第16話:彼に「可愛い」って言われちゃいましたー!
『あのですね。彼に「可愛い」って言われました!』
そんなことをRAさんがメッセージで教えてくれた。
一匠は今日、理緒にも瑠衣華にも可愛いと言ったことを思い出して、ドクドクと鼓動が高まる。
(もしや……RAさんは、やっぱり青島さんか赤坂さんのどちらかなのか……? そしてその好きな相手って……まさかまさか俺?)
そんな思いが一匠の頭の中にぐるぐると渦巻いた。
「いやいや、まさか……」
否定しようとするものの、偶然と言うにはあまりにもドンピシャな出来事に否定しきれない。
しかし動揺を抑えて、返事を書き込む。
『へぇー! 良かったね。想いが伝わった……のかな?』
『いえ、それはわかりません。単なるお世辞かもしれませんし……』
『そうかなぁ』
『でもいいんです。それでもめちゃくちゃ嬉しかったのは確かだし』
RAさんの文章からは、幸せな気分が伝わってくる。
『うん、そうだね。こういうことを積み重ねていけたらいいね』
『はい。ありがとうございます』
『コミュニケーションを重ねたら、きっと想いが伝わると思う』
『はい。そう信じてがんばります!』
前向きなRAさん。
これが誰なのかはわからないけど、とにかく前向きな気持ちになってくれて良かった。
やはり自分のアドバイスで相手が元気になってくれると、無性に嬉しい。
『あ、お母さんに呼ばれちゃいました。今日はもう落ちます。ではまた』
『はい。ではまた』
一匠は、もう動かないチャット画面をしばらく眺めていた。
RAさんが誰だとしても──
これからも、彼女が頑張れるように、ということだけを考えてアドバイスすることにしよう。
一匠はそう心に決めた。
◆◇◆◇◆
ある金曜日の放課後。
ホームルームが終わり、みんながバラバラと教室を出ようとする時間。
わいわいと騒がしい教室内からは、「明日は学校休みだし、今日は帰りにカラオケでも行かない?」なんて声が聞こえてくる。
一匠は高校に進学してから3ヶ月、まだそういうのに誘われたことはない。
特に拒否しているわけではない。けれども放課後や休みの日に、一緒に出かけるほど親しい友達はまだいないのだ。
だから周りから聞こえてくるそんな声にも、自分には関係がないものだという意識しかない。
一匠は帰り支度を整えて鞄を肩にかけた。
「なあ白井ぃ。カラオケ行かないかぁ?」
突然同じクラスの男子二人組が声をかけてきた。田中と鈴木。あまり目立たないタイプの平凡男子二人だ。
田中は結構身長が高くて、ヌボーっとした感じ。鈴木は小柄で黒縁メガネの、ちょっとオタクっぽい男子。
一匠はこの二人と特に親しいわけではない。だから一瞬なぜ自分を誘ってくれたのか疑問に思ったけど、「オッケー」と答えた。
一匠は別にクラスメイトとのコミュニケーションを拒否しているわけではない。自分から働きかけるのが苦手なだけ。
せっかく誘ってくれているのだから、この機会にコミュニケーションを図ろうと考えた。
三人で駅前のカラオケルームに行き、フリードリンクを持ってルーム内に入った。しかし二人とも席に着いたまま歌い始める気配はない。
どうしたんだろうと一匠が思っていたら、田中が「なあ白井、ちょっと聞きたいんだけど……」と口を開いた。
「青島さんと赤坂さんって、彼氏いるのかぁ?」
「はっ? なんで?」
田中は、あの恋愛相談サイトのことを何か知っているのだろうか? それとも一匠が中学時代に赤坂瑠衣華と付き合っていたことを知っているとか?
一匠は田中の質問の意図がわからずに、思わず背筋がぶるっと震えた。
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