第39話:この雨は夜中までやまないみたい
一匠は瑠衣華を相合い傘に誘うか、それとも誘わないか迷っていた。
相合い傘なんて一匠には恥ずかしすぎるし、きっと瑠衣華だって恥ずかしくて嫌がるだろうと思う。
どうしようか……と悩んで瑠衣華の顔を見た。
すると彼女は一匠の手元をチラチラと見ている。
そう、一匠の手の中には折り畳み傘がある。
これはきっと、瑠衣華は相合い傘を望んでいる。きっと恥ずかしさよりも、ゆっくりコミュニケーションを取る方を選んだのだ。
一匠はそう感じた。だから勇気を持って口に出す。
「あ、赤坂さん。一緒に傘に入る?」
「いやいやいやいや。とんでもないっ!」
瑠衣華は顔を真っ赤にして、両手をふるふると激しく横に振っている。
自分の予測は外れたのだろうかと一匠は思ったが、なんとなく本心からの拒否ではないような気がした。
「遠慮しなくていいよ。ずぶ濡れになったら困るし。この雨は夜中までやまないみたいだし」
一匠がそう言うと、瑠衣華は今度は素直にコクンとうなずいた。
「う、うん」
一匠が傘を広げると、瑠衣華がテケテケと歩み寄ってきて、傘の下に入った。そして二人で校舎の外に出て歩き出す。
周りから見られるのは一匠も恥ずかしいから、できるだけ傘の前を下げて、他の人と目が合わないようにする。
そんな体勢で、二人は駅までの道を歩いた。
少し歩くと雨足がかなり強くなり始めた。
しかし小さな折り畳み傘。
二人分の肩幅を覆うことは無理だ。
瑠衣華は肩がびしょ濡れになっているのが目に入る。
一匠は瑠衣華の方に傘を寄せる。
「あ、白井君。肩が濡れてる」
瑠衣華は一匠の方に傘を手で押し返す。
「いや、いいよ。赤坂さんこそ濡れてるし」
今度は一匠が瑠衣華の方に押し戻して傾ける。
「あ……ありがとう」
まるでごく普通に付き合っているカップルのようなやり取り。
ほんの2週間前の二人の関係からすると、信じられないような感じだ。
「あ……あのさ、白井君」
「なに?」
「ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「お、お願い? なに?」
──キタっ!
相談チャットで打ち合わせたように、瑠衣華はきっと漫画のことで、何かを教えて欲しいと言うのだろう。
一匠はその心構えをして、瑠衣華の言葉を待つ。
しかし雨足が更に強くなる中、いきなり突風がびゅんと吹き付けた。
「あっ!」
その瞬間、一匠が持つ傘の骨がバキリと折れて傘がしぼむ。
今まで二人を覆っていた物が無くなり、大粒の雨が二人を打ちつける。
一匠はガチャガチャと傘を開いたり閉じたりしたが、やはり壊れていて使い物にならない。
このままでは二人とも、全身ぐしょ濡れになってしまう。
「赤坂さん、雨宿りしよう!」
すぐ横の公園に、ちょうど雨よけになるような大きな屋根がついているベンチがある。
そこに二人で駆け込んだ。
ふぅっと一息ついて、瑠衣華を見た。
栗色のショートヘアがぐっしょり濡れて、頬にも水滴が流れている。
制服のブラウスもびしょ濡れ。
胸のあたりでブラジャーが透けて見えているのに気づき、一匠はドキリとして、慌てて目をそらした。
「座ろっか」
「うん」
一匠がベンチを指差すと、瑠衣華も素直に腰掛けた。
「あの……赤坂さんがさっき言いかけてたお願いってなに?」
「あ、えっと…… 私のいとこが……男の子なんだけどさ」
「うん」
「教えてほしいって言われて。白井君、詳しそうだから教えてもらえないかなぁ……って」
(なるほど。いとこの男の子が知りたがっているという言い訳を考えたわけだね、赤坂さん)
「教えるって何を?」
「お勧めの……」
(うんうん。おすすめの漫画な)
それの答えは、一匠は昨日から準備してある。
今一番のおすすめ漫画は、少年が鬼を倒すダークファンタジー漫画だ。
「アイドルグループを教えて」
「えっ……?」
「これから売れそうで、今はまだそんなにメジャーじゃないグループ。その一押しってどのグループでどの子?」
──なんで?
なんでアイドルグループ?
(俺……アイドルなんて全然詳しくないよ。なんでそんな変化球を投げてくるんだよぉぉぉっ!?)
まったく想定外のリクエストに、一匠は思わず呆然として瑠衣華の顔を眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます