第3話 初めての魔法

この世界には超能力と魔法が存在するらしい。                 


人口の約三割が超能力と魔法のどちらかの適性を授かり生まれる。魔法は魔法を使う者にはほとんど効果が無く、超能力も超能力者には効果が薄い。無論能力によって例外はあるが。

そのせいで魔法主義や超能力主義を掲げる人間が出てきてしまい、派閥の仲違いや小競り合いが重なったりして、魔法使いと超能力者の間にはどうしても埋められない溝があるのだとか。小さな村でも魔法使いだと追い出されることもあると…。

神様の話を何とか噛み砕いて必死にメモを取る。一度に覚えられないかもしれないと思って取っていたが正解だった。


『要するに、変なのに絡まれるかもしれないから街に出て人と話す時は気をつけろって話だ。それだけ念頭に置いときゃいい』

「色々と複雑過ぎませんか?」

『言っただろう。この世界は終わりが近付いてるんだ、その内戦争が起きる。多くの人間が死に、文明が滅ぶかもしれない。話はここまでだ、何かあればその時話す』

「何か起こった後じゃ心配なんですけど…」

『起こらないようにする為に力の使い方について教えるのが先だ。明日も魔物に追われて終わりは嫌だろう?』


それはそうかもしれない、今だけは未来の事より明日の事。就寝中自分を守ってくれるバリアがあるとわかっていても、いつかは自分一人で何とかしなきゃいけない。大人しくバッグの中にメモと魔法のペンを戻す。

このバッグはブローチと同じく転生者にサービスで支給される、いわゆる冒険初心者セットのようだった。狼に襲われた場所の近くにポツンと置き去りにされていたのだ。吹き飛ばしてなくて本当に良かったと安堵したのはもう数時間前のこと。


難しい話で頭を使うと腹が減って腹の虫が鳴る。

魔物に追われる事もだけど、こっちの問題を解決する為にも能力を上手く使えるようにならないとな。


『アズマは肉と魚どっちが好きなんだ?菜食なら食べられる物を教えてやるが』

「丁度それをどうしようかと思ってました」

『肉が好きなら魔物の捌き方も教えるぞ。バッグの中にはナイフもあったんだろう?』

「いい!いいです!血はまだちょっと抵抗が!……魚は普通にいるんですよね?魔物じゃなくて普通の魚」

『いるぞ。普通の生物なら魚じゃなくても、』

「今日は魚にしましょう」


パン!と手を叩いて会話を無理やり終わらせる。ブローチから『強情なヤツだ』と聞こえたが何も返さないでおいた。

肉でも魚でも捕るのは他でもない自分だ。魔物は自力で倒せるようになって慣れてきたら解体もしてみよう。血は大丈夫…、なはずだ。ちょっと怖いと思ってるとは言えない。


『じゃあ超能力を使いながら狩りをしようか』

「魔法ではなく?」

『私は超能力を教える方が得意なんだ。魚のいる川か湖を探せ、探知を地形把握に利用するといい』


どうやら神様は魔法が苦手らしい。神なのに得意不得意とかあるんだ、ちょっと意外だな。

俺が今まで使っていたのは全部超能力らしいから魔法も使ってみたかったけど神様がそう言うなら仕方ない。

魔物のいる場所を把握しつつ地形に集中すると少し離れたところに大きな湖を見付ける。これだけ大きければ魚もいるだろうと早速歩みを進めた。


湖に辿り着く頃には、いつの間にか目を閉じなくても探知が行えるようになっていた。

自然に常時発動とはいかないが、10秒ほどの間隔で探知を繰り返すやり方を身に着けられたのは割と上出来なのでは?

思った通り魚もちゃんといた。底の方にはもっといる。


『こういう場所での探知は絶対に怠るな。魔物も水を飲まないと死ぬからな』

「わかりました」

『本当は24時間常に出来ていると便利なんだが…』

「俺の精神が逝かれますね」


探知が疲れるというわけじゃないが、さっきから数匹ヤバそうな魔物を感知していた。しかも一匹はお食事中だ。俺もこれからお食事だというのに、直前で自然の食事を見てしまって若干グロッキーになる。

でも前世よりマシにしてもらったとはいえ、食べないとこの身体も倒れるだろう。無茶は禁物。


異世界の水は透き通っていて綺麗だ。底の魚も見えてしまうんじゃないかと思って覗き込むと、水面近くに居た魚が散ってしまった。


「魚、全部底に逃げちゃいました」

『物に干渉する力があるとして、お前ならどうやって捕る?』


どうやって捕るか、神様から出された課題に少し頭を悩ませた。

探知で魚に意識を集中させるのは絶対だ。それから魚をどう持ち上げるのかという話か?持ち上げるには掴むしかない。

いや、この力なら水も操れそうなものだが…。そうだ、いきなり魚から掴まず水で試しみよう。集中して水面に向かって手をかざす。


水をすくう様子をイメージして手をその通りの形にしてみる。ここら辺の水を、と手を上げてみると透明な水が見事に浮いた。

ちょっと楽しくなってしまって、つい遊び心で丸くしてみたり形を変えてみるとそれも案外すんなり出来た。


『何だ。上手いじゃないか』

「またいつ暴発するか怖いですけどね…」

『お前が臆さずしっかり意識を保っていればああはならんから安心しろ。探知はまだ掛けているな?それを合わせて魚だけ上げてみろ』


ついに本番である。魚を掴むのはやめて水をすくう要領でやった方が良いかもしれない。一匹狙いよりは網で数匹引っ掛けたい。

水の底に集中するよう手をかざして魚のいる位置を狙い、水ごと陸に引き上げると見事に三匹上がった。

無事課題もこなし「よかった」と呟いて安心していると神様は言った。


『三匹か、まあいい。次は湖の底目掛けて電流を流せ』

「でっ…!?」


三匹じゃダメなんですか!?それよりも電流って!?

陸に上がった魚と同じく口をパクパクさせていると神様は淡々と続ける。


『電流くらい知ってるだろ?底に雷を落とすイメージでいい。手のひらより指先に集中するんだ』

「そっそれって指先から出るんですか?俺感電しないですよね…?」

『超能力者に超能力は効かんと言っただろう、あれだ。使用する本人ならなおさら効かん。ちなみに電気の流れを操作しないと水面にしか流れないから底の魚は捕れんぞ』


そりゃ最もな話だ、使用者が感電なんて間抜け過ぎる。神様がここまで言うなら本当に影響は無いんだろう。はて、どうしたものか…。

底に雷を落とすイメージにしようか。…いや、今までの経験からしてそのまま雷をイメージするのはまずい。本当に空から落ちてくるあのデカイ雷が出そうな気がする。そんな物が出たら驚きで今度こそ心臓が止まる。駄目だ、雷はやめよう。

頭をブンブンと振って乱れた気持ちを落ち着かせる。こんなんじゃさっきの二の舞になる。水を操るのは上手に出来たんだから、次も制御出来るはず。加減さえ気を付ければ。


震える人差し指を水に近付けて小さい雷を頭に思い浮かべる。少しで良いんだ。探知で底の魚を捉えながら、その群れの中心を目掛けて電気を流す。

念じた瞬間、指先からパリッと音がして思わずその場から飛び退いた。また反射で逃げてしまった、上手くいかなかったか…?

神様も何も言わないのでジーッと水面を見つめていると、数秒後には魚がぷかぷかと大量に浮かんできて茫然とする。神様は大層喜んだ。


『よかったな、好きなだけ食えるぞ』

「こんなに要らないんですけど!」

『アイテムボックスを出して全部入れろ。鮮度も持つ』

「アイテムボックス…!!異世界っぽい!」

『それは魔法だ。あー、何かこう、出し入れのイメージで魔力の想像』

「急に説明が雑ですね」

『魔法はよくわからん。私は未だに上手く使えん』


電気を流したり火起こしの力は詳しく教えてくれたのに、本当に苦手なんだな。

でも超能力の時には聞いてない『魔力の想像』とは。超能力は念じるだけで使えたけど、魔法にはやはり魔力があるのか。それって身体の中にあるんだろうか。


上手い説明がもらえないのでとにかく手探りで自分の中の魔力を感じようとする。困ったら目を閉じて…。

魔力の想像、魔力の想像…、繰り返し意識すると段々わかってくる。超能力とは全然違う、何かが内側に流れてる。

確認したところで目を開ける。これはいける気がする、というか魔法の方が幾分か想像しやすいから簡単に出来そうだ。


アイテムボックスって、異空間を作ってそこに物を入れるんだよな。

試しに魚を一匹だけ転送してみようと両手をかざすと、魚の周りに魔力が集まって光り、魚は消える。無事にボックスの中へ転送されたようだった。


『…お前私より才能があるんじゃないか?』

「超能力より魔法のがイメージしやすいからでしょうか」

『少しショックだ』

「あはは」


湖の魚を今度は一カ所に集めて食べる分以外を一気に転送、上手くいって一安心だ。

魔法を使うのも楽しい、いつか魔法を使う人に教えてもらえたらいいな。…神様がこれだから。


やっぱりサバイバルといえば焼き魚か、自分で捕ったものはさぞ美味いに違いない。さっき教えてもらった火起こしも早速役立ちそうだ。

このまま湖の横でキャンプでもしようかと思っていると、不意にブローチが光って神様の声が聞こえた。


『魚は締めると美味いぞ』

「そんな器用なことは出来ません。どうせすぐ食べるんで」

『馬鹿を言うな、いいからやってみろ』

「うーん…、そこまで言うなら」

『昔きちんと処理をした魚を供物にくれていた漁師が居てな、それはもう美味かった』

「神様にも好き嫌いとかあるんですか?」

『もちろんだ。お前に魚の食べ方と言うものを教えてやろう』


こんなに食いついてくるなら神様にもあげよう、供物として捧げれば届くらしいから。


神様のアドバイス通り魔物が寄ってこないように先に枯れ葉と枝を集め火起こしをした。一通り周りの環境を整えた後、いざバッグの中のナイフを握る。

自分の手でこなす作業は大変で、時間が掛かったし食べる頃には夕暮れだ。しかしそうまでして食べた魚は神様の言う通りビックリするほど美味しかった。


これからまだまだ神様に助けられっぱなしだろうけど、俺はこの世界でやっていけるかもしれない。不思議とそう思えた。

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転生者世界一を目指して 瑞乃七緒 @mizunonanao

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