第9話 巨大怪獣的なのが出るファンタジーだった件について
「あ、あれ? 私まだ生きてる?」
リルムは恐る恐る目を開いた。ゴーレムに潰されたと思ったが、どうやら自分はまだ生きているようだと安堵の息を漏らす。
「残念ながら、まだ五体満足よ」
「即席で防御壁を展開できるとか流石アリス氏。そんな芸当が出来るのはここら辺じゃ君ぐらいよね」
リルム達の目の前には半透明な壁が張られていた。壁を張ったであろうアリスは腕を組んでゴーレムを見据えている。その立ち姿すら優雅に思えるほどだ。
「こんな高性能の防御術をノータイムで発動するなんて……それもほぼ無詠唱でなんて……」
リルムは息を飲んだ。アリスは苦なくしているがそう簡単に出来ることではない。普通、魔術は長い詠唱が必要であり、発動まで少なくない時間が掛かる。
それを単語とも言える短い詠唱で発動しているのだから。
「でも、この状況はどうにかしないといけないわね」
「うわぁ、これまともに喰らったら僕らペッチャンコだねぇ。しかし、こう目の前に迫っていると迫力すごいなぁ……こわ」
「なんで、二人ともそんな余裕なんですか……私達一応絶対絶命ですよ?」
確かにアリスの張る障壁により巨大ゴーレムの拳はリルム達に届くことはない。しかし、そんな悠長に構えるほどの状況でもない。
「そうね。あんな攻撃繰り返されたら少しキツいわね」
「えぇ、じゃあお得意の魔術でパパッとやっちゃってよ」
「この手のゴーレムは厄介なのよ。ほら『
アリスの発動した
しかしーー
「わ、再生してる」
ゴーレムの右腕は砕けた岩を取り込んですぐ再生してしまった。
「そ。核を叩かない限り無限に再生するわ」
「え? じゃあ、お得意の魔術で吹き飛ばせばいいじゃん」
「貴方ね、そう簡単ならそうしてるわ。核は一定時間で移動しているの。核ごと吹き飛ばせる大魔術を使えないこともないけど……貴方、時間稼ぎ出来る?」
「あ、はい。普通にあんな相手に無理っす」
ムンクは敵前逃亡しようか本気で悩んだ。そもそも、人間があんな怪獣に挑むのが間違っているのだ。そんなものイケメン勇者に任せておけ。
「で、でも、じゃあ……どうすれば?」
リルムは恐る恐る尋ねた。手詰まりにしか思えないのか若干手が震えている。
「核を壊すしかないわ」
「でも、核は移動するんでしょ? 詰んだわ……」
「私の魔眼で核の位置は分かるわ」
「えぇ……」
「なんで貴方は残念そうなのよ……」
ちなみに、ムンクは仕事が増えそうな予感がしたから残念がったそうな。
「障壁を張りながらだと、核を露出させるぐらいの限界なの」
「ほぅほぅ」
「だから、ゴーレムの核には文字が書かれている。それを削れば動きは止まるからお願いね。貴方が」
「え?」
アリスに指をさされたムンクは目を点にさせた。思わずとなりのリルムに目を向けるが、ブンブンと手を振られて「私じゃないです」とアピールされた。
「貴方よ、ムンク。だいたいリルム嬢にそんな鉄ぽ……いえ、少々危険なことさせれる分けないでしょ」
「今! 鉄砲玉って言おうとした!? ていうか、何が少々だよ!? あんなのに突っ込むとか命がいくつあっても足りないよ!?」
「だいたい! いつもそうだ!! 危ないことを僕に押し付けやがって! いいか! 僕は基本働きたくないの! 正直食っちゃ寝のグータラ生活したいの!! それがこんなデストロイな目に合うとふざけんな!!」
「はわわ……ムンクさんが壊れた」
リルムはムンクの言い様に困惑しているが、アリスは違う。彼女はこの男が勢いでまくし立てれば、なんとか逃げれないかなとか思ってることをちゃんと理解している。
だからーー
「ムンクーーう る さ い」
睨み付けた。
「はい、ごめんなさい」
ムンクは神速で土下座した。その動作はとても流麗で目を見張るものがあった。滞納した金を取り立てに来たゴロツキでさえ、見惚れて見逃すレベルの土下座である。
「さて、話がまとまったところで、とっとと実行に移るわよ。核の場所までは私が連れていくわ」
「え? 滅茶苦茶嫌な予感するんだけど? 安全な方法だよね!? そうだよね!? え?なんでその銃口僕に向けてんの!?」
「吹き飛びない!『
ムンクの嫌な予感は的中した。ふと、ことの始まりの酒場の一件が頭をよぎった。
「結局このパターンなのねえええええええええええ」
アリスが発動したのは風の魔術だ。集まった風の渦は重いものであろうと彼方に吹き飛ばせる威力を持つ。
つまり、ムンクはまた空の散歩をするはめになったということだ。
追放されたクソニート~勇者パーティーでニートしてたらクビになった件について。神涜者とまで言われた詐欺師はそれでも働きたくない! 灰灰灰(カイケ・ハイ)※旧ザキ、ユウ @zakiiso09
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