あたし(25)
正直、少し不安だった。交換日記はしているけど、ゆっくり話したことはなかったから。
でもそれは杞憂に終わって、コウタさんは無口な方だけど、会話の糸口を探すのと話をきくのがとても上手いひとだと思う。
コウタさんの持ってきた本と、そのドラマの話で、会話が弾む。
やがてサンドイッチを食べ終わって、ティーポットから二杯目を注ぐ頃、蝋燭が三本刺さったシフォンケーキが運ばれてきた。お誕生日おめでとうございます、とマスターが微笑む。
コウタさんは、「鳩が豆鉄砲を食らったような」という表現が相応しい表情をして、あたしとケーキを交互に眺めた。サプライズ大成功! とあたしは、その表情にクスクス笑う。
それから、男のひとは恥ずかしいかなと思って、喧噪に紛れてしまうほどの小さな声でハッピーバースデーの歌を歌った。
――ほら、コウタさん。
うながしても、コウタさんは目を白黒させている。
――コウタさん、蝋燭を消して。これがプレゼントです。
そう言ったら、ようやく我に返って、ありがとうと呟いたあとに蝋燭を吹き消した。
ホールケーキを食べるのなんか五年ぶりだな、と、コウタさんは独り言のように囁く。
あたしにとっては半年前、彼にとっては五年前、忘れられない恋の思い出があるんだろう。
そう思うと、何だか心臓がキュッと縮まった。今も友だちだという、五年前に別れた元カノさん。友だちって、どういう友だち? そう訊いてしまいたくなるのを、こらえなければならなかった。
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