第6話:ありがとうございます。白井くんって優しいんですね
先生に用事を言いつけられた
「ありがとうございます。白井くんって優しいんですね」
「あ、いや……普通でしょ」
「いいえ。優しいですよ」
理緒は一匠の顔を見つめて、それはもう天使のような微笑みを浮かべた。
こんなに美人で、こんなに清楚で、こんなに優しい笑顔と言葉。クラスの男子たちが絶賛するのも納得だ。
こんなに人気の理緒が、好きな男子に気持ちが伝わらないなんて悩むだろうか?
そんな疑問が一匠の頭に浮かぶ。
「あの……白井くん? 私の顔に何か付いてますか?」
一匠が理緒の顔をぼんやりと眺めていたものだから、彼女は怪訝に思ったようだ。しかし決して不快な顔はせずに、優しい笑顔で一匠に問いかける。
「あ、ごめん。つい……」
「ふふふ。謝らなくてもいいですよ」
頭を掻く一匠に、理緒は楽しそうな笑顔を向けた。
(うーん……なんだかちょっと調子が狂うな。青島さんといる時に、あんまり恋愛相談サイトのことは考えないようにした方が良さそうだな)
一匠はそう自分に言い聞かせた。
「白井くん、ありがとうございます。お言葉に甘えて、ご厚意は素直にお受けしますね」
「あ、うん。行こうか」
「はい」
廊下を理緒と並んで歩いていると、何人もの男子が……いや女子までもが理緒の姿を憧れの眼差しで眺めるのに一匠は気づく。
(やっぱり青島さんって凄いな。こんな女の子が好きになる男子って、いったいどんな相手なんだろうか?)
素朴な疑問がふと浮かんだ。しかし自分じゃないことは確かだなという結論が頭に浮かんで、一匠はそれ以上そのことについて考えるのをやめた。
職員室に行くと、2人は担任教師の机の上に
一匠が両手で持ち上げると、ずしりと重みを感じる。男子にはそれほどでもないが、女子には結構荷が重いんじゃないか?
一匠がそう感じるような荷物だ。
(山本のやつめ。こんな重いものを青島さん一人に持たせるつもりだったのか?)
一匠は担任教師に、少し怒りを感じる。
「あ、白井くん。私も手分けして持ちますよ」
一匠が眉間にシワを寄せたのを、理緒は書類が重いからだと勘違いしたのだろう。申し訳なさそうな表情を浮かべて、一匠に向かって両手を差し出した。
「全然大丈夫。気にしないでいいよ」
「本当ですか? 無理をしないでくださいよ」
「いや。無理なんて全然してないし。ほら、このとおり」
一匠は笑顔で、両手の書類を軽々と上下に揺する。それを見て理緒は、ホッとしたような顔になった。
「さすが白井くん。男の子、ですね」
(うっわ、この笑顔とセリフ。こんなの見せられたら、たいがいの男はキュンと来ちゃうよな)
──中学の時にいきなりフラれるなんて、あんな経験をした自分だからこそ勘違いはしないけど。
一匠はそんなふうに思いながら、理緒に笑顔を返した。
教室に戻り、一匠は教壇に書類を置いた。二人とも席に戻り、カバンから弁当箱を取り出す。
周りのみんなは既に弁当を食べ終わっている者、もうすぐ食べ終わる者ばかりだ。
(俺はいつも一人で弁当を食べているから何の問題もないけど、友達が先に弁当を食べている青島さんはかわいそうだよなあ)
そう思った一匠が理緒が手にした弁当箱に視線を向けていると、理緒はその弁当箱を少し持ち上げて一匠に微笑んだ。
「お弁当……一緒に食べます?」
──あわわ。いくらなんでもそれはまずい!
一匠の頭に浮かんだのはそれだった。
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