EPILOGUE
約束は守られず
私、一之瀬静乃は目を覚ました。すると最初に見えたのは実家の自分の部屋の天井。そう、この話は夢だった。つまり夢オチだった。ここにきてがっかりする人もいるかしれないけど、残念ながら夢オチだ。私も腑に落ちないけど、よく考えたら中学に橘圭吾と言う同級生はいないのだ。だから、しょうがない。
私は体を起こして机の中から卒業アルバムを開いたが、もちろん橘圭吾はいない。当たり前の事実だった。
私は二階から降りて一階の台所に向かい、母と会った。
「私……ちょっと散歩してくるね」
季節は夏。そう私はお盆で里帰りしている最中だった。東北で山々に囲まれた田舎町の夕暮れ、蜩が鳴いている。夏の音だと思った。
私は歩きながら、さきほどまで見ていた夢がやたらリアルだったと思い出した。グールに襲われる東京、ドラゴンに変身する自分、世界が偽物というよく出来た夢だと我ながら思った。その気になれば小説にできそうだと私は思う。でも、受けないだろうなと思った。
「こんなところに神社何かあったっけ?」
考えながら歩いていると私は家からちょっと離れた場所まで来てしまった。気づくと山の頂上に境内がある神社の階段前に来てしまっていた。本来ならば神社は滅多に来ないが、気分転換にいいかもと思い、お参りする事にした。ややきつい階段を登り切ると、そこには祖父と孫とおもしきおじいちゃんと男の子がいた。
「ねえ、おじいちゃん。ここに祭られている神様って女の人に会う為に何万年も待ってるって本当?」
「お父さんから聞いたのかい? そうだよ。ここの神様はな、世界を取り戻す為に戦った神様なんじゃ。神様は女の人と共に戦っていた。でも、その女の人は囚われてしまったのじゃ。その人を救う為、そして世界を取り戻す為、戦ったんじゃよ」
「かっこいいね!」
「そうだな……でも、もう何万年も何億年も戦って、すっかり神様は女の人の事を忘れてしまった。永い永い年月を戦い抜いてついに勝った神様じゃったが、もうすっかり自分の事も忘れてしまってのう。最後に辿りついたのはこの山だったのじゃ」
「神様、かわいそう……」
「そうだが、でも、そこで出会った木こりを助けると偉く感謝されてのう。不思議な力を持っていた神様はこの辺に住む人達を助けるようになると色んな者と知り合い友達となって神様は悲しくなくなった。そしていつの間にか神様としてここで祭られる様になってここに神社が立ったのじゃよ。それがこの神樂義神社の始まりじゃ」
そのおじいちゃんの説明を偶然聞いた私はその神樂義という単語が偉く懐かしいと感じた。どこかで聞いたが思い出せない。
「ここの神様、女の人と再会できるといいね!」
「言い伝えによると再会できぬままと言われているからなあ。再会してもらいたいな」
おじいちゃんと孫の男の子はその会話を最後に私とすれ違いに階段を下って降りてしまった。
なんか、すごいあの夢の続きみたいな感じだなと私は思った。私がゆっくりと振り向くと、本殿のお賽銭の後ろで寝ころぶローブを着た白髪の男がそこにはいた。大きな欠伸をして、眠たそうにしている。なんと不謹慎な人だと私は思った。
「んっ?」
男と目が合った。
「お前、俺が見えるのか?」
「えっ?」
どういう意味だろう? 私は男に近づく。
「見えるってどういう事ですか?」
「俺が見える人見えない人がいるんだよ」
寝ころんでいた男は立ち上がって、本殿からこちらに向けて飛んできた。石畳の上に立った男は見るからに和風ではない。むしろ西洋風ないで立ちだった。
「見えるってどういう?」
「俺はここの神様として祭られているんだ。神様だ俺は」
自分で神様と言う男なんて不審者だと私は思ったが、その顔をよく見て、この私、一之瀬静乃は思い出した。そして涙を流す。
「そっ――そうか……」
「おい? どうして泣くんだ?」
「随分と……長かったわね」
「何の話だ。俺は…………そうか、お前が――」
男も気づき、目を大きく見開いた。全てを思い出したのか、涙を流す。
「すまんな…………約束、守れなかった。迎えに行かなかった」
そんな事はどうでもいい。私も同じだから。
「約束守れなかったのは私も一緒だよ。でも、言うから……」
私は涙を拭い、笑顔で言うのだ。
「おかえりなさい――――圭吾!」
魔王の義眼 鉄化タカツ @tetukatakaku
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