俺(24)

 トントン拍子に日にちが決まった。LINEでカジュアルなランチが良いと相談して、ミカさんが知っていた紅茶専門カフェに12時半待ち合わせにした。


 12時前には着いてしまって、読みかけの本を読んで待っていようと思っていたら、奥の窓際の席から手が振られた。笑顔が眩しい。


 ミカさんは、いつものジーンズにTシャツじゃなく、クリーム色のワンピースを着ていた。髪も高い位置に纏めている。それだけで雰囲気がガラリと変わって、何だかドキドキするのを止められない。


 お……落ち着け、俺。これはデートじゃないんだから。


 席に着いてメニューを見ると、ミカさんが、ここはデザートが美味しいから軽いものにしておいた方が良いとアドバイスされる。アドバイス通り、サンドイッチと紅茶のランチセットにした。


 そして、鞄から文庫本を取り出す。大袈裟にしたくなかったから、ラッピングもリボンもかかっていない、文庫本を一冊。


 ――ミカさん。これ、僕のお勧めの本です。一巻をプレゼントするから、気に入ったら続きを買ってください。


 そう言ったらミカさんは、プレゼントするのはあたしなのに、としきりに悔しがっていた。その表情が、何だかとても可愛くて、俺もつられて笑ってしまう。


 ――ミカさん、猫、好きですか? これ、『三毛猫ホームズ』っていうシリーズで、猫が事件を解決するんです。


 そうしたら、知ってる、とミカさんが噴き出した。マツコDXのやつでしょ? と。


 ああ……そう言えば、ホームズがドラマ化されたことがあったっけ。俺は観ていなかったけど。


 逆にドラマのことを教えて貰い、気負わずに会話は続いた。友達になれるひとは少ない。俺たちは今日『友人』になったのだと、確かに感じた瞬間だった。

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