夢日記
@paper000
第1話
僕は目を覚ました。
「またか。また死んじまったのかよ、夢の中の女」
嘲笑しながらもう1人の"僕"が冷蔵庫からビールを取り出す。
わかってる。きっとこんな事に意味はない。だけど、ぼくは
「しょうがないだろ。僕は彼女を愛しているし、だからこの連鎖を止めなきゃならないし、きっと彼女もそれを望んでる」
違う。彼女は明らかに死にたがっている。これはただの自分の願望だ。
「ていうか君は本当に彼女を止めたいのか?」
意図のわからないこの質問。
「当たり前だろ。その証拠に、いつも離れていかないように手は握っているし、強く抱きしめてるじゃないか」
元々身体の接触が嫌いな僕だ。それが下心じゃない事くらいわかる。
「じゃあなぜ、いつも最後はその手を離すんだい?」
思わず口を噤んだ。そう、彼女はいつも僕に決断を迫る。処刑場への道のりを一緒に歩いた時も、崖で僕がその手を離す直前も、彼女、幸せそうに微笑むんだ。
「死なせて」
淡くて、美しくて、儚げで、そんな瞳で懇願されたら、もうそうするしか無かった。
「いいかげんにしろ。やっぱりお前は彼女のことなんかこれっぽっちも大切に思っていないし、愛してすらいないだろ。馬鹿が」
何も言ってもいないのに"僕"は喋りだす。
「まだ分からないのかよ。だったらいいさ。一生迷ってろ。」
そう言い捨てて立ち去った。不愉快だ。感情的に人の怒りを煽っておいて、結局答えは教えてくれない。意地悪だ。まるで僕みたいに。
またその日も、彼女はそこに立っていた。
「お前、あの日死んだ女だろ。そうさ、間違いない。なぜ死にたがる?」
もう死なせはしない。そのつもりだった。
だけど
「誰だよ。あんたなんか知らない」
無表情で彼女は言い放った。
ああ、やっぱりこんな事に意味はないんだな。
僕は彼女の首を絞めた。もがきながら、その苦しそうで、どこか幸せそうな瞳が僕の目を見て、気づいた。僕はこいつを愛してなんかいないし、こいつも僕のことなんかどうとも思っちゃいない。ただ、僕は死に行く彼女の姿が好きなだけだった。本当に愛していたのはその過程に過ぎなかったのだ。
ポキッ
細くて、白くて柔らかい首が折れて、その肉塊は糸の切れたあやつり人形のように崩れ落ちた。もうそんな物に用はない。
「また明日ね」
僕は目を覚ました。
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