第45話:ごめんね……迷惑かけて
足元がふらつく瑠衣華の両肩を一匠が両手で支えて、彼女の部屋まで連れて行った。そしてベッドの端に腰かけさせる。
瑠衣華は座ったまま、一匠が渡したペットボトルのスポーツドリンクを口にした。
「冷たくて美味しい……」
「良かった……ほら、横になりなよ」
「うん」
瑠衣華はふぅーっと大きな息を吐いて、布団に潜り込む。まだ辛そうだ。
「ゆっくり休んでな」
「うん……ごめんね……迷惑かけて」
瑠衣華は掛け布団を口のところまでかぶって、目を閉じたままそう言った。
「いや、全然迷惑なんかじゃないし。気にすんな。俺たちクラスメイトじゃないか」
一匠の言葉にゆっくりと目を開けた瑠衣華の瞳は、熱のせいか潤んでいる。ぼんやりした目で一匠を見た瑠衣華は、ぽつりと呟く。
「ありがとう……」
「とにかくゆっくり休んでな。じゃあ俺、帰るわ」
女の子の部屋に居続けるのも良くないだろうと思って、一匠はそう言った。しかしこのまま瑠衣華を置いて去る不安もある。
「いっしょー君……お願い……」
「ん? なに?」
「もうちょっとだけでいいから……そばに居て……」
瑠衣華の意外な言葉に、一匠の心臓はどくんと鼓動が跳ねた。
「あ、ああ。いいよ」
「ありがとう……」
瑠衣華は素直に接しようとしているからなのか。それともあまりに辛いからなのか。
どっちなのかはわからないけれど、しばらくここにいてくれなんて……
瑠衣華がそんな素直な気持ちを口にするなんて、一匠は少しどぎまぎした。
目をつむったままの瑠衣華をしばらく眺めていたが、そのうちスゥースゥーと寝息を立て始めた。
瑠衣華が寝てしまった以上、自分は帰るべきなのだろうか?
そうは思うものの、彼女が目を覚ました時に誰もいないと、不安に思うかもしれない。
そう考えると、一匠は部屋を出て行く気になれなかった。
ふと瑠衣華の部屋を見る。
全体的にピンクが基調の、女の子らしい可愛い部屋。
なんとなく甘い香りがする。
多分部屋の芳香剤なのだろうけど、今の可憐な瑠衣華自身の香りのような気がして、ドキリとする。
さっきまでは必死で考える間もなかったけど、瑠衣華の部屋に居るんだという実感が湧いて、何とも言えない甘い気分が一匠の胸に押し寄せた。
勉強机とベッドの他は、本棚がいくつか並んでいる。
ラノベや漫画。
割と新しい作品もある。
今もやっぱり、こういうのが好きなんだな、と一匠はなんだか微笑ましく感じる。
しばらくすると瑠衣華はふと目を覚まして、薄く目を開けて一匠を見た。そして力のない声で囁いた。
「ホントごめんね、いっしょー君」
「いいって、気にすんな。病気の時は仕方ない」
「そうじゃなくて……中学の時」
「えっ?」
「私から付き合って欲しいって言ったくせに、突然別れてって言ったこと……」
突然瑠衣華がそんなことを言い出すなんて──
一匠は驚いて瑠衣華の顔を見る。目つきもぼんやりしてるし、瑠衣華がどこまではっきりとした意識で話しているのかわからない。
「私ね……いっしょー君に好かれてないんだって思って……」
瑠衣華が思いもよらないことを言い出した。
「そうじゃなかったのかもしれないけど……一度そう思い始めたら……毎日そんなことばかり考えるようになったんだ……」
「そ……そうなのか?」
「それで毎日辛くて悲しくて……こんな思いをするくらいなら……別れた方がいいって」
確かに一匠は、瑠衣華のことをすごく好きで付き合い始めた訳ではない。だけど付き合い出して、徐々に好きになりかけていた。
だからなぜ瑠衣華がそんな風に思ったのかわからない。
「ちゃんといっしょー君に確かめたらよかったんだけど……ホントにごめんね。好きじゃないってハッキリ言われるのが怖くて……言い出せなかった」
瑠衣華の目は相変わらず薄くまぶたを開いている。まるで夢うつつでいるみたいだ。
「そうなのか? いや、俺は……あの頃、段々瑠衣華のことが……好きになっていた。なんで俺が瑠衣華を好きじゃないなんて思い込んだんだよ?」
瑠衣華は黙り込んだままだ。
目は薄目に開いたままだし、相変わらずぼんやりとした目つき。
一匠は、なぜ瑠衣華がそんなことを思ったのか、まったく心当たりがない。
だからただ戸惑うばかりだった。
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