第47話:私ホントは、今でもね……
瑠衣華は自分と付き合っていたことをカッコ悪いと思って、周りに内緒にしたがっている。
一匠は疑いもなくそう思っていたが、瑠衣華の本当の気持ちはそうではなかった。
瑠衣華と一匠が元カップルだという事実が周りに浸透することで、再び付き合う可能性が
「そう……なんだ」
そう言えばこの前、駅前のコンビニでたまたま出会った時に、瑠衣華はこう言っていた。
『事実かどうかと、他人に言いふらすことは別。他の人に知られたくないだけで、私たち二人の間ではそれは事実なんだから』
周りに知られたくないのは、決して恥ずかしいからではないとも言っていた。
だから今彼女が言ったことは、きっと事実なのだろう。
──と言うことはつまり、瑠衣華は、今も……
再び一匠とよりを戻したいと思っているということだ。しかもその気持ちを、遠回しではあるものの、今、直接一匠に伝えた。
「瑠衣華……」
瑠衣華はしばらくじっとしたまま、何も答えない。目は閉じているし、もしかしたら眠ってしまったのか?
一匠がそう思っていたら、ふと瑠衣華はまた薄目を開けて口を開いた。しかし相変わらず、ぼんやりした表情と話し方だ。
「ん……? いっしょー君、私のこと……瑠衣華って呼んでる……?」
「ああ。瑠衣華だっていっしょー君って呼んでるじゃないか」
「あは、そだね。……で、なぁに?」
「瑠衣華がそんなふうに思ってたなんて、俺……全然気づいてなかったよ」
「うん……わかってる。だけどね……私ホントは、今でもね……いっしょー君のことが……」
一匠はドキリとする。
今度は遠回しではなく、そのものずばり、想いを伝えようとしているのだ。
一匠は全身で瑠衣華の言葉を受け止めようと覚悟した。
しかし……瑠衣華は黙り込んだまま動かない。
よく見たら、完全に目を閉じてすぅすぅと寝息を立てている。
(あれっ? 寝ちまった? ホントは俺のことが……なんなんだよ、あはは)
また何か話し出すかと思って寝顔をしばらく眺めていたのだけれども……瑠衣華はがっつり寝入ったようだ。
すぅすぅと寝息を立てる瑠衣華が、とても愛おしく思えてきた。
一生懸命一匠と関わろうとする瑠衣華。
色々と何度も失敗しながらも前向きに頑張る瑠衣華。
別れた時のことを素直に謝り、そして自分の想いを打ち明けた瑠衣華。
そのすべてがとても可愛くて愛おしい。
そんな気持ちが一匠の胸の中に、さざ波のようにどんどん広がっていく。
決して見た目が可愛くなったから、というだけではない。瑠衣華の言動のひとつひとつが、一匠の心を撃ち抜くように、甘く切ない感情を呼び起こす。
一匠は思わず、すやすやと眠る瑠衣華の頭に手を伸ばした。そして栗色の髪を優しく撫でる。
すると突然瑠衣華は「うふふ」と、小さく微笑んだ。
(もしかして起きてるのかっ!?)
ビクッとして手を引いた一匠だが、よく見ると瑠衣華は目を閉じてまだ眠っている。だがその表情は、一匠に頭を撫でられたことが嬉しいかのような、そんな微笑みだ。
何か楽しい夢でも見ているのだろうか?
一匠はまたしばらく瑠衣華の顔を眺めていたが、その後は瑠衣華は何も話すことはなかった。本格的に寝入ってしまったようだ。
その寝顔は落ち着いているし、辛そうな感じはない。少し体調は良くなったようで、一匠も安心した。
そのまま30分は様子を見ていただろうか。けれども瑠衣華が目を覚ます様子がない。
夕方にはお母さんが帰って来ると言ってたし、このままずっと瑠衣華の部屋に居るのもマズいかもしれない。
瑠衣華の病状も落ち着いているし、一匠は帰ることにした。瑠衣華を起こさないように、静かに歩いて彼女の部屋を出た。
◆◇◆◇◆
自宅に帰って、一匠は自室のベッドに仰向いて寝転んだ。色んな思いが頭を巡って、なかなか考えがまとまらない。
とうとう瑠衣華は、中学の別れのことについて面と向かって話をしてくれた。
その理由は、確かに瑠衣華の思い込みによるところも多い。しかし彼女に不安な気持ちを抱かせたのは、他ならぬ一匠自身だとわかった。
一匠には、瑠衣華が悪いというふうには思えない。瑠衣華は自分に自信がなくて、思い詰めてしまうところがある。
そしてどうしたらいいのか、わからなくなる。
だからこそ友達などへの相談ではなくて、恋愛相談サイトなんかで相談してきたのだろう。
その相談サイトでは、瑠衣華は一貫して一匠のことが好きだと言い続けてきた。
最初は誰なのかわからなかったけど、今から振り返ると、彼女は少しの曇りもなく一匠のことを思い続けているのだ。それは間違いない。
そして今日。瑠衣華は一匠がアドバイスした通りのことを、勇気を持って行動した。
ただでさえ気持ちを伝えるのが苦手な瑠衣華だ。とても勇気がいっただろうに。
瑠衣華が一匠を思って、精一杯の行動をしてくれた。そして一匠は瑠衣華の本当の気持ちを知った。
それを考えると……
(俺は……瑠衣華に、どう接するべきだろうか。……いや、俺自身はどうしたいのか?)
一匠は自分の心の内に、何度となく目を向ける。
ぼんやりと室内を眺めていたら、ふと本棚の漫画本が目に入った。付き合っていた頃に瑠衣華が来て、読み耽っていた全30巻の本だ。
「あの頃は……あれはあれで楽しかったよなぁ……」
一匠は別れることになった時もその後も──
『瑠衣華のことをそんなに好きというわけじゃなかった。好きになりかけてはいたけれど』
──と、自分でもずっとそう思っていた。
しかしそれは自分を誤魔化していたのかもしれない。もしかしたらフラれた悔しさを紛らすために、そう思い込もうとしていたのかもしれない。
そんな気がしてきた。
──一匠は思った。
ホントはそれよりももう少し、瑠衣華のことが好きだったのだと。
そして理緒のことも少し気になる。
しかし理緒とも色々とやり取りする中で、彼女の自分に対する好意は、異性というより人としてのものだと確信した。
そういう状況の中で、これから自分が何をどうすべきなのか……
「やっぱそうだよな」
一匠は何かを決意したような顔で、コクンとうなずいた。
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