第24話:近寄り過ぎちゃいましたね
知らない間に、理緒がすぐ近くに寄っていた。彼女は上半身を一匠の方に傾けている。
「あ、ごめんなさい。近寄り過ぎちゃいましたね」
理緒は申し訳なさそうに眉尻を下げて、上半身を起こした。その美しい顔がさっきまで目と鼻の先にあったと思うと、一匠は心臓の鼓動が高まるのを止められない。
──理緒は真面目で清楚に見えるが、実は小悪魔なのか?
そんな疑問が一匠の頭に浮かぶ。
「あ、いや……俺こそごめん。変な声を出しちゃって」
「いえいえ。私の方が悪かったんです。今後は気をつけますね」
「あ、いや、ホントに。そんなじゃないから。気をつけるとか言わなくても大丈夫だよ」
「そうですか。ありがとうございます」
理緒はホッとしたような表情を浮かべる。しかしすぐに、なぜか悪戯っ子のような顔になる。
「じゃあまた機会があったら、近づいてもいいということですね」
「えっ……? あ、いや、それは……」
こんなに美人の理緒が近くに寄るなんて、もちろん嬉しいしウェルカムだ。だけど……
(さすがに本気で言ってるとは思えない。青島さんは、俺をからかってるのかな?)
そうとしか思えない。
だから一匠はなんと答えたらいいかわからず、
そんな一匠を見て、理緒はニコリと笑う。
「冗談ですよ、白井くん」
(あっ、やっぱりからかわれてたー)
「青島さんって……そんな冗談を言うんだね?」
「はい、言いますよ。意外ですか?」
「ああ、意外だ」
「そうですか」
理緒は何か含みを持つように「ふふふ」と笑った。
それは決して嫌味な感じでも小悪魔的な感じでもなくて、ホントに楽しそうな感じ。一匠との会話を楽しんでいるような雰囲気だ。
カラオケと言い、そんな冗談と言い──
(今日は青島さんの意外な一面をたくさん見る日だな)
しかしもちろんそれは、一匠にとって嫌なことではない。
例え冗談だとしても、『また近づいてもいいですね』なんて、ある程度の好意がないと言わないはずだ。それが異性としての好意かどうかは別として。
そして理緒の新たな一面を見れて、高嶺の花だと思っていた理緒が少し身近に感じた。
そんなことを思いながら理緒の顔を見ていると、もしかしたら、やっぱり相談者は理緒ではないのかという気持ちがふつふつと湧いてくる。
だけど──
いやいやそんなはずはない。
いや、でもやっぱ青島さんの可能性もあるのでは?
でもそれはないよなぁ……
そんなふうに、心の中で何度も肯定しては何度も打ち消す一匠であった。
「じゃあそろそろ僕らはお先に……」
先にルームに入っていた男子三人は、理緒達を残して先に帰ることになった。田中も鈴木も次の予定があると言うから仕方がない。
一匠は特に用事はなかったけれども、女子2人と自分だけなんてあまりに居心地が悪い。だから田中達と一緒のタイミングで帰ることにした。
カラオケ店を出て駅に向かう三人。田中が一匠に向かって話しかけた。
「白井に騙されたよぉ」
「何がだよ? 俺は何も騙してなんかいないだろ」
「いやいや。白井は姫様とも可憐ちゃんとも、そんなには仲良くないっていってたくせにぃ。部屋に来てくれるほどの仲だったんだなぁ」
「あ、いや。あれはたまたまドリンクコーナーで会ったからだって」
「それでもわざわざ部屋に来てくれるなんて、仲良くなければしないよぉ」
「そうかなぁ……?」
(そんなことはないと思うけど……)
「そうですよ白井君。まさか彼女いない歴イコール年齢ってのも、嘘じゃないでしょうね?」
鈴木までもがそんなことを言ってくる。
メガネの奥のキラリと光る視線が、厳しくてちょっと怖い。
「う、嘘じゃないよ」
(嘘だけど……)
──田中と鈴木に責められてるっ!
と、一瞬背中に冷や汗が流れた一匠だったが、突然二人ともニンマリと表情を変えた。
「でもさ、白井ぃ。今日はありがとぉー お前のおかげで姫様と可憐ちゃん、2人の美少女に会えたよぉ」
「そうですね、ありがとう白井君」
「あ、いや、別に礼を言われるようなことはしてないし」
「いやいや鈴木なんて、高木さんと仲良くなれたしなぁ。いいなぁ」
「いや、田中君だって、佐川さんと仲良く話してたでしよ」
「えへへ、まあな」
二人ともニコニコして楽しそうだ。
一匠はホッとして、二人の顔を眺めた。
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【読者の皆様へ】
あえて、テンプレラブコメじゃない恋愛短編を書きました。
だからタイトルも短いです(笑)
よろしければぜひお読みくださいませ。
『仕返しをしに来た』
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