九波真

 島の学校で、真は酷い虐めに遭っていた。原因は、島の開発に、真の父親が反対したからだった。そのことで、真の父は立場を危うくした。その累が、息子である真にも及んできたのである。

 村長の息子は、取り巻きを引き連れていつも真を殴った。それだけではない。金銭も要求されたし、物を壊されもした。毎日が地獄だった。それでもこの少年が失望しなかったのは、本土からやってきた従弟、優李との思い出があるからであった。優李との思い出に縋りながら、日々をじっと耐え忍んだ。世の中には、闇ばかりではない。あのような光があるのだと、真は優李のお陰で信じることができた。

 しかし、それも終わりを告げた。真は村長の息子によって、崖から突き落とされたのだ。海中に没しても、即死はしなかった。けれどもその時、自分の方に、何かが接近してきていた。白と灰の体色、細長い流線型の美しい肉体、ブーメランのような尾鰭……鋭い牙が立ち並ぶ様が口から覗いており、危険な生き物であることが一目で分かった。

 それこそが、「ヨゴレさま」であった。「ヨゴレさま」は真の細い体に食らいつき、ひと噛みで食いちぎった。彼らは、腹を空かせている。もっと寄越せ、もっと寄越せという彼らの声が、真には聞こえた。

 そうしてとうとう、真は短い生涯を呆気なく終えた。優李との思い出を除けば、苦痛ばかりの人生であった。


 ――この島に、復讐をしてやろう。


 死の直前、「ヨゴレさま」に身を食われながら、真は密かに島を呪詛し、復讐を誓った。「ヨゴレさま」の飽くなき欲望を利用して――




 晴れることのない怨毒が、今も網底島を取り巻いている。暗い海の底から、悪鬼が手を伸ばしているのだ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヨゴレ 武州人也 @hagachi-hm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ