第28話 夢を語り合うカップル。
「そういえば
いつも通りの文芸部室。
ゲームの休憩時間に、
「急になんだ、おい」
進路にでも悩んだのかと思ったが、結朱はそんな重苦しい気配もなく、普通に雑談感覚で話してくる。
「いや、教室で友達とそういう話になってさ」
「へえ、俺は別に普通だぞ。小三の頃は確か、年間休日が一二〇日あって、有給も普通に消化できる仕事に就き、可愛い嫁さんをもらってそれなりに幸せな生活を送ることだった」
「小三で!? なにその夢のない子ども!」
「いや、まさに夢を語っているんだが……」
人の幸せは数あれど、かなり手堅い幸福の形を目指すというのは悪くない選択肢のはず。うん、子どもの頃の俺、間違ってない。
「そういう結朱はどうなんだよ」
話を返すと、結朱は懐かしむように微笑を
「私? 私は一度でいいからお菓子の家に入ってみたいとか思ってたなあ」
「そうか。現実で一番近いのは熊本城だな。あれは籠城戦に備えて、城のパーツを食べられる素材で作ってるから」
「そうなの!?」
「おう。畳とか里芋の茎で出来てるんだぞ」
「保存食っぽさがすごく強い!」
「まあ煮込む時に甘くすればお菓子みたいなもんだろ。どうする? 熊本、行ってみるか?」
訊ねると、結朱はなんだかげんなりした表情になった。
「行かないよ……熊本城好きには悪いけど、なんかそれは代用品にならない類似品だよ」
善意で教えてあげたのだが、夢を壊してしまったらしい。悪いことしたな。
「まったく、大和君は妙なところで現実主義者だね。ちなみに、今の夢は?」
「年間休日が一〇〇日あって、せめて盆と正月は休みを取れる仕事に就き、一緒にいて疲れないような性格のいい嫁さんをもらうことだ」
「もっと夢がなくなったね」
「だから、夢の話なんだが……」
いや、だが確かに年間休日はもうちょっと多いほうがいいか。せめて一〇五日の休暇を目指そう。
「そう言う結朱は、今の夢とかあるのか?」
再び話を返すと、結朱の瞳がきらりと輝いた。
「そりゃあもう、大和君をこれでもかというほど私に惚れさせて、私なしじゃ生きていけないようにしてあげることだね!」
「そうか……そうなると、性格のいい奥さんをもらうっていう俺の夢が叶わなくなるな。俺たち、互いの夢を潰し合うライバルだな」
悲しい。何故こんなにも愛し合う二人が争わなければならないのか。
そんな世の中の理不尽さに嘆いていると、結朱が冷めた目で俺を
「おいコラ、両立できるでしょうよ」
不思議なことを言い始める結朱。
少し考えた後に、俺は納得して頷いた。
「ああ、そうか。結朱に女の子を紹介してもらえばいいのか。結朱、顔広いしそのくらい余裕だろ。そこまで世話になられては、確かに俺もお前なしじゃ生きていけない」
俺なりに結朱の発言を解釈して受け入れたのだが、ますます結朱の機嫌が悪くなる。
「おいコラ、紹介するまでもなく性格が良くて可愛い女の子がここにいるでしょうよ」
また不思議なことを言い始める結朱。
「まさか……今やってるゲームのヒロインか? あのな、結朱。俺は二次元のキャラとは結婚しないタイプだ」
「このー!」
とうとう不満が爆発したのか、俺の脇腹を両手の人差し指でぷにぷにつつきまくってくる結朱。
「うおっ、ちょ、くすぐったい! 脇腹は反則だろ!」
「うーるーさーいー!」
ぷにぷにぷにぷに!
「分かった、ギブ! 俺が悪かったです!」
両手を上げて降参すると、ようやく結朱は攻撃をやめてくれた。
不機嫌そうな顔はそのままだったが。
「……大和君のばか」
とうとう
「あのな……そもそもお前が茶化すからこうなったんだろ」
「むー……」
わざとらしく頬を膨らませる結朱。構えというアピールらしい。
放っておくわけにもいかず、俺も結朱の元へ向かう。
「で、結朱の本当の夢は?」
俺が話を戻すと、結朱は少し考えてから、顔を逸らして答える。
「……意地悪しない、優しい彼氏を作ること」
拗ねたような、甘えたような口調でそう言ってくる結朱。
またこいつは、妙に可愛らしい意趣返しをしてくるから反応に困る。
「分かった。なんとか叶えます」
きゅっと結朱の手を握ると、彼女もようやく機嫌を直したのか、少し照れくさそうにこっちを見た。
「……ん。期待してます」
若干、はにかんだ結朱は、うっかり見惚れるほど可愛かった。
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