第2話 檻の中の勇者
丘の上に召喚された勇者と天使は丘から見えた町に向かうべく森を抜け、町の入り口にある巨大な木製の門の前にたどり着いた。しかし、その入り口には鎧を身に纏った二人の門番が勇者と天使に向け何かを告げていた。その事に対して天使は半ギレで門番にくってかかっていた。
「だからもう一回言うけど!私達はこの世界を魔王から救うために異世界から来たばかりで、身分を示す物はこの勇者が持つ聖剣だって言ってるじゃない!?」
天使は二人の門番に勇者が所持する【魔王殺しの聖剣】を身分証代わりに見せていたが、身分証が無く訳の分からない事を口にする天使に対して不審に感じていた。
「何を訳の分からない事を言っとるんだ?そんな刀土産屋に幾らでもあるし、勇者だの天使だの言っとる者を入れる訳にはいかん!大体身分証が無いなんて怪しいにも程があるだろ?」
「そういえば最近近くの森が全焼する事件があったけど、もしかしてあんたらの仕業じゃないのか?目撃者の証言では男女二人組が森に火を放ってたらしいし?」
勇者は天使の背後で荒ぶる天使の動向を見守っていたが、悪くなる状況に加え、身に覚えの無い罪をきせられかけている事に胸中で独り言をぼやいていた。
(こんな一見平和な世界でよく初っぱなからトラブルを発生させられるものだな?これ以上問題が増える前に俺の聖剣早く返してほしんだけど?)
そんな勇者の思いとは裏腹にヒートアップし続ける天使は半ギレからガチギレし、門番二人に高らかにいい放った。
「だからさっきこの世界にたどり着いたばかりなのにそんな事するわけ無いでしょ!?ていうか私達が本気になれば森が全焼するだけじゃすまないわよ!!こんな町の一つくらい直ぐに消し去る事だって簡単なんだからね!!!」
「ちょっ!?お前何言ってんだ!?」
天使の発言に焦る勇者だったが、時すでに遅く二人の門番は二人に対し完全に不審者を見る目に変わり、先程天使から渡された勇者の聖剣を没収し、二人は町の中にある牢獄に捕らえられてしまった。
「ま、まあ町の中に入れた事だし、計算通りね!」
隣合わせに入れられた牢獄の中から天使は強がりな言葉を隣の檻の中にいる勇者に投げ掛けたが、勇者は天使に対し感情を爆発させた。
「なーにが計算道りだ!?俺の聖剣を没収されて魔法を封じる手枷までされ檻の中から一体どうすれば旅が始められるって言うんだ?!毎度毎度お前のミスで割に合わない事態に陥ってきたが、こんな平和そのものの世界で一発目に何で投獄されなきゃならんのだ!?俺まだこの世界に来て一度も聖剣を抜いてすらないのに何故不審者としてお前と共に仲良く投獄されとんじゃ!?理不尽すぎるだろーが!?」
勇者のガチギレに、隣の部屋の天使はその場で膝を抱えてかなり落ち込み無言になってしまった。
「ごめんなさい。私なりに一生懸命やってはいるんだけど?何故か上手くいかないのよね?もう私は何もしない方が良いのかもしれないわね?」
壁により天使の今の表情こそ見えないが、勇者は予想以上に落ち込む天使に少し罪悪感を懐き、落ち着かせるようにフォローを入れた。
「まっまあ少し俺も言い過ぎたところがあったし、お前が一生懸命にしてるのは知ってるから、そんなに落ち込むなよな?今までもっと過酷な状況を乗り越えて来たんだし、何とかなるよ!」
勇者の言葉で復活した天使は、何故か先程より元気になっていた。
「そうよね!!失敗は誰にでもあるんだからくよくよしててもしょうがないわよね!!」
(こいつ元気になるにも加減がないのか?さっきよりも元気過ぎる今の状況は今までの経験上かなり【ヤバイ】!!??)
天使の華麗なる復活を不安に感じていた時、先程の門番の一人が貴族の様な50代程の品のある男性と共に勇者と天使の檻の前まできた。最悪なタイミングで現れた来訪者に勇者は胸の内で念仏の様に天使が何も粗相を仕出かさないように祈っていた。
「こちらが町への入国を求めてきた二人組ですが、その際『この町を消し去る』などと申していたため、先程お見せした剣を没収し、投獄している状態です!」
門番は貴族の男に二人の投獄に至った経緯を簡単に説明した。その説明を聞いた貴族の男性は、冷や汗を流しながら愛想笑いを浮かべる勇者を一瞥した後、捕らえられた猛獣の様に〈ガルルルッ!〉と唸りながら威嚇している天使に目をむけた。その様子を見て何かを喋りかけた貴族の男性に天使は鉄格子の間から全力で男性の股関に蹴りを入れた。
「ホグゥッ!?!?」
天使の蹴りが股関にクリティカルヒットした男性は、奇声を上げ檻の前でうずくまってしまった。その光景に満足気味の天使を他所に隣の檻から股関に放たれた蹴りを目撃した勇者は心の中で叫んでいた。
(なーにしとんじゃあのバカ天使はー!!??)
「ふん!私達はこの世界を救いに来た勇者と天使よ!!控えなさい!!」
「お前が控えろバカ天使!!これ死罪になりかねないだろうが!?どうすんだよ!?貴族っぽい人未だに涙目でピクピク痙攣してんだぞ!?産まれたての小鹿以上に小鹿みたいなんだぞ!?」
二人がやり取りをする中、未だうずくまる男性に門番は声をかけ続けていた。
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