、学者先生は頭が切れる。話が早くて助かるねえ――そう、『勇者のお伽噺』、それこそが『喪失の時代』に起きた出来事だよ」


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Lost Fantasia 巫夏希 @natsuki_miko

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