第30話:ムリですーっ!
RAさんは、中学の時に別れ話を自分から切り出したことをチャットで告白した。
そして本当は謝りたいけれども、素直に謝る勇気が出ないと言った。
一匠としては、瑠衣華がなぜ自分を振ったのか、その理由が気にはなる。しかし今は、あくまで第三者としてアドバイスをするのだと心に決めている。
その立場からすれば、瑠衣華が自分を振った理由を知ることよりも、彼女が素直に”彼”に気持ちを伝えられるようにするのが自分の役目だと思う。
『なんとか、今みたいな素直な気持ちで、彼と話をできないのかな?』
一匠の投げかけに、RAさんから速攻で返信が来た。
『ムリですーっ!』
(早っ! そんな簡単に諦めるなよ)
一匠は少し呆れたが、少し間を置いてまたRAさんが書き込みをした。
『ムリって決めつけたらダメですよね……ごめんなさい。私って好きな人と麺と向かうと、ついつい天邪鬼になってしまうんです』
──そうなのか、と改めて納得する。
まあ『面と向かう』が『麺と向かう』になってる誤字は、指摘しないでおこう。好きな人と一緒にラーメン屋に行ってるようで、少々微笑ましいではないか。
それに瑠衣華は案外うっかりさんなのだと気づいた。
『だからそんな大事な話どころか、普段のちょっとしたことでも、なかなか素直にお礼を言ったり謝ったりできないんです。どうしたらいいんでしょうか? 何かいい方法はありませんか?』
(素直にお礼を言ったり謝ったりすることができないどころか、よく憎まれ口を叩くよなぁ。好きな人に悪口言うって、赤坂さんって小学生男子かよ?)
──と、ついついツッコミを入れたが、それでも瑠衣華が少しは前向きになってくれたようだと、一匠はホッとする。
瑠衣華が素直に気持ちを話せるようになる方法……
「うーん……いい方法と言われてもなぁ。赤坂さんは、ただでさえコミュ障だもんなぁ……」
一匠の口からは、思わずそんな言葉が漏れた。
そう。
中学の時から、瑠衣華はあまり自分の気持ちを素直に出せるタイプではなかった。
だから、ことはそう簡単ではない。
いきなりは難しいだろう。徐々に慣れていくしかない。
「千里の道も一歩から、だな」
一匠はそう呟きながら、RAさんへのメッセージを打ち込む。
『小さなことでいいから、日々の生活の中で彼にお礼やお詫び、自分の素直な気持ちを伝える練習をしてみようよ。いくつかそういうことを積み重ねたら、きっと徐々に慣れると思う』
『私にできるでしょうか?』
『そう深刻に考えないで、ちょっとゲーム感覚でチャレンジしてみない?』
『ゲーム感覚?』
『そう。毎日些細なことでもいいから、素直にお礼やお詫びや気持ちを彼に言えたら1ポイント。一週間でどれくらいポイントが貯められるかやってみよう!』
『あ、それ……面白そう』
『でしょ?』
瑠衣華はちょっと乗ってきているようだ。
そうやってゲーム感覚でポイントを積み重ねれば、段々と素直に接することに慣れるに違いない。
『わかりました。ちょっと難度の高いお礼やお詫びができたら2ポイントっていうのはどうでしょう?』
おいおいノリノリじゃないか、と一匠は苦笑い。
難度の高いお礼やお詫びってなんだよ? と思うが、せっかく乗り気になっている瑠衣華に水を差すこともあるまい。
『いいね! 難度が高いかどうかは、赤坂さんの感覚で』
──とここまで入力して、一匠は「ヤベっ……」とつぶやいた。送信ボタンを押す前で助かった。
入力をし直して送信ボタンを押す。
『いいね! 難度が高いかどうかは、RAさんの感覚で決めたらいいと思う』
『はい、わかりました!』
一匠は、さらにゲーム感覚を盛り上げるために……と考える。
『そうだ。これを”素直ザ・チャレンジ”と名付けよう! 一週間経ったら、何ポイント貯まったか、また教えてください』
『素直ザ・チャレンジですか。いいですね! わかりましたっ!!』
瑠衣華が、結構前向きに考えてくれたようで、一匠もホッとする。
こういうやり取りをして、この日の相談チャットを終えた。
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