第3話 領主との取引
股間の痛みから解放された男性は再び檻の前に立っていたが、こころなしか先程より檻から離れている様であった。男性は目の前檻の中で未だ威嚇を続ける天使と隣の檻の中で土下座を続ける勇者の二人を暫く無言で目線をおくっていた。
(魔法も魔力も聖剣さえ使えない今、【アイリス】の暴挙によりこれまでの世界以上に状況は最悪だ!)
勇者は冷や汗をダラダラと流しながら力を封じられた現状で目の前の男性の逆鱗に触れないように全身全霊の土下座を披露していた。そんな中目の前の男性は勇者とアイリスという名の天使に対し言葉を発した。
「私はこの辺りの領主【バッカス】と言う。」
(あ、これおわったわ。)
男性がこの地の領主と名乗った刹那、勇者は土下座の態勢のまま自身の首が落とされるイメージをしながら表情から感情が消え失せた。そんな勇者の思いを知らずに隣の檻からアイリスはバッカスに再度言葉を放った。
「王様だろうと領主だろうとこの世界を救いに来た私達をこんな場所に閉じ込めるだなんて、頭おかしいんじゃなの!?しかも天使である私にこんな手枷まで付けて!どういうことなのよ!?」
(街を滅ぼすだの、門番に魔王みたいな事を言えばそうなるよ。むしろバッカスと名乗った領主の背後に控えるその門番の一人がさっきから武器構えてるのがみえてないのか?頭おかしいのお前だよ!)
アイリスの発言に勇者は若干なげやり気味に胸のうちでつっこんだ。
「うぉっほん!あー、君達が門前でした発言の全てを聞かせてもらった。」
(君たちって?俺終始無言だったのに二人組の括りであのバカ天使と一緒にされる事がこんなに迷惑に感じたのは初めてだ!むしろ俺は冤罪のような気がしてならないのだが!?)
領主の発言は、既に土下座から正座に態勢を変えていた勇者の琴線に触れかけていた。
「君たちが発した言葉はこの国において脅迫罪にあたり、れっきとした罪になる。しかし、この国には王の御意志により、罰則金を払う事で罪を償う法がある。」
「本当ですか?!なら罰則金を払い切れば罪が免除されるって事ですか!?」
バッカスの言葉に希望を懐いた勇者は言葉を返した。
「さよう。君たちが行った脅迫罪は内容によりいささか重くはなったが、罰則金で言うなら金貨40枚と言った所だな。」
「金貨40枚?すいません、俺達この世界の事に疎いんですが、それって具体的においくら程なんでしょうか?」
勇者の問いかけに門番が答えた。
「金貨1枚で銀貨10枚分、銀貨1枚で銅貨100枚分だ。ちなみに民が1日に稼ぐ平均賃金は銅貨6枚から8枚程だが、冒険者などは討伐クエストの難易度に応じて高価なものであれば、一度で金貨や銀貨を貰える物もある。」
門番の話しを聞き勇者は少し安堵していた。
「そうですか!確かに大金ですが、俺達なら高難易度の討伐クエストでもいけると思いますのでそれなら!」
「そして、領主である私に対しての暴言や暴行はこの地を王より任された私だけでなく王に対しての離反ともみなされる重罪!たとえ他所からこられた旅人だろうとも、国の領地に入るからには国民や領民と同様に同じ法の下にある。よって、罰則金は先程の脅迫罪の分と合わせて金貨240枚となる!」
「なっ!?」
バッカスの放った言葉により勇者は固まった。
「何よそれ!?そんなの横暴じゃない!この世界を救う為に来たのに訳の分からない罪だの罰則だのおかしいじゃない!?」
「貴様、領主様に向かって更に暴言をはく気か!?場合によっては即座に処刑してもよいのだぞ!!」
アイリスの言葉に門番が反応したが、勇者が瞬時に門番とバッカスに向けて言葉をはっした。
「イヤイヤイヤめっそうもないです!!でも本当にこの世界に来たのはつい先程で、この世界の通貨すら知らないものですぐにお支払する事は出来ないんですが、必ず罰則金はお支払出来るとお約束しますのでどうかここから出してはいただけませんか!?」
勇者は必死な形相でバッカスに懇願した。暫く思考を巡らせたバッカスは二人にある提案をした。
「王が定めた法はこの国の礎となりえる人材を簡単に失う事を嘆いてである。君達が所持していた剣を見せてもらったが、あの剣は国宝と言って申し分のない物であった。いささか信じがたい話しではあるが、君達が本当にこの世界に居る魔王を倒せる勇者というのであれば今首をはねる事はしまい。だが、その期限を半年とし、その間に240枚の半分の金貨120枚を集められればその話しを信じよう。」
バッカスの言葉に勇者は表情を明るくしながら再度問いかけた。
「じゃあ、一旦は解放してもらえるんですか!?」
「ああ。だがその代わりに、君たちが所持していた剣は担保として預かっておく。半年で金貨を120枚集めきったその時にあの剣をお返ししよう。」
バッカスの最後に発した言葉に勇者は再び思考と共に固まった。
「え、それって、どういう事ですか?」
「頑張ってくれたまえ!」
「ちょっ!?領主様ー!?」
バッカスは勇者とアイリスを背に門番を残し去って行った。勇者の発したバッカスを呼び止める言葉は地下牢に虚しく反響し消えていった。
「次期に領主様が監獄長とお話を済ませれば一時的に解放されるだろう!領主様からいただいた過大な恩情を忘れる事無く責務を全うするのだぞ!」
門番はそう言い残し、バッカスの後を追うように二人の前から姿を消した。暫しの沈黙の中で何処からか水滴が一定のリズムで落ちる音がその空間を支配した。
未だ意識を失ったかのように硬直する勇者に隣の檻からアイリスが声を掛けた。
「、、えっと?これって結局状況的に良かったの?悪かったの?」
アイリスは控え気味に隣の檻の勇者に問いかけた。
「アイリス。今俺に何も言うな。じゃなきゃ解放されて一番最初に俺はお前を討伐してしまいそうだ。」
「、、、ごめんなさい、、、」
地下牢に再び沈黙が訪れた。
最強勇者の憂鬱〈天使の度重なるミスで最強になったけど、仲間達がトラブルしか運んで来ないこの世界が一番キツイ!〉 アンドリュー @masatatu
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