俺(8)

 色々な本に象徴的に登場していたから、俺も青薔薇が高いことくらいは知っている。泣きそうに眉がしらを上げている彼女を引っ張り起こして、俺は迷わず計画した。


 この一輪の青薔薇は、夢が叶うように、俺が買ったことにする。青薔薇は長い間実現せず『不可能』の花言葉を持っていたが、つい最近日本人が改良に成功して、花言葉は『夢叶う』に変わった。以前読んだ本に、青薔薇をプレゼントするシーンがあったから、ピンときた。


 彼女は急いで折れた茎を切ってしまって、証拠隠滅してからスタイリッシュに青薔薇をラッピングしてくれた。リボンはゴールド。彼女の仕事を見たことがなかった俺は、その華麗なリボンさばきに感嘆のため息をつく。


 差し出され、受け取って。それで夢って何ですか? と訊かれて、答えを用意していなかった俺は、つい本音を口走ってしまう。


 いつか……家族を、持ちたいんだ。心なしか、彼女の顔が明るくなったような気がする。そんなに叶わない夢なんですか? 結婚のご予定は? と続けざまに訊かれ、俺の悪い癖が出た。感情が筒抜けになってしまうこと。


 彼女は目に見えて狼狽し、ごめんなさいと何度も謝った。俺も曖昧に詫びながら、バケツの山を回収し、その日は気まずいまま別れてしまった。


 仕事が早めに終わったから、花屋にきちんと謝罪の電話をかけようと、スマホと睨めっこしていたら二時間が過ぎていた。

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