第5話始めての幸福

 朝……。窓から強い日差しが流れ込んできて、私は重たいまぶたをこすり目を覚ます。一日の始まりを告げる鳥の鳴き声がして、私はまた憂鬱な気分になる。またいつもと変わらない嫌な一日になるとわかっているのだから、陰鬱いんうつな気分にならざるおえない。

 私はガチャリと自室のドアを開け部屋の外に出ると洗面所に向かおうとするが、その中間地点ぐらいにある玄関で母様が何やら家族以外の男性と会話をしている。気になった私は、そっと柱の陰に隠れて聞き耳をたてる。

 相手の顔ははっきりと見えないが、服装は小汚い。というかそもそも、なんでこの男性ひとはこんなところにいるのだろう。男の人はある一定の年齢まで達したら強制的に戦争に向かわされるはずなんだけど……。

 そんな疑問を持ちつつも、私は盗み聞きをすることに注力する。しかしあの二人があまり大きな声で話していないことと、ここから玄関まで少し距離があるということがありあまりよく聞こえない。

 ちろっと陰から二人の様子を見てみると、何やら母様が笑っていた。談笑しているのかな……? そして母様の笑いが収まると、私の方を向いてきた。


「あらカリーナ、そんなところにいたのね。ちょっときてちょうだい」


 そう言って母様は私に手招きをしてきた。怪しい男の人と母様の元へなんて正直行きたくないが、こばむことはできない。柱から顔を覗かせていた私は、ゆっくりと体を出すと、前へ歩いていく。母様の元へと着くと、母様は私の頭を撫でながら。


「いい子ねカリーナ、昨日はごめんなさい。お母さん昨日はどうかしてたわ」


 そんなことを言ってきた。母様はどうしたんだろう? 今までこんなことなかったのに。多分初めて謝罪された。そして……初めて頭を撫でられた。正直嬉しい。すごく嬉しい。思わず顔がほころんでしまう。


「いえ、全然気にしてませんから」

 

 笑顔でそんなことを言う。すると母様も笑い返すように、優しい笑顔を返してくれた。もしかして本当はいい人だったんじゃないか。今までは誰かに洗脳されていて、この男性ひとがそれを解いてくれたんじゃないか。

 そんなことを考えてしまうほど、今はとても幸せだ。母様は私の頭から手を離すと、申し訳なさそうな顔になり。


「ごめんなさいカリーナ。これから私とアレンは少しの間家を開けるのよ。でもカリーナ一人この家に残しておくわけにはいかないでしょ? だからこの男の人に少しの間カリーナのお世話を任せたのよ。ごめんなさいね、あなたを置いてってしまって」


 そんなことを言ってくる。私はそんな母様に満面の笑みで。


「わかりました!」


 と、元気よく返す。それを聞いた母様は、男性によろしくお願いしますと頭を下げる。それに続くように私も頭を下げると、男性は口元のヒゲをじょりじょり触りながら、「わかりました」と言って玄関を出て行った。

 私も靴を履いて玄関を出て最後にもう一度母様に手を振ると、母様も手を振り返してきてくれた。そしてピシャリと玄関が閉まるのを見届けた私は、その男性の後を小走りで追いかける。

 この男性に聞きたいことは多々あるが、今はそれよりも母様の温もりを感じていたかった。ふふっと笑みがこぼれ、私はまだ余韻よいんに浸るように先ほどの母様の手の感触を思い出す。

 この後すぐに直面する事態に絶望することになるなんて、知りもせずに……。





















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