第36話:本日は5ポイントゲットです!

 その日の夜。

 さすがにあんなことがあったし、予想通りRAさんからのメッセージが書き込まれていた。


『今日は”素直ザ・チャレンジ”で、4回コミュニケーション取れました。本日は5ポイントゲットです!』


 ──あ、やっぱり。


 4回で5ポイントだから、朝の謎解きがきっと2ポイントだろうなと一匠は思う。高難度だからなのか、それともお詫びと褒めるので合わせて2ポイントなのか。


(まあ、どっちでもいいか)


『昨日言ってた作戦は、上手くいったかな?』


 作戦のことを瑠衣華はどう思ってるのか気になって、あえて訊いてみた。ちょっと意地悪な質問だったかもしれない。


『あ、はい。作戦失敗です。彼に迷惑をかけてしまいました。大大反省です……( ;∀;)』


(あ、凹んでる……)

 

 しかししょぼんとした今朝の瑠衣華を思い出して、一匠はちょっとクスッと笑った。バカにしたわけではなく、ちょっと瑠衣華が可愛く思えたからだ。


『誰にだって失敗はあるし、失敗は成功の素って言うし。気にせずがんばろ!』

『ありがとうございます! 明日からは正攻法でがんばります!』


「そう。それがいい……」

 と、一匠は思わず呟いた。


『うん、がんばって!!』

『はい! やっぱりえんじぇるさんと話すと元気が出ます! ありがとうございます!』


 赤の他人としての立場、アドバイザーとしてはとても嬉しい言葉だ。実際にはRAさんの想い人は自分なのだから、複雑な気分ではあるが。


『えんじぇるさんって、ホントにいい人ですね。どんな人なのかなぁ。きっとモテるんでしょうね』


 ──ドキっとした。

 そして胸の奥がチクッとした。


 それは一匠が正体を隠していることの後ろめたさなのか。

 それとも瑠衣華が自分ではない男性(実際には自分なのだけれども)に好意を示したことに対する嫉妬なのか。


「いやいやいや。俺が赤坂さんのことで嫉妬するなんてあり得ないよな。それにえんじぇるも自分なんだし」


 思わずそう口に出したが、自分でもチクッとの正体はわからない。


『ありがとう。モテるかどうかは……普通ですよ』


 ホントは事実通り、全然モテないと書きたかったけど。恋愛のアドバイザーが全然モテないなんて、信頼性を損なうと思ってそう返事した。


『とにかくその調子で、明日もがんばってください。応援してます!』

『ありがとうございます! えんじぇるさんのおかげでがんばれます』


 瑠衣華は前向きになっている。


(これはこれで良かったんだよな……)


 一匠は少し戸惑いながらも、自分にそう言い聞かせた。





 それからも毎日、些細なことばかりではあるが、瑠衣華は一日に数回、そういうコミュニケーションを取ってきた。


 夜には相談サイトに『今日は2ポイントです!』というように、毎日獲得ポイントを報告してくる。


 この一週間、瑠衣華と一匠は、ごく普通のクラスメイトと言える状況になっている。


 特に仲が良いわけではないが、別に仲が悪いわけではない。そんな感じ。


 隣の席の割には少ないコミュニケーションではあるが、それでも以前のような毒舌がないぶん、良好に見える関係だ。


 そんな状況で”素直ザ・チャレンジ”の開始から一週間が経った日の夜──


 相談サイトに、RAさんからこんなメッセージが書き込まれた。


『この一週間で”素直ザ・チャレンジ”ポイントが18ポイントになりました!』


 瑠衣華にしては上出来だ。

 嬉しそうだし、まあ良かったと言える。


 一匠は客観的立場のアドバイザーとして嬉しく思う。


『そっか、良かった! がんばったね!』

『はい! がんばりました。おかげさまで、だいぶん彼とコミュニケーションを取ることに慣れてきました』


 確かに。一匠から見ても、それはそう思う。

 まだまだぎくしゃくしている時もあるものの、それでも話しかけてくる瑠衣華の態度が、徐々に自然になってきている。


『それで、そろそろもう少しコミュニケーションを深めたいと思っています』

『と言うと?』

『ちょっとしたやり取りだけじゃなくて、もう少し色んなことを話す機会を作りたいな、と』

『なるほど。次のステップだね』

『はい。いきなり過去のことをちゃんと話せるかはわかりませんけど……』


 一匠はドキリと心臓が跳ねた。

 過去のこととは、要は自分を振ったことなのだろう。


 それを瑠衣華は、一匠に向かってちゃんと話そうとしている。

 一匠にとっては聞きたい気持ちも大きいが、今さら聞いてどうなるのかという思いもある。


 しかし、‘相談者のRAさん’が望んでいるのであれば、それを応援するのがアドバイザーとしての務めだろう。


 一匠はそう思いながら、キーボードに向かった。

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