あたし(33)

 あたしは仕事終わり、コウタさんにLINEを送った。灯りの消えた花屋の前に立って、所在なげに大通りを見回す。見えるところに、コウタさんのトラックはない。


 ふと、視線を感じて振り返った。コウタさんだと信じて、笑顔で。その笑顔が凍り付く。


 ミカ、と呼ばれた。探した、とも。


 ――やめて。来ないで。


 得体の知れない恐怖で、また身体が震え出す。逃げれば良いのに、足がすくんで動けない。


 ――もう会いたくないの。


 でも課長はゆっくりと近付いてきて、顔を覆っているあたしの手首を掴んだ。恐い。恐い……!


 そのとき、コウタさんの声が響いた。何やってるんだ、と。捕まれた手首は解放された。


 あたしが必死に目で訴えると、コウタさんは力強く頷いて、俺の彼女に手を出すな、と言ってくれた。嫌じゃなかった。いや、嬉しかったのかもしれない。


 ふたりは少し言い争ったけど、あたしがコウタさんの後ろに隠れるようにして寄り添うと、課長は悪態をついて去って行った。小さなひと。何であんなひとが好きだったんだろう。


 もう大丈夫だよ、と頭を撫でられて、初めて自分が泣いているのを知る。私は逞しいその胸に縋って、思い切り泣いた。

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