第五章 十八話 「超至近距離戦闘」

 上空三百メートルの位置についたAC-130Eペイブ・イージスがウィリアムとタン中将の部隊が防衛する南側の戦線上空を旋回しながら、二門の二十ミリバルカン砲を掃射し、四十ミリ機関砲と一〇五ミリ榴弾砲を地上の敵部隊に向けて撃ち込む中、大型ガンシップ搭載の全武装による攻撃を受けた地上ではバルカン砲の攻撃を受けた兵士や車両が跡形もなく砕け散り、一〇五ミリ榴弾が頭上で炸裂した北ベトナム軍の一個小隊は部隊もろとも姿を消し、爆発の後には大きなクレーターだけを残していった。


 それだけの攻撃を受けても、突撃を止めず、攻撃ラインの目印であるスモークグレネードの煙幕を突き抜けて、ウィリアム達に近接戦を仕掛けようとする敵の歩兵部隊の姿を上空から硝煙の中に見たサンダースはパイロットとの無線を開いて叫んだ。


「航空機からの攻撃だけじゃ、無理だ!この機体を下ろせ!俺達が精密射撃で仕留める!」


「危険です!敵に撃墜されます!」


 サンダースの命令に抵抗したパイロットのハル大尉だったが、


「ここで俺に墜とされるか、機体を下ろすかだ!」


と叫びながら、コクピットの中に殴りこんできたサンダースがホルスターから引き抜いて向けたコルト・ガバメントの銃口に、


「どうなっても知りませんよ……!」


と悪態をつきながら、操縦桿を傾かせると、機体を降下させた。


「着陸できる位置がない!高度を下ろし、スモークの内側を飛べ!俺達が地上部隊の支援攻撃を行う!味方に撃ち落とされるな!」


 ガバメントをホルスターに仕舞い、兵員室のスライドドアを開けたサンダースがパイロット達に隊内無線で指示を出しながら、AR-18を地上に向けて構える脇で、他のアルファ分隊隊員達も各々の銃を地上に向けて構え、副官のアレックス中尉はドアガンのM134ミニガンに取り付いていた。


 高度を下げて、戦闘態勢に入った"イーグル・ワン"のUH-60に続いて、"イーグル・ツー"のブラックホークも高度を下げ、M134ミニガンの掃射と搭乗するアルファ分隊の隊員達による銃撃が開始されたのであった。





「はっ!やっとこっちに降りて戦う気になりましたか、少佐!」


 高度を下げ、敵の地上部隊に対して、ミニガンの掃射を始めたブラックホークの機影を熱帯林の木々の上の視界に見つけ、一人頬を緩めてそう呟いたトム・リー・ミンクはXM177E2を構え、硝煙とスモーク・グレネードの霧の中を前進してくる敵部隊に対して、真正面から突撃した。


 アパッチが撒き散らしたロケット弾の爆発がすぐ右脇で炎のカーテンを巻き上げ、A-10の三十ミリガトリング砲が鉢の群れのような唸り声を上げて、劣化ウラン弾をばら撒き、地上の敵装甲車を穴だらけにする中、味方の近接航空支援に巻き込まれる危険を犯しながらも、リーは超至近距離での戦闘を繰り広げながら、硝煙に包まれたジャングルの中を駆けていた。


 壮絶な航空攻撃を掻い潜り、何とか前進し続けてきた敵部隊の目の前に飛び出すとともにXM177E2の単連射を撃ち込んだリーに数人の北ベトナム軍兵士が反撃の銃撃を放ったが、彼らに返ってきたのはコルトM79から撃ち込まれた四十ミリグレネード弾だけだった。


 グレネード弾の炸裂が敵兵士の一団を吹き飛ばしたのを視界の隅で確認しつつ、硝煙の中を駆け抜けたリーは更に別の北ベトナム軍兵士が放った機銃掃射の嵐に追いかけられつつも、XM177E2を発砲しながら、ジャングルの木々を盾にして走り抜けると、次弾を装填したグレネードランチャーを敵の機銃に向かって撃ち返した。


 飛翔したグレネード弾は硝煙の中を滑空し、機銃に命中すると、射手の北ベトナム軍兵士を吹き飛ばすと同時に爆風で周囲に立ち込めていたスモークの霧も吹き散らした。その瞬間、機銃陣地が実は戦車の砲塔だったことに気づいたリーは、「まずい……!」と呻くと同時にすぐ傍らの茂みの中に飛び込んだ。


 リーが回避の姿勢を取ったコンマ数秒後に戦車から放たれた榴弾が彼の十数メートル脇で土煙を吹き上げて炸裂し、何とか九死に一生を得たリーは体勢を立て直すと、硝煙の中に身を隠しながら、再びジャングルの中へ逃げんこんだのだった。





「くそ……!次から次へと来る!」


 弾切れになったストーナー63に新しい弾帯を装填しようとしたが、その隙を与えず突撃してくる敵に、リーが置いていったM16A1を発砲しながら毒づいたアーヴィングは更に別方向から突撃してきた敵兵士にブローニング・ハイパワーを発砲すると、敵の突撃が途切れた一瞬の隙をついて、新しい弾帯の装填を再開した。


 上空からはかなりの量の弾丸と爆弾が地上に叩き込まれていたが、第一次インドシナ戦争の折から"死をも恐れない兵達"と白人に恐れられてきたベトナム人兵士達は猛烈な近接航空支援に仲間の体が引き裂かれるのを目の前で目撃してきても、猛然と突撃をかけてきた。


 機銃に新しい弾帯の装填を完了し、チャージングハンドルを引いて、初弾を薬室に送り込んだ瞬間に前方の硝煙の中から五六式小銃を乱射しながら飛び出してきた民族戦線兵士にに対して、アーヴィングはストーナー63の引き金を引き切り、機銃掃射の牽制を再度開始した。





「死にさらせやぁっ!」


 ロケット弾や戦車砲の榴弾がすぐ脇で連続して炸裂する中、狂気の叫声とともに硝煙とスモークの立ち込めるジャングルを駆け抜けたリーは予想だにしない至近距離から突然現れた敵に対して動揺し対応できない北ベトナム軍兵士に殆どゼロ距離からXM177E2カービンを発砲しながら、敵陣の中を走り抜けた。


 目の前の熱帯樹の陰から着剣したSKSカービンを構えて飛び出してきた民族戦線兵士の銃剣の一突きを革一枚でかわしたと同時にXM177E2の銃口に着剣したM7ナイフを目の前の敵兵士の胸に突き立てたリーに更に右方向から別の北ベトナム軍兵士がAK-47を乱射しながら襲いかかってくる。


 側方から突撃してきた北ベトナム軍兵士に腰のホルスターから素早く引き抜いたブローニング・ハイパワーを四、五発発砲して撃ち倒したリーは銃剣を敵兵士の体に深く突き刺したカービン銃を引き抜ことしたが、心臓を割られて、口から血を吹き出した民族戦線兵士の死骸は最後の抵抗と言わんばかりに両手で力強くカービンの銃身を握っており、何とか力づくで引き抜こうとリーが全身に力を込めた瞬間、前方方向から撃ち込まれた弾丸に彼は左肩を撃ち抜かれ、体を後ろに吹き飛ばされた。


「くそが……!」


 悪態を吐きつつ、身近な木の陰に地面を這って回避したリーに更に別の民族戦線兵士が五六式小銃を乱射しながら突撃してきた。至近距離からの立て続けの攻撃に狙いを定める間もなく、ブローニング・ハイパワーの弾倉内に残る残弾全てを銃声のする方向に発砲したリーに今度は先程、彼に命中弾を直撃させた北ベトナム軍兵士がドラムマガジンを装着したRPD軽機関銃を掃射し、リーの盾にする熱帯樹の幹表面を集中する機銃弾が抉り取っていった。


「畜生が……、これでも喰らえ……!」


 盾にした木を通し、背中から伝わってくる機銃掃射の振動に焦りを感じつつも、姿勢を低くし、ブローニング・ハイパワーに新しい弾倉を装填して、ホルスターの中に戻したリーはスリングで背負っていたスティーブンスM77Eショットガンを構え、フォアエンドをコッキングして、初弾の十二ゲージ弾を薬室に装填すると、銃撃が撃ち込まれてくる木の反対側に向けて、散弾銃の銃身だけを出して引き金を引いた。


 腹に響く発砲音と全身に堪える反動に続き、ショットシェルの空薬莢がエジェクションポートから排出されるとともにスティーブンスM77Eの銃口から十二ゲージの散弾か吐き出され、RPD軽機関銃を掃射しながら、リーの身を隠す木に接近していた北ベトナム軍兵士は正面から飛来してきた散弾の嵐に後ろに続いていた二人の民族戦線兵士ともども体中に大穴を空けられて即死した。


 目で見ずとも、至近距離の敵を撃ち倒したのを感覚で感じ取ったリーは奇声を上げながら、熱帯樹の陰から飛び出すと、スティーブンスM77Eショットガンを発砲しながら、銃撃の中を滑り込むようにして敵の懐の中に飛び込んだ。

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