第12話:白井くんって正直ですね。えっ? そ、そうかなぁ。

「白井くんって正直ですね」

「えっ? そ、そうかなぁ」

「はい。見栄を張るとか全然なくて、いいと思います」


(あれ? 褒められた? もしかして青島さんの中で自分の好感度が上がってる?)


 あの超絶人気女子の青島理緒が、何故か自分を褒めている。一匠はそんな思わぬ展開に戸惑った。


 そう思いかけたけど、他人を決して悪く言わないのが理緒の性格なのだと思い直す。


(いかんいかん。思わず勘違い男になりかけたよ)


 だけども理緒に褒められるのは嬉しい。それは素直な気持ちだ。だから素直に答えようと一匠は思った。


「ありがとう青島さん。嬉しいよ」

「白井くんって……」

「えっ? なに?」

「あ、いえ。なんでもありません」


 理緒は少し目を伏せて、意味ありげにフフフと笑う。嫌味な笑いではなくて、少し照れたような、そして楽しそうな笑い。


 理緒の意図は計りかねたが、さりとて真意をストレートに聞き出すほど一匠は会話術に長けていない。

 だから気にしないフリをして、別の話題を振った。クラス担任の山本先生は、カツラなのかどうかと言う話題。


 極めてどうでもいい話題だ。ブラジルの明日の天気と同じくらいどうでもいい。そうは思ったのだが、一匠には他に話題が思い浮かばなかったから仕方がない。


 しかし──

 理緒はそんな話にも、とても楽しそうに付き合ってくれる。


 女性慣れしていない一匠が女子と二人きりでカフェに行って、話が弾むなんて普通はあり得ない。

 だけど理緒の楽しそうなリアクションと聞き上手なところが、とても楽しい雰囲気の会話を生み出している。


 一匠は改めて理緒の凄さと魅力を感じて、カフェでの時間を過ごした。




 あっという間に一時間が経ち、楽しい時間は終わりを告げる。カフェを出て目の前の駅から、それぞれ別の電車に乗って帰路に着いた。



◆◇◆◇◆


 自宅の最寄り駅で電車を降りて、そこから10分も歩けば一匠の家がある。駅前のコンビニの前を通り過ぎる時に、一匠は何気なく店の出入り口に目を向けた。


 その時ちょうどコンビニの自動ドアから、分厚い眼鏡をかけた小柄な女の子が出てきた。


 縮んで少し短くなった白いタンクトップに、少し色褪せた水色のショートパンツ。まったくおしゃれとは言い難いダサダサな服装だ。


 しかしその子はそんな服装を気にするでもなく、手にしたビニール袋を大きく前後に振って歩いている。ふんふんふんと、鼻歌まで歌ってる。


「る……瑠衣華!?」


 一匠は思わず声を上げた。


 中学時代のような格好の瑠衣華が目の前にいる。だから普段は赤坂さんとしか呼ばないのに、つい下の名前が口から出た。


 以前の彼女は、私服も制服も極めてダサかった。しかも一度、用事があって突然瑠衣華の家に訪ねて行ったときに、家から出てきたのがこんな部屋着の瑠衣華だったのだ。


 驚いて一匠に目を向けた少女は、突然のことにぎくりと驚いた。そして一匠の呼び方につられたのか、瑠衣華も「いっしょー君!?」と下の名前で呼んだ。


 ハッとした顔になった瑠衣華は、慌てて自分の地味なカッコに目を向ける。それから一匠の制服姿を上から下まで視線を走らせて、言い直した。


「あ……し、白井君。い、いま帰り?」


 改めて名字で呼ぶ瑠衣華の態度は、どことなくぎごちないものになっていた。

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