俺(26)
ケーキも食べ終わると、ミカさんは、このあと予定があるか訊いてきた。何もないと答えると、今度は自分がお勧めの映画を紹介したいから、うちに来ないかという。
動揺しなかったかと言えば、嘘になる。けれど不思議と下心はなく、ただ「ひとつ屋根の下に男女」の図が、ミカさんの未来の彼氏に誤解されないだろうかと変な気を回してしまう。
男女の友情があると思うか訊いたのは、ミカさんだ。本当に俺を友人として歓迎してくれているのだろう。そう思えば、俺が彼女を女性として意識してしまうのは、失礼な気がした。
ミカさんのマンションまでは、地下鉄で十駅ほどだった。都心と郊外のちょうど真ん中に位置していて、住みやすい立地だ。
駅前の惣菜屋でおかずを幾つか買って、帰路につく。顔見知りなのだろう、惣菜屋の女店主が、あら、ミカちゃん? なんて俺を見るが、ミカさんは、違います、友人です! と笑って応じていた。
マンションに着いたのは午後四時だったから、まず映画を観ることにした。テレビの横に三十枚ほどのDVDがまとめてあって、その中から、迷うことなくミカさんは一枚を選んだ。
『三人の逃亡者』
パッケージにはそう書いてあって、若き日のニック・ノルティが垣間見えた。
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