第41話:体調は大丈夫かな?

 その日の夜は、RAさんからの書き込みはなかった。

 瑠衣華は作戦が上手くいかずに、落ち込んでいるのだろうかと少し心配になる。


 夕食後──


 一匠は身体が重く感じて、体温を測ると微熱が出ていた。

 RAさんからの書き込みがあるかどうか気にはなるものの。

 そして瑠衣華の体調は大丈夫なのかと気になるものの。


「ヤバいヤバい。ホントにラブコメみたいな展開になりそうだ」


 そんなことをつぶやきながら、今夜は早めに寝ることにした。




◆◇◆◇◆


 一匠が翌朝目覚めると、体調はすっかり戻っていた。

 体温を測っても平熱だ。


 女の子に看病に来てもらうラブコメ展開はやはりなかったが……


(赤坂さんの体調は大丈夫かな?)


 心配しながら登校した一匠だったが、その不安は的中してしまった。

 担任教師の説明によると、瑠衣華は──風邪で学校を休んでいた。


(学校が終わったら、赤坂さんの家まで見舞いに行こうか……?)


 そう思いついたものの、さすがにいきなり家まで行く勇気はわかない。

 瑠衣華に直接メッセージを送るにも、実は一匠は瑠衣華と連絡先交換をしていない。


 中学で付き合っていた時には、まだ一匠はスマホを持っていなかったのだ。


 ──瑠衣華の体調はどうなのだろうか?

 ──風邪の症状は重いのだろうか?


 一匠は一日中そんなことを考えていた。

 でも今は、それを確かめる手段はない。

 おかげで今日は授業に集中できない。


 もしかしたら相談サイトに、RAさんとして瑠衣華が体調のことを書き込んでいるかもしれない。

 しかし一匠の高校では登校時にロッカーにスマホを入れ、下校時までスマホは使ってはいけないことになっている。


 だから今までも、学校で相談サイトのやり取りをすることはなかった。


(放課後になればスマホで相談サイトにアクセスして、メッセージを確認できるのになぁ)


 一匠は仕方なく、一日の授業が終わるのを待った。




 ようやく授業が終わり、一匠は急いで校舎の玄関に向かった。玄関近くに設置されている個人ロッカーを開け、スマホを取り出す。

 そして相談サイトを開いた。


 しかし──

 特にRAさんからのメッセージは書かれていない。


 一匠は肩を落として、靴を履き替える。


(仕方ない。今日はこのまま様子を見るしかないか……)


 そう思ってふと顔を上げると、理緒が誰か知らない女子生徒二人に挟まれて、校舎から出ていくのが目に入った。


 二人の女子生徒は胸のリボンの色からして2年生のようだ。二人ともまっ茶色の髪に派手な化粧。いかにも気が強そうなきつい目つき。


 そして理緒は表情が強張っている。


 なにか嫌な予感がした一匠は、理緒たちの後をついて校舎の玄関を出た。



 校舎の玄関を出た理緒と上級生の二人は、そのまま校舎の裏の方に向かった。そして人けのない中庭で立ち止まった。


 一匠は校舎の陰に身を隠し、覗きこむようにして三人の様子を窺う。


 上級生の二人は苦々しげに顔を歪めて、その内の一人が理緒を問い詰めるようにきつい口調を投げかけた。


「ちょっとあんた。ちょっと可愛いからって、いい気になってるんじゃないよ! 一年生のくせに!」


 もう一人の上級生は、腕組をして理緒を睨みつけている。

 いったいなんの話なのだろうか?


「なんの話でしょうか? 私は別にいい気になんかなっていません」

「はぁっ!? あんた三年生の岸上先輩は知ってるよね、サッカー部の」

「あ……はい。存じ上げています」


(さすが青島さんだ。上級生の圧にも、落ち着いているな)


「あんたさ。岸上先輩に言い寄ったでしょ」

「そうそう。で、あんた。自分からアプローチしときながら、今度は冷たく先輩を振った」

「えっ? 私、そんなことしてません。言い寄ったりしてませんし……人違いではありませんか?」


 理緒はいったい何故そんな話になっているのか、わからないようで困惑した顔をしている。


(あの人たち、何を馬鹿なことを言ってるんだ? 青島さんがそんなことするわけないじゃん)


「はぁっ? 嘘つくなよ! 先輩がそう言ってるんだよ。あんた1年B組の青島理緒でしょ!?」

「青島理緒は確かに私ですけど、私は嘘は言ってません。岸上先輩に言い寄るなんて、絶対にしてません」

「とぼけんなよ! 青島が色目を使って、いかにも気があるように何度も近寄って来たって先輩が言ってんだよっ!!」

「それは嘘です。何度も声をかけてきたのは岸上さんの方です」


 さすが理緒。

 相変わらず毅然とした態度で上級生と渡り合っている。


「はぁっ!? なんだって!?」


 上級生の一人が業を煮やして、とうとう理緒の胸元に掴みかかった。これはさすがにヤバいと、一匠は校舎の陰から飛び出した。

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