第7話:お弁当……一緒に食べます?
教師に頼まれた書類を取りに行って、教室に戻ってきた時。
「お弁当……一緒に食べます?」
──あわわ。いくらなんでもそれはまずい!
一匠の頭に浮かんだのはそれだった。
クラス中の憧れの
その彼女と二人で弁当を食べるなんて。
平凡男子の自分には許されざる行為であろう。
(間違いなくクラス中の男子から恨みを買うよな?)
そう思って身の危険を感じた一匠は、教室内をさらっと見回した。するとすぐ近くの席で、数人で弁当を食べていた
なぜか瑠衣華はこわばった顔で一匠を睨んでいる。
『あんたみたいな冴えない男が、超人気女子と二人でお弁当を食べるなんて100年早いわっ!』
不機嫌そうな瑠衣華の目が、そう言っているように思えた。そしてその時、理緒の友達の声が聞こえてきた。
「理緒っ! 早く早く!」
普段から理緒と一緒に弁当を食べている女子達が、理緒に向かって手招きしている。ほとんど弁当は食べ終わっているが、一緒に食べようと呼んでいるようだ。
理緒は眉尻を下げて一匠の顔を見る。
そして「うーむ、困りましたね……」なんて可愛い声を出す。
「青島さん。あっちに行きなよ」
「でも……」
一緒に食べようと一度口にしたのに、今さら一匠に悪い。そんなふうに理緒が気を遣っているのが明らかだ。そう思った一匠は、笑顔で理緒に言う。
「俺のことは気にしなくていいよ。友達を大切にしましょうね、青島さん」
「ありがとうございます。白井くんってやっぱり優しいですね」
ふわりとした笑顔を見せた理緒は、くるりと身体を翻して友達のところに向かう。スカートがふわりと渦巻くように揺れた。
──いや、青島さんこそ優しいよ。
心の中で、理緒の背中にそう返した一匠だった。
(とっても美人なのにこの優しさ。こりゃ多くの男が惚れるわ)
そして自分の席に座り、弁当箱を広げたところで、突然瑠衣華の素っ頓狂な声が耳に届いた。
「あっ、忘れてた!」
一匠が顔を上げると、周りの友達が「どうしたの?」と訊いている。
「昼休みに部室の掃除と片付けをしなきゃいけないんだった……」
「瑠衣華の部活って文芸部だったっけ?」
「うん、そう」
「えーっ? 瑠衣華って文芸部なの? あんなのオタクが入る部活じゃん」
瑠衣華を囲むグループの中でもひときわ派手な女子がそんなことを言った。
(いやいや君たちが知らないだけで、赤坂さんは中学まで本好きのオタク少女だったんだから)
「あ、いや……なんかね、勧誘されてたまたま入ったって言うかね……」
瑠衣華は顔を引きつらせて、そんな言い訳をしている。
(嘘つけっ!)
一匠は秒で、心の中でツッコむ。
中学でまだ二人が付き合っていた頃に、瑠衣華は高校に入ったら文芸部に入るのだと、瞳をキラキラと輝かせていたじゃないか。
──進学先高校の文芸部にはラノベの蔵書がもの凄く充実している。
どこから仕入れたのかはわからないけれども、瑠衣華はそんな情報を教えてくれた。
毎月ラノベを買うことで小遣いがひっ迫していた瑠衣華からすると、そこは天国のように思えたに違いない。
だから高校に進学してすぐに、瑠衣華は文芸部に入部した。いそいそと文芸部の部室に一人で入って行く瑠衣華を、一匠はたまたま見ていたので間違いない。
オタク少女であった過去を隠したいくせに、ラノベ愛は手放せなくて文芸部に入る。思ってることとやってることがちぐはぐな感じだ。
(うーん、女心はよくわからん)
「ああ、どうしよー 今から掃除に行って間に合うかなぁ?」
瑠衣華は困った顔をして、なぜかチラッと一匠の方に視線を向けた。
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