第18話:白井は、姫様と可憐ちゃんのどっちのファンなんだぁ?

「ところで白井は、姫様と可憐ちゃんのどっちのファンなんだぁ?」


 ──なんなんだ、それは?


 いきなり田中がわけのわからないことを言い出した。


「姫様と可憐ちゃん? なにそれ?」

「なんだ白井。お前、知らないのかぁ?」

「ああ知らない」

「そっかぁ。じゃあ教えてやろう。清楚な青島さんが姫様で、可憐な赤坂さんが可憐ちゃんだぁ!」

「はっ? なんのこと?」


 田中はなぜか、ものすごいドヤ顔だ。しかし一匠にはなんのことかよくわからない。


「いや、だから白井ぃ。物わかりの悪いヤツだなぁ。俺たち青島さんと赤坂さんのファングループが、彼女達に付けてるあだ名だよぉ」

「あっ、そう」


 馬鹿らしくて、一匠にはそれしか答えようがなかった。


(まあ青島さんの姫様はわかる。だけど赤坂さんが可憐ちゃんだと?)


 元の瑠衣華のオタクっぷりを知っているだけに一匠には違和感があるが、でも確かに今の姿は可憐な女の子だ。


 まあそれはいいにしても、ファングループってなんなんだよと新たな疑問が生まれる。

 動きが固まっている一匠に向かって、今度は鈴木が説明を始めた。


「あのね白井君。僕たちファングループは、姫様派と可憐ちゃん派が、今は5人対5人で拮抗してるのですよ。だから白井君がどっち派なのかで、勢力に差が出るってわけ」

「はっ?」


 なぜか知らぬ間に一匠もファングループの一員になってるみたいで、意味がわからない。


「あの……俺はそんなファングループに入った覚えはないけど」

「いや、遠慮しなくていいんだよぉ、白井ぃ」

「遠慮なんてしてないし!」


 一匠が田中の言葉を速攻否定したのに、横から鈴木も被せてくる。


「白井君はさ、僕らとおんなじ臭いがするんですよね」

「どんな臭いだよ?」

「コミュニケーション苦手臭。だから白井君も、彼女いない歴イコール年齢でしょ?」


(いや、決めつけるな。俺は一応彼女がいたことがあるぞ……たった1ヶ月間だけど)


 だが鈴木があまりに真面目な顔でそう言うものだから、一匠は違うとは言い出せない。


「お、おう。そ、そうだな」

「ほらやっぱり!」

「おお、やっぱりなぁ!」


 鈴木も田中も、我が意を得たりと嬉しそうに笑う。

 なにが、やっぱりなんだよ。

 そんなに嬉しそうにされても一匠は困るしかない。


(でも俺はそう見られてるってことだよな。まあ仕方ないか)


「だからせめて僕らと一緒に、可愛い女の子のファンになりましょうよ。ぜひ可憐ちゃん派に!」


 鈴木が瑠衣華ファンだと明かす。すると横から田中が顔を左右にプルプルと振った。


「いやいやいや、白井ぃ! やっぱ姫様の方がいいよなぁ!」


 田中は理緒派らしい。


「いや待て、お前ら。なんだか自分が推してる女の子のファンに、俺を引き込もうとしてる気がするんだが……?」

「「ああ、そうだよ」」


 それが何か?──的な感じに二人が声を合わせた。


「なんで? 自分が好きな子のファンが増えたら、ライバルが増えるから、困るんじゃないか?」

「ライバル……?」

「困るぅ……? なんで?」


(あれ? 俺、何かおかしなこと言ったか?)


 田中も鈴木もきょとんとしている。


「いや、あのさ。同じ女の子を好きな男子が増えたら、自分の恋が叶う確率が下がるだろ?」


 一匠の言葉を聞いて、二人は揃って肩をすくめる。何を言いたいのだろうか。

 疑問に思っていると、突然田中が胸を張って口を開いた。


「白井ぃ、よく聞けよぉ。俺たちモテない男子が、あんなに可愛い女子と付き合える確率はどっちにしたってゼロだっ!!」


 なんという清々すがすがしい敗北宣言なのか。田中の顔は、すべてを超越したような清々しさだ。


 でもまあ、一匠にもわからないでもない。

 高嶺の花である理緒は言わずもがな。

 瑠衣華にしたって、あんなに美少女になった今は、一匠がお付き合いできるような相手ではないと思える。


「だったらお前ら、なんでわざわざ俺を連れ出してまで、あの二人に彼氏がいるかとか訊くんだ? 初めから恋が叶うのを諦めてるんなら、彼氏がいても関係ないじゃないか?」

「チッチッチッ、白井君、それは違います!」


 鈴木が人差し指を立てて、左右に揺らしている。黒縁メガネの奥できらりんと光る眼がちょっと怖い。


「ドルオタだって同じでしょ? アイドルと付き合えるなんて思ってないけど、でも推しのアイドルに彼氏がいるなんてわかったら、自殺するくらい悲しいんですよ」


「そ、それは……まあ確かに」


 理解はできる。理解はできるが……

 なるほどなんて共感はできない。


「で、白井君はどっちがいいの?」

「あ、いや……」


 どっちがいいなんて、一匠には選べるはずもない。


 確かに理緒は清楚で優しくて美人。性格も良くて、ケチのつけどころのない女の子。

 瑠衣華は元のオタクっぽさもまあまあ好きだったし、今の可愛い感じも嫌いではない。


 瑠衣華が自分を嫌ってるであろうことはわかっているが、それでも彼女を嫌いにはなれないのだ。


 どう答えたらいいのか戸惑っていたら、やたら喉が渇いた。一匠は手にしたグラスのコーラを一気に飲み干した。


「ちょっとドリンクを入れてくるよ!」

「えっ? 待てよ白井ぃ~」

「先に歌ってくれてていいよ!」


 一匠はそう言い残して、逃げるようにルームから飛び出した。


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【読者の皆様へ】


2話続けて男子しか出てこないという、ラブコメにあるまじき展開で誠に申し訳ありませんm(__)m

次話ではばっちりヒロインが出て来ますので、乞うご期待ください!!


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こひみっさん(@kohimiru)さまより、コメント付きレビューいただきました!

感謝です。(人''▽`)ありがとう☆

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