第31話:俺はこれからどうしたらいいんだろう
RAさんとの相談チャットを終え、パソコンの電源を落として、一匠はふーっと大きく息を吐く。
「疲れた……」
瑠衣華にどんなアドバイスをするのか、自分で思っていた以上に気を使っていたようだ。
ようやく赤の他人としてのアドバイスを終え、一旦は肩の荷が下りた気がした。
しかし、それにしても──
さっきまでの、赤の他人としての気持ちから、白井一匠としての意識に戻ると、急に気になることがある。
瑠衣華は、今も自分のことが好きなのだという衝撃的事実が発覚した。
そして彼女は、中学の時に一匠を振ったことを謝りたいと思っている。
その事実だけでも、一匠にとっては心の重荷が少し下りた気分だ。
瑠衣華にフラれたことは全然恨みに思っているわけではないし、そんなに悲しんだわけでもない。
しかし瑠衣華が謝りたいと思ってくれていることは意外であり、そしてなんとなく心に引っかかっていたことが取れたような気がする。
そして瑠衣華は、本当は自分を嫌っているわけではないことがわかれば、日々彼女と接する上でのストレスはなくなる。
しかし、だからと言って。
今すぐに、瑠衣華の好意に応えるという気持ちになるわけではない。
今や瑠衣華は学校でも評判の美少女だ。
そんな美少女が今でも自分を好きだと知ったのに、その気持ちに応えられないなんて。
それはもう贅沢過ぎることなのかもしれない。
だけど──と一匠は思う。
まずそもそも、一番大きな疑問が解消されていない。
今でも好きと言うのに、なぜ別れを切り出したのか?
一度は嫌いになって、高校生になってから思い直したのか?
それとも別の理由があるのだろうか?
そして別れたいと思った理由はなんだったのか?
そして、すぐに瑠衣華の気持ちに応えられないもう一つの理由。
──それは理緒の存在。
RAさんは理緒ではなかった。
しかし理緒が自分に好意的に接してくれていることは間違いない。一匠も、理緒のことはとても素敵な人だと思う。
それは一匠にとって、まだ恋という段階ではないことは確かだ。しかし理緒が気になる女性ということも確かだ。
「俺はこれからどうしたらいいんだろうなぁ……」
そんなことをつぶやきながら。
「でもまあ、なるようにしかならないか」
瑠衣華に対しては、さっき自分で決めたように、これからも赤の他人のつもりでアドバイスしてあげよう。
人の良い一匠は、そんなふうに思うのであった。
◆◇◆◇◆
自分に好意的に接してくれている理緒。
今でも自分のことを好きだということが判明した瑠衣華。
その二人に挟まれた席で毎日を過ごすことになる一匠。
「これはいったいなんの因果なんだ……?」
そんなことを思いながら、一匠は登校した。
教室に入ってすぐに席の方向を見ると、理緒はまだ来ていない。
瑠衣華はすでに登校していて、なんだか緊張したように小さく肩をすくめて座席に座っている。
一匠は何気なく瑠衣華の様子を窺いながら、椅子を引いて席に座った。
一匠が椅子を引く音を聞いて、横に座る瑠衣華の肩はぴくっと震えた。しかし顔は固まったように前を向いたままで、横目でチラチラと一匠を見ている。
(赤坂さん、ガチガチだよ。もしかしたら……”素直ザ・チャレンジ”を意識して緊張してるんだろうか?)
そういう一匠も、瑠衣華がどんな態度を取るのかが気になってドキドキする。
瑠衣華が突然一匠の方を向いて、口を開いた。
「あ……ししし白井君、おはおはおはよう……」
「おおおはよう、ああ赤坂さん……」
瑠衣華の盛大などもりに、つい一匠もつられてしまった。
「し、白井君。今日は髪型整ってるね……」
「えっ……? あ、そうかな?」
(キタっ! 些細なことでも素直に褒めてる! がんばってるぞ赤坂さん)
一匠は少しホッとした気分になった。
「うん。いつも3か所は寝ぐせがあるのに、今日は1か所しかない」
(なんだそれーっ!? 些細過ぎるだろっ!)
でも──
いつもは3か所くらい寝ぐせって、瑠衣華はやっぱり自分のことをいつも見ていたのだと気づいた。
「あ、ああ。ありがとう。気をつけるよ」
一匠は髪を手で撫でつけながら礼を言う。
すると瑠衣華はあわわと、少し焦った表情を浮かべた。
「あ、いや……指摘したんじゃなくて、ホントに褒めたつもりで……」
「お、おう。わかってる。ありがとう」
「う、うん……」
あまりにぎくしゃくした、無理やりな誉め言葉ではあるが。
いや、そもそもあれを誉め言葉と呼べるのかという疑問もあるが。
しかしそれでも瑠衣華が昨日のやり取りを踏まえ、”素直ザ・チャレンジ”に挑んでいるのだと思ったら、一匠は少し嬉しく感じた。
こんな感じで前途多難な一日がスタートしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます