第23話:またこのパターンか……
理緒はソファに座ると、隣の席をポンポンと叩いて、一匠に座るように誘った。
彼女の隣を狙っていた田中の顔は、一気にどよーんとなる。
(またこのパターンか……)
一匠は──激しい頭痛がするような気がして、頭を抱えた。
「田中君、鈴木君。突然お邪魔してごめんなさい。たまたま受付で白井くんに会ったものだから、合流をお願いしちゃいました」
理緒は少し離れた所に座る田中と鈴木に会釈して、清楚な笑顔をニコリと浮かべた。
「あっ、いえ……お邪魔なんてとんでもない。大歓迎だよぉ」
理緒の言葉で、田中は一気にニヘラ笑いになった。
一匠のおかげで理緒がここに来てくれた。隣に座れないくらい、どうってことない。そんな感じの満面の笑顔だ。
「あ、紹介しておきます。1年C組のクラス委員長をしてる佐川さんです。とても優しい良い人なので、田中君も鈴木君も白井君も、仲良くしてあげてくださいね」
「あ、
佐川さんは割と地味な感じだけど、きっちりと頭を下げて、とても礼儀正しい人だった。こぢんまりとした身体つきが可愛い人だ。
「あ、田中です。よろしくぅ」
「あ、鈴木です」
一匠はクラス委員長会議で面識があるので会釈のみ。
理緒が気を使って佐川さんを紹介してくれたおかげで、一瞬緊張が走ったように思われた空気が少し和んだ。
そこからは女子も交えたおかげで、割と華やかな感じのカラオケになった。佐川さんが田中や鈴木と会話をしてくれるおかげで、楽しい雰囲気になっている。
「白井くんってカラオケとか来るんですね。意外です」
「あ、いや。それを言うなら青島さんの方こそ、俺には意外だよ」
「そうですか? 歌うの、割と好きですよ」
隣に座る理緒が割と距離感近くに寄って、楽しそうに話しかけてくる。それには一匠も少し戸惑う。
もちろん優しい理緒のことだから、ちゃんと周りにも気を配ってはいる。田中や鈴木にも話しかけるし、一匠にベタベタとくっつくわけではない。
けれども他の人に対するよりも、明らかに一匠と仲良さげに見える態度だ。
少なくとも──田中と鈴木にはそう見えるだろう。
(後でまた田中や鈴木になんと言われるか……)
一匠には2人の目が気になって仕方がない。
特に理緒ファンの田中が、時折チラチラと嫉妬の視線を投げかけてくる。
(それにしても……なぜ青島さんは、俺なんかにこんな親しげにしてくれるんだろう?)
きっとクラス委員同士で話しやすいのだろう、ということくらいは一匠にも想像がつく。けれどもクラスでも委員会活動でも、理緒はそんなに男子と親しげにしているわけではない。
もちろん超人気女子の理緒が親しげにしてくれるのは、一匠にとっても嬉しい。
しかし──
(特に田中は青島さんのファンだからなぁ……)
理緒の真意はわからないし、他の男子の目も気になる。だから一匠は、どう振る舞ったらいいのか戸惑うばかりだ。
前では田中が歌っている。それに合わせて佐川さんが、ニコニコしながら手拍子を打つ。
女の子から応援されるようなそんな姿がよっぽど嬉しいのか、田中もいつの間にやら満面の笑みになっている。ホント楽しそうだ。
その笑顔に釣られてか、鈴木も楽しそうに田中が歌う姿を見ている。
「皆さん楽しそうで良かったです」
いきなり耳元で理緒の声が聞こえて、そちらを向いた一匠は、思わず「おわっ!」と声を上げた。
知らない間に、理緒がすぐ近くに寄っていた。そして理緒の顔がすぐ目の前にあって驚いた。彼女は上半身を一匠の方に傾けている。
「あ、ごめんなさい。近寄り過ぎちゃいましたね」
理緒は申し訳なさそうに眉尻を下げて、上半身を起こした。その美しい顔がさっきまで目と鼻の先にあったと思うと、一匠は心臓の鼓動が高まるのを止められなかった。
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