俺(34)

 腕の中で、ミカさんが泣いている。抱き締めてあげられたら良いんだけど、俺たちは友人だと誓ったから、そっと肩に手をかけるだけで見守った。


 やがてミカさんは泣き止んで、まだちょっと引きつった頬で笑って見せた。ありがとう、と。


 無理して笑わなくて良い、と言うと、コウタさんには敵わないなあ、と今度は無邪気に笑う。


 そして急に思い出したように、元カノさんは? とキョロキョロした。


 俺は迷った。この状況で、紹介するべきだろうか。


 ごめんなさい、とミカさんが謝る。あたしがこんなだったから、離れたところに居るんでしょう? と申し訳なさそうにまゆじりを下げる。


 違う、と否定して、ポケットから小さな写真立てを取り出した。白い長方形の中で微笑む、ショートカットの彼女の写真。


 ミカさんは最初、キョトンとしていた。でも俺が話すにつれて、表情を深刻にしていった。


 ――このひとが、俺の元カノです。婚約していたんだけど、五年前、自ら命を絶ちました。愚痴が増えたなとは思っていたけど、俺は見当違いのアドバイスばかりしていた。彼女が居なくなってからカウンセリングに通うようになって、そういうときは話をきいてあげるだけで良いのだと、教わったんです。俺は、選択を間違えた。俺が殺したんだって悩みました。だから、恋をするのが恐いんです。

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