第15話:ほら、だから言わんこっちゃない
一匠は思わず瑠衣華に向かって「可愛いと思う」なんていう言葉を漏らしてしまった。
「ふぇっ!? か、か、か、かわ……」
瑠衣華は目を丸くして、さらにあたふたし始める。
(ん? なにをキョどってるんだコイツ? そう言えば前に学校でも、カッカッカッとか言ってたし。口癖か?)
疑問に思う一匠だが、それよりも、急にメガネを外して大丈夫なのかと心配にもなる。
「ところでメガネを外して大丈夫なのか? 今はコンタクトをしてないんだろ?」
「だ、大丈夫! そんなの大丈夫だから……あっ!!」
瑠衣華はそう言うそばからアスファルトの凸凹につまづいて、ズッコケかけた。
クロールするように両手を大きく回している瑠衣華。
危うく転倒するところだったが、一匠が冷静に、瑠衣華の腕をがっしとつかむ。おかげで倒れることは回避できた。
「ほら、だから言わんこっちゃない」
コケずにホッとした顔を見せた瑠衣華だったが、腕を一匠に握られていることに気づいた。さっと表情がこわばり、そして腕を引く。
一匠の手から、するりと瑠衣華の腕が抜ける。
(あ、しまった。赤坂さんは俺を嫌ってるだろうに、ついつい腕をつかんでしまった。でも倒れそうだったんだから、仕方ないよな)
ぽかんと口を開けた一匠の顔を見て、瑠衣華は慌てふためく。
瑠衣華は顔が真っ赤だ。
「あ……いや……あの……」
「いや、気にすんな。誰だって急に腕をつかまれたら焦るだろ。普通のリアクションだ」
「う、うん……」
そこからぎごちない変な空気になってしまった。お互いに黙ったまま、しばらく歩き続けた。
5分ほど歩くと、一匠と瑠衣華が分かれる道角まで来た。
瑠衣華は立ち止まり、なぜか一匠の顔をボーッと見ている。まだ何か話したいことがあるのか?
「あ、あのさ……し、白井君は……あ、いや、男の子って、やっぱり見た目が可愛い女の子が好きなんでしょ?」
「はっ?」
(いきなりなんだ?)
突然何を言い出すのかと思ったが、男なら誰でもそうだよなぁと一匠は考えた。
「まあ、そうだな」
「ふぅーん……」
「なんだよ?」
「やっぱり変わらないね白井君は」
「何が?」
「何がって……別に」
瑠衣華は口を尖らせて、なんだか少し怒ってる感じ。
しかし瑠衣華はそんな態度を見せながらも、両手で髪を撫でつけ、タンクトップの裾を引っ張って伸ばしてる。
(何を言いたいんだ? 変わらないってなんだろう? なんか俺、以前に何かしたかな? あ……それとも私、可愛くなったでしょって自慢したいのかな?)
一匠が瑠衣華の髪型と服をじっと眺めていたら、彼女は急にまた頬を赤らめて、あたふたし始めた。
「じゃあね」
「えっ……?」
瑠衣華は急にプイと横を向き、そのままスタスタと家の方に向かって歩いて行く。
(やっぱり女心はわからない)
肩をすくめて首を捻る一匠。
その耳には、瑠衣華が早足で歩きながら、ぶつぶつとつぶやく声などもちろん届いていなかった。
「助けてくれたのにお礼も言えなかったし、最後はなんて言えばいいのかわからなくて、ツンツンしちゃったし、あーあ。また嫌われるような態度を取っちゃったな……」
瑠衣華はしょぼんとした表情を浮かべていた。
◆◇◆◇◆
一匠は帰宅し、夕食を終え、風呂に入った。自室で宿題も済ませて、恋愛相談サイトを開く。
画面を見ると、RAさんからメッセージが届いていた。
『えんじぇるさん、こんばんは』
ついさっき書き込まれたようだ。
『こんばんは』
一匠が返事を書いてしばらくすると、RAさんから返信が来た。
『実は今日、色々ありまして。』
『なに? いいことあったの?』
一匠が書き込んだあと、しばらく間があった。
(どうしたんだろ? トイレでも行ってるのかな?)
しかしトイレにしては短い時間、単に書き込んでるにしては長い時間が経って、文字が現れた。
もしかしたらRAさんは少し何かを考えていたのかもしれない。
『はい、いいことありました!』
『へぇ! 良かったね!! どんなことがあったの?』
『なんだと思いますか?』
『えーっと……なんだろ? 想い人から何かプレゼントを貰ったとか?』
『ブッブー! 違います』
いつものRAさんの文章は丁寧で控えめな感じだけど、今日は少しテンションが高く感じる。
よっぽどいいことがあったのだろうと一匠は思うが、内容に関してはまったく想像がつかない。
『あのですね。彼に「可愛い」って言われたのです!』
『へぇーっ! それは良かったね!』
(そうか。RAさんは、なんだか上手くいってるみたいだ。進展してるじゃないか)
一匠はホッとすると同時に、ほのぼのとした感情が湧き上がるのを感じた。
しかし、それからあることに気づく──
(えええ!? なんだって!? 彼に可愛いって言われた?)
一匠はRAさんの発言の重大さに、今更ながらに気づいた。
そう言えば……と、一匠は今日、理緒に可愛いと言ったことを思い出した。いや、それだけじゃない。瑠衣華にも言った。
一匠の心臓は、ドクドクと鼓動が高くなる。
ここまでドンピシャな出来事が続くなんて──
(もしや……RAさんは、やっぱり青島さんか赤坂さんのどちらかなのか……? そしてその好きな相手って……まさかまさか俺?)
そんな思いが一匠の頭の中にぐるぐると渦巻いた。
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