あたし(35)

 今まではあたしが世界で一番不幸だと思っていたけど、コウタさんの話をきいて、自分も何と小さな人間だったんだろうと気付かされる。


 そっと、写真に触れた。コウタさんの大きな掌に乗った小さな写真立てに、掌を重ねる。


 ――彼女を、愛していた?


 うつむいて、コウタさんが頷いた。


 ――彼女が居なくなってから、その気持ちを伝えました?


 今度は、首が横に振られる。


 ――伝えたら良いんです。愛してた、愛してる、って。彼女は貴方を苦しめる為に、亡くなった訳ではないんだから。


 それまで無表情だった顔が、ふいにクシャッとたわんだ。泣いている。コウタさんが。あたしは思わず、コウタさんの胸に寄り添った。


 ――愛していた?


 愛していた、とコウタさんが答える。


 ――今でも、愛している?


 やや沈黙がおりたあと、呟かれる。カウンセリングで、彼女と友だちに戻る課程を終えたんだ。愛し続けると、俺が壊れてしまうから。


 ――そう。……あたし、恋愛をするのはまだ恐いけど、コウタさんが好き。大好き。これからも、友だちで居てくれますか?


 返事の代わりにおずおずと両腕が上がって、あたしをそっと抱き締めてくれた。

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