第46話:こういう子が好きなの?
一匠は本当は自分が好きではない。中学の頃、そう思っていたと瑠衣華は言った。
一匠には、なぜ瑠衣華がそんなことを思ったのか、まったく心当たりがない。
だから戸惑うばかりだった。
瑠衣華はしばらく黙り込んでいたが、またゆっくりと話し出した。
「本屋でいっしょー君が、アイドルの写真集をじーっと見てたよね……それで私が、『いっしょー君ってこういう子が好きなの?』って聞いたでしよ……」
そう言えば、そういうことがあったようななかったような。
一匠にとっては特に意識をしたような出来事ではない。
「そしたらいっしょー君は……『うん。この子可愛いね』って言ったの……」
「そ……そうだったかな?」
「だからいっしょー君は……ホントはやっぱり……私みたいな地味なオタク女子じゃなくて、可愛い子と付き合いたいんだなって……気づいた」
「えっ……?」
アイドルの写真を見て、可愛いから好きだと言う。
そんなのはごく普通にあることだよな……と一匠は思った。
だけど──
付き合い始めたばかりの女の子の前では、そういう態度はデリカシーに欠けていたのかもしれない。
赤坂瑠衣華って子は、自分に自信がなくて、一つ思い込むとどんどん深みにはまっていくタイプなのだろう。
軽く受け流せばいいことでもそれができない。相手に確認すればいいことでも、それができない。
一匠も瑠衣華と相談サイトでやり取りをするようになって、ようやくそこに気づいた。
だけど中学生当時は、そんなことは思いもしなかったのだ。
「そんな気は全然なかったよ……悪かった」
「ううん。いっしょー君が悪いんじゃない……私が過剰に思い込んだだけ。だけど……高校に進学する前に、やっぱり後悔したんだ。だから……もっと可愛くなって、いっしょー君を振り向かせたいって……」
(あっ、そっか。赤坂さんが、俺がアイドルに詳しいって勘違いしたのは、このことがあったからなんだな)
一匠はそう気づいた。そして改めて瑠衣華の顔を見る。
瑠衣華は相変わらずぼんやりとした顔つきだが、さっきまでの辛そうな表情は和らいでいる。一匠の言葉にもちゃんと受け答えしているし、少し体調がマシになったようだ。
どちらかというとボーっとした気だるそうな感じ。もしかしたら眠いのかもしれない。
「そうなんだ……」
(だから瑠衣華は、高校に入るに当たってあんなに可愛くイメチェンをしたのか……)
可愛くなって一匠の手の届かないところに行ってしまったのではなく、実は瑠衣華は一匠を振り向かせるために可愛くなる努力をしていた。
その事実を知って、一匠は瑠衣華がなんともけなげで、見た目だけではなく、瑠衣華のことすべてが可愛く思えた。
「だけど結局高校に入ってからも全然素直になれなくて……変な態度ばっか取っちゃった。私って……ホントにバカ……」
「いや、そんなことないよ。特に最近は、素直に色々と接してくれてるって思ってる」
「あ……うん。ちょっと色々あってね……」
この色々というのは、やはり相談サイトのことを言ってるのだろうか。
確かめるわけにはいかないけれども……
瑠衣華の話しぶりから、きっとそうなのだろうと一匠は感じた。
「それといっしょー君に、もう一つ謝りたいことがある……」
「なに?」
「高校の入学式の日。私……いっしょー君に『元カレだってことは内緒にして』って……お願い……したよね?」
「あ、ああ。そうだったな」
「あんなこと言って……いっしょー君を……きっと傷つけたよね……ホントにごめんね」
瑠衣華は目もうつろでボーッとした感じなのに、思いをすべて吐き出したい気持ちなのだろう。
淡々とではあるが、話が止まらない。
「いや、そんなの気にしなくていいよ。でもさっき言ってくれた話からしたら、なんでそう言ったの?」
「それはね……周りからも元カレ元カノって認定されると、それはもう確定した過去になる気がしたんだ」
「確定した過去……」
「うん。そうなるともう取り返せない気がした……だから周りに知られたくなかった」
瑠衣華のその言葉に、一匠は自分が思っていたこととまったく違う瑠衣華の想いにようやく気付いて衝撃を受けた。
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