第17話:青島さんと赤坂さんって、彼氏いるのかぁ?

「青島さんと赤坂さんって、彼氏いるのかぁ?」


 フリードリンクを持ってカラオケルームに入ったら、田中が一匠にそんな質問をした。


「はっ? なんで?」


 田中は、あの恋愛相談サイトのことを何か知っているのだろうか? それとも一匠が中学時代に赤坂瑠衣華と付き合っていたことを知っているとか?


 一匠は田中の質問の意図がわからずに、思わず背筋がぶるっと震えた。気持ちを落ち着かせるために、手にしたコーラに口を付ける。


「いや、お前。青島さんとはクラス委員長と副委員長だしぃ、赤坂さんとは同じ中学だろ?」

「ああ。そうだけど、だからなんで?」


 田中が説明してくれた。


 それによると今クラスの男子の間では、青島さん人気と赤坂さん人気がかなり盛り上がってるらしい。


 僕は青島さん派、俺は赤坂さん派。

 そんな風に多くの男子が言い合ってるそうだ。

 ──ふーん、としか言えない話だ。


 とは言え別に派閥争いをしているわけでもなく、アイドルグループの推しを競うような感じ。


 そんな彼らの間で今一番話題になっているのが、青島さんと赤坂さんに彼氏や好きな男性がいるのかということだそうだ。


 しかしいずれの派閥も、直接彼女達にアプローチする勇気を持つものはいない。だから二人のことを知っていそうな一匠に白羽の矢が立ったということらしい。


「で、田中と鈴木が代表して、俺に訊きにきたと?」

「「そういうこと!」」


 二人がハモって、ニヤリと笑った。

 そんなに得意げに言われても……と一匠は苦笑いするしかない。

 でもまあ、恋愛相談サイトも中学時代のこともまったく関係ないようでホッとする。


「ん~ 悪いけど、俺にはわからないなぁ」

「しらばっくるな白井ぃ。お前はあの2人と席も隣だし、仲良くしてるんだろ?」

「まあ青島さんとは色々話すけど、委員会関係のことばかりだし……」


 この前2人きりでカフェに行ったなんて知られたら殺されそうだ。


「赤坂さんとは中学は同じだけど、顔見知り程度だし……」


 こちらも、過去に付き合ってたと知られたら殺されそうだ。


「そうなのか? 赤坂さんとは隣の席で、ちょこちょこ会話してるように思ったけど」

「いや、いつもひと言ふた言話す程度だぞ」


 たぶん瑠衣華が時々一匠に憎まれ口を叩いて、一匠が少し言い返しているのを見て、田中はそう言ってるのだろう。


「でもまあ、少なくとも彼氏がいるという話は、二人とも聞いたことはないな」

「「なるほどなるほど!」」


 一匠のその言葉を聞いて、田中も鈴木もちょっと嬉しそうに目を輝かせた。


「で、好きな人はいるのかぁ?」

「いや、それはホントにわからない」


 そう。恋愛相談をして来ているのがもしも理緒か瑠衣華のどちらかならば、その人には好きな男性がいることになる。しかしそれが誰なのかは、一匠にもわからないのだ。


 もしかしたら自分かもしれないだなんていう驕った考えは、頭の奥に封じ込める。


 一匠の返事を聞いて、ヌボーとした風体の田中が少し真面目な顔で訊いてくる。


「そうかぁ。でも少なくとも白井は、青島さんも赤坂さんも、好きな人がいるって話は聞いたことがないってことだよなぁ?」

「ああ、それはそうだな」


 一匠の言葉に、二人はニンマリと微笑んだ。


「なるほど。それだけわかれば、今の俺たちにとっては充分だぁ。ありがとぉ白井!」


 田中が握手を求めてきたから、一匠は手を握り返した。鈴木も労をねぎらうように、一匠の肩をポンポンと叩く。


「ねぇ白井君……」


 と、今度は小柄でオタクっぽい鈴木が、真面目な表情で聞いてくる。


「赤坂さんって、中学の時は付き合ってる男はいたのですか?」


 ──あ、それは俺。


 と心の中で答えたけど、突然の質問に心臓が口から飛び出すかと思うほど驚いた。しかしもちろん口では違うことを、冷静なフリをして答える。


「いや……いなかったと思うぞ」

「へぇ、そうなのですか。あんなに可愛い子だから、やっぱり男を選ぶ基準が高いのかな?」


(いや、そうでもない。中学の時は冴えないオタク女子だったし、選んだ男は俺だったんだし)


「そ……そうかもしれないな」


 一匠はそう答えながら、同じ中学からこの高校に進学したのが、瑠衣華と自分だけで良かったと胸を撫で下ろした。


「ところで白井は、姫様と可憐ちゃんのどっちのファンなんだぁ?」


 ──なんなんだ、それは?


 いきなり田中がわけのわからないことを言い出した。

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