第11話:遅くなっちゃいましたね。そうだね。

◆◇◆◇◆


 ある日の放課後、学年のクラス委員長会議があった。

 各クラスの委員長と副委員長が集まり、行事計画なんかの打ち合わせを行う、月に一回の会議だ。


 一匠は理緒と一緒にそれに参加して、終了した頃にはもう17時になっていた。


「遅くなっちゃいましたね」

「そうだね」


 一匠は理緒と一緒に、学校の最寄駅に向かって歩いていた。


「予定よりも1時間も長引きましたからね。議論が白熱しましたね」


 理緒は文句を言う感じでもなく、ニコニコとなんだか楽しげに話す。別に嬉しい話ではないのに。

 この人は不満を持つということがないのだろうかと一匠は理緒の顔を見る。


「おかげで喉がカラカラだよ」

「あれ? 白井くんは、そんなにたくさん発言してましたっけ?」

「あ、いや。ほとんど喋ってないけどね」


 一匠が頭を掻くと、理緒は片手を口に当てて楽しそうにクスクスと笑った。


 ──そんなに面白いことを言ったっけ?

 と疑問に思うものの、楽しい雰囲気であることはいいことだ。


「じゃあ白井くん。あそこで喉を潤してから帰りますか?」

「え? マジ?」


 理緒の白い指が差す先には、お洒落なカフェチェーン店があった。


 一匠は今まで友達同士でハンバーガー店には行ったことがあるが、カフェなんて行ったことはない。


 しかも女の子と二人きりで行くなんて、考えたこともない。なおかつ相手は、あの高嶺の花子さんなのだ。


「うん、行こうか」


 心の中ではビビってるくせに、なぜか素直な言葉が口から出た。


 せっかく高校生になったんだから、そんな経験もしてみたい。

 だけど女の子とカフェに行くなんて貴重な体験は、もしかしたらもう二度とチャンスはないかもしれない。


 ちょっと情けない話なのだけれども、そんなことが一匠の頭をよぎったのだった。


(しかもお相手は超人気女子の青島さんだ。ここで断わる男子なんてチキン中のチキン。まさにヒヨコじゃないか)


 ──なんて訳のわからないことまで考える。



 カフェに入って、何を注文したらいいのかよくわからない一匠は、無難にアイスコーヒーを頼んだ。なぜか理緒もアイスコーヒー。

 しかもミルクもガムシロも要らないと言う。理緒はブラック派のようだ。性格はホワイトなのに。


 ──と、また訳のわからないことまで考える。


 向かい合ってテーブル席に着いて、一匠が理緒に尋ねた。


「コーヒー……なんだね」

「おかしいですか?」

「いや、おかしくはないけど……なんとなく女の子って、カフェラテとかなんとかペチーノとか。甘いものを飲むのかと思って……」

「あ、そうですね。私って、全然可愛くないですね。えへへ」


 理緒は小さな舌をペロっと出した。


 こんなに可愛い顔と仕草で『全然可愛くないですね』などと言う生き物を、一匠は生まれて初めて見た気がする。


「いやいや、そんなことないよ。やっぱり青島さんは可愛いし」


 目の前の理緒があまりに可愛くて、思わずそんな言葉が口から出た。女の子に向かって可愛いなんて、恥ずかしくて言ったことがないのに。


「あら、ありがとうございます。私、コーヒーが大好きなんですよ。家ではコーヒー専門店で買った豆を挽いて飲んでます」


 なんと。高一にしてそんな大人っぽい趣味があったなんて。


(いや、大人っぽい美人の青島さんなら、まったくもって納得だな)


 思わず一匠は納得顔でうなずいた。


「白井くんもコーヒーは好きなのですか?」

「いや、俺は……」


 他のメニューがよくわからないからコーヒーにしたなんて、情けなさ過ぎる。

 そうは思ったものの、変にカッコつけても仕方がないと一匠は思った。


「正直に言って、コーヒーは苦くてちょっと苦手かな。だけどこんな店に入るのは初めてだし、コーヒーか紅茶くらいしかわかるメニューがなかったから」


 理緒は頭を掻く一匠を見て、クスリと笑う。


(あ、子供だってバカにされたかな?)


 しかし理緒の表情はバカにするような感じは一切なく、ほのぼのとしたものだった。


「白井くんって正直ですね」

「えっ? そ、そうかなぁ」

「はい。見栄を張るとか全然なくて、いいと思います」


(あれ? 褒められた? もしかして青島さんの中で俺の好感度が上がってる?)


 あの超絶人気女子の青島理緒が、何故か自分を褒めている。一匠はそんな思わぬ展開に戸惑った。




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鶺鴒 優雨凛 様(@8789)より、コメント入りレビューをいただきました。

大感謝です。ありがとうございます!

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